第35話 俺たちの警備兵
というわけで、約束通りぐっすり休んだ。
当然、危険は何もなく、普通にぐっすり眠ることができたわけだ。
天華は床に転がして、俺も床で寝て。としてもよかったのだが、ヨバナちゃんがそれを許してくれなかったので、ご両親のベッドをお借りした。そのうえで、ヨバナちゃんにはいつも通り寝てもらった。
無論、夜の見張り番がいないボロい村の跡は、警備隊がいない以上、簡単に外敵の侵入を許すわけだが、俺がそんなものの侵入を許すわけがないのだ。
「すごいね。何にもなかったよ。いつもは誰か見回ってて安全だったけど、今はいないのに。すごい!」
この反応を見る限り、どうやらヨバナちゃんもぐっすり眠ることができたらしい。
「だろ?」
「どうやったの?」
「それは、おいおいな」
「?」
どうせ外に出たらすぐにわかることだ。もちろん、俺のオーラとかではない。
さて、ヨバナちゃんも寝れたみたいでよかったのだが……。
「もう、ダメだよお兄ちゃん。そこは、ああ!」
「……」
天華は起きなかった。
起こしてもいいのだが、ここはここにいてもらうことにしたい。
「いいの? 置いて行って」
「なんだかんだ疲れてるだろうからな。こういう世界では、寝れる時に寝とくのがいいんだよ」
まあ、いつでも寝れたニートが言うなと言われそうではあるが……。
なんにせよ。正直これ以上今の天華をヨバナちゃんに見られたくないし、こいつは置いていく。いなくても遺跡の方はなんとかなるはずだ。
準備も軽く済ませたし。
「用意はいいか?」
「いいよ? でも、一つ聞いていい?」
「なに?」
「ずっと思ってたんだけどさ」
そう言いつつも、まだ言うか言うまいか悩むように、少女は視線をキョロキョロとさまよわせている。
「気になってることなら解消しておいた方がいいと思うよ?」
「そうだよね。うん」
俺の言葉を受けて、ヨバナちゃんは意を結したようにうなずいた。それから、俺の目を見てきた。
「ルリヤちゃんてさ」
「うん」
「元は男の人なのに、服装がかわいいよね」
「そのことには触れないでくれ」
肉体的には同年代の女の子からもかわいいとか言われると、天華の判断が世間的な一般解みたいになりそうで怖い。
俺は男なのだ。それも、かわいくなりたいわけではない男なのだ。
「ちょっと着せてくれない?」
「え? ああ。そういうこと? それくらいならいいけど」
これも後にしようかとも思ったが、小さい子の機嫌というのは、山の天気のようにすぐに移ろう。
後にしようと言ってぐずられても困る。
ただ、小さい子小さいこと言っているが、ヨバナちゃんはそんなに小さいわけでもない。それに、この子は俺より聡明な子だ。だが、それでも一応念の為だ。
「えっと、このローブの方だけでいい?」
「うん! ……あれ」
「ん? どうかしたか? あ。これ、宝箱に入ってたやつなんだけど、もしかしてヨバナちゃんのだったりする?」
「ううん。違うよ」
「だよね。ほい」
「ありがとう」
何か気になってたみたいだけど、まあ服ってのは女の子の方が気になるだろうしな。
天華なんか、こっち来てから散々俺のことをもてあそんできたからな。まだそんなに着せ替えられていないだけで、これからを思うとゾッとする。
なんて、考えていると、ヨバナちゃんはすでにローブを羽織っていた。ローブだから簡単にまとえるわけだ。
サイズは小さいかと思ったが、俺が大きく着てるくらいだからちょうどよさそうだった。
「いいねこれ。ふわふわ」
「そこは俺もそう思う。着心地はめちゃくちゃいいんだよ」
着てたおかげでぐっすりだったんじゃないかと思うくらいには優秀だった。
まあ、見た目がもう少しおとなしければ普段使いできたんだけど、欲張りも言える状況じゃないし……。
「どう? 似合ってるかな?」
「ああ。俺より似合ってるよ。このまま着てく?」
「そ、そんなことできないよ! それに、ルリヤちゃんより似合ってることはないよ。ルリヤちゃんかわいいもん」
「う、それは複雑だな」
ヨバナちゃんなりの謙遜なんだろうけど、それにしたって複雑だ。
まあでも、今の特殊な状態のせいってことで、
「その言葉はありがたく受け取っておくかな」
「受け取っておいて。ルリヤちゃんかわいいもん」
「気に入ったのか? その言葉」
「うん」
「そりゃどうも」
ひらひらとさせてくるくる回りながら、楽しそうに自分の姿を眺めているのはとてもほほえましい。
ヨバナちゃんのご両親は、きっとこんな娘の姿を見たかっただろうと思うと、無念な気持ちになってくる。
その分、俺が代わりにしっかり見ておいてあげよう。
「ありがと」
「え、もういいの?」
覚悟をしたすぐのことで、あまりにさっぱりした対応に俺の方が驚いてしまった。
気づけば脱いで俺に渡してきていた。
「うん」
ヨバナちゃんの返事もあっさりしたものだった。
子どもの飽きは早い。
鏡もないしこんなものか。
「それじゃあ、準備もできたし行こうか」
「そうだね」
俺は家の扉を開けて外に出た。
一番近くにいた。羊の頭を撫でてやる。
「ご苦労」
「え? なになに? なんでいるの? なんで撫でてるの?」
「ふっふっふ」
その反応がほしかったのだ。
「これこそが安全に眠れた理由だよ。これは俺の能力の一つ。動物を操れるの能力さ」
「かわいい!」
「だろ?」
俺のとっておきだ。
別に、女の子を落とすために身につけた能力じゃないが、打ち解けるためにはいいはずだ。
まあ、ヨバナちゃんの怒りは誤解だったし、そもそも彼女はいい子だから、あんまり必要そうでもないのだが、この感じなら嫌いで嫌いになられるってことはなさそうで安心した。
「触っていい?」
「いいよ」
「もふもふだぁ」
俺としては幸せそうに動物とたわむれるヨバナちゃんの方に癒されるが、いかんいかん。なんか天華の性癖が移っている気がする。俺がやったら危険なんだって。
「ほーら。クマさんだよ」
「おっきい! すごい! でも、触っていいの?」
「大丈夫だよな?」
俺の問いに、中に人間でも入ってるように、こくこくクマはうなずく。
さてはこいつも天華に感化されてるんじゃないだろうなと思うが、お腹を撫でさせるだけで、クマ自体はベアーハグはしなかった。俺よりよっぽどファンとの接し方をわきまえてやがる。
「で、慣れたリスさんだな」
「すごい。手に乗ってるところ初めて見た。うわ! わたしの方にも来てくれるの?」
あはは。きゃははと、昨日までの神妙さも忘れたようにヨバナちゃんは笑ってくれた。
羊だけでなく、クマやらリスやらとも触れ合って、これでようやくヨバナちゃんにもやる気がチャージされたらしい。
「レッツゴー! だよ」
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