第34話 思い出の地とオーパーツ?

「ママとパパはいなくても、二人の姿を見られる板が欲しい」


 突如そんなことを言われても、俺からすりゃなんのこっちゃだった。


 両親の死を割り切れたわけではないのだろうが、だからといって、ショックからおかしなことを言い出したというわけでもなさそうだ。


 じっと俺の目を見据えて頼んでくるヨバナちゃんの表情は真剣そのものだった。


 子どもの戯言と笑い飛ばすことはできなさそうだ。


「その板ってのが、今ヨバナちゃんが持ってるものと関係あるのかな?」


「そうなの。でも、ルリヤちゃんは知らない? 思い出が映る板」


「思い出が映る板? 見ればわかるかもしれないけど、残ってたりしない?」


「実物はきっと、家で下敷きになってて残ってないかな……」


「そっか」


 板って言われても、正直俺が思いつくのは木の板くらいのものだ。


 木の板を除けばあとはまな板とか、そんなところじゃないか?


 発想が貧困と言われればそれまでだが、板なんて日常生活でそうそうしっかり見るものでもないだろう。


「多分、知らないと思う。推測になるけど、ヨバナちゃんたちの村、独自の文化だと思うよ」


「そうなんだ……」


 俺の言葉に、ヨバナちゃんはさみしそうにうつむいた。


 ようやく見えかけてきた光明だろうから、ここでのショックもそこそこあるだろうが、嘘をついても傷つけるだけだろう。本当に思い至らないし。


 ただ、重要そうなアイテムだ。このまま流すわけにもいかない。


「それはどんな板だったの?」


「わたしの手より大きくて、うーんと……。大きさはこれくらい」


 と言って、ヨバナちゃんが渡してきたのは、ちょうど手近にあった、それこそ木材の端みたいなものだった。


「こんなのに、ピカーって昔見たものが映し出されるの」


「これに昔見たものが映し出される……?」


 なんだろう。馬鹿みたいにおうむ返しにしてしまったが、とても近いものを俺は知っている気がする。


 今の胸、いや、俺が高校生だった時に両手を広げたくらいの大きさの板に、映像が映し出される……。


「スマホ。いや、タブレットか!」


「すまほ? たぶれっと?」


「えっと、名前はいいんだ。なんとなく似たものを思い出せた。これはいい例えだよ」


「本当?」


 嬉しそうに、えへへ、とはにかむヨバナちゃん。見ているだけで幸せな気分になってくるが、気を緩めてせっかくつかんだヒントを手放したくない。


「そうか。つまり、記憶のタイムシフトみたいなことができる魔法? があるのか?」


「えっと。えっと」


「あ、ごめん。わかんないよね。こっちの話。かいつまむと、それがあれば、ヨバナちゃんのママとパパを見ることができるってことでいいんだよね?」


「そう!」


 ようやくヨバナちゃんの言いたいことがつかめてきた。


 それに、ここまでくれば乗りかかった船だ。


 当然ながら、そんな板の存在を放っておくわけにはいかない。もしかしたら、本当にスマホやタブレットかもしれないのだ。そんなもの、探しに行かないなどできるわけがないだろう。


 しかし、家を見た限り、転生者に関する情報は何も残っていなかった。これも板がある遺跡に残されているのか確認しなくてはならない。口伝だった可能性は頭の片隅にでも置いておこう。


 ヨバナちゃんに聞けば、そのことも教えてくれちゃいそうだが、これは後でいいだろう。


「えっとね。その遺跡には、ご本もいっぱいあったよ? だから、ルリヤちゃんが探してる情報もあるかも」


「そうなの?」


「うん。だから、お願い!」


 どうやら、あまりにもどうするか決めかねているから、追加の情報で誘うようにさせてしまったらしい。


 こうなると、転生者に関する情報は本格的に遺跡にあると判断して良さそうか。だとしたら余計聞くのは後だ。


 本となると、老人のいたダンジョンにもなかったし、行ってみる価値が爆上がりだな。


「わかった。俺でよければ手伝うよ」


「本当!? ルリヤちゃんが一緒なら百人力だよ!」


「あはは」


 そう言ってもらえると嬉しいが、幼女に満面の笑みで喜んでもらえるほど、俺の実力が通用するような場所かどうかまではわからない。


 ヨバナちゃんのご両親が管理できる遺跡だから、危険はないかもしれないが、それもやっぱり直接知らない以上断言は危険だ。


「頼んでるんだから、わたしも一緒に行くからね」


「ああ。また案内は任せた」


「任せて!」


 しかしそれなら、方向感覚に優れているから、ヨバナちゃんのご両親はそんな遺跡の管理を任されていたとかか?


 そういえば体力もあったみたいだし、代々受け継がれている能力だったりして。


「ヨバナちゃんは行ったことあるんだよね」


「うん。何回か」


 なるほど、それなら案内も任せられる。


 それに、大事なことってのもわかる気がする。今となってはいないご両親との思い出ってわけだ。


「じゃあ、遺跡がどんな場所か知ってるわけだ」


「うん。キレイな場所だったよ」


「キレイな」


 キレイな遺跡ってのはちょっと想像できないけど、それはつまり、幻想的ってことなのか?


 もしくは、オーパーツ的な? 技術の面から考えてもわからないでもないな。


 ただ、聞きたいところはそこじゃない。


「危険とかはあった? 怪我したりとか、何かに襲われたりとか」


 移籍というくらいだから、侵入者に対する防護策が施されていてもおかしくないものだろう。


 かのピラミッドも現代からすれば遺跡の類だが、侵入者の侵入を防ぐ策が講じられていたはずだ。


 もっともピラミッドに関して言えば、それすら破って入ったとかいう話だし、墓荒らしが敢行されてしまったのではなかっただろうか。


 それを思えば、そこらの遺跡の防護策くらいなんとかなるだろうが、知っているなら知っておきたい。


 俺の質問に対するヨバナちゃんの回答としては、


「魔物がいたかな」


 ということだった。


「ゴーレムってママたちは呼んでた」


「ゴーレムか」


 遺跡にゴーレム。なんだかそれらしくなってきた。


 神秘的な遺跡に、それを守るゴーレム。


 たしかに、そうして見てみると、壊れてしまったネックレスも、まるで伝説の紋章のような特別な形をしている気がする。


 なるほど、遺跡と言われるだけあって特別な場所ってのは本当みたいだ。


 ゴーレムは強敵そうだが、俺のスキルなら隙をつけるんじゃないだろうか。


「他に何か知ってることはないかな?」


「うーん。あとはない、かなぁ……。あ」


「なに?」


「魔法使いが住んでたんだって」


「魔法使いが住んでた?」


「そう。昔々のお話だけどね」


 ますます雰囲気が立ってくる。


 やはり、転生者も馴染みのない環境ではなかったのだろう。


 となると、村にぶつけられなかった期待が、ますます遺跡に対して向けたくなってくる。


 その本とやらの情報は大層貴重な情報に違いない。


「わたしの情報、役に立ちそう?」


「ああ。すごく立ちそうだよ」


「よかった」


「そうと決まったら、今日はゆっくり休んで、明日から遺跡を目指そう」


「え、寝ていいの? ここ、大丈夫かな?」


「大丈夫大丈夫。魔物とか来ないと思うけど、俺にはとっておきがあるから安心していいよ」

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