第36話 遺跡へゴー!

「こほん!」


 というヨバナちゃんのかわいらしい咳払いで案内スタート。


 ダンジョンとは全く別方向だった。


「さ、さっきのは忘れて」


「え。さっきのって?」


「さっきのはさっきの!」


 お気に召したのかと思ったが、ヘニャヘニャの幸せそうな顔は真っ赤に染まっている。


 どうやら、あんな甘えた姿を人に見せたことはなかったと見える。


 まあ、俺も逆の立場だったらと考えると恐ろしくて背筋が凍る。


「わかった。忘れるね」


「え、いや、そんなすぐに忘れなくても……」


 今度は忘れられるのが悲しかったのかしょぼんとした。


 子どもの感情は移ろいやすい。のか?


「本当に忘れたわけじゃないから」


「そ、そうだよね!」


 さらに今度はルンルンとした足取りに戻る。


 なんだか含みがある天華と違って、感情が表に出やすくなった気がする。


 俺の実情を知り、色々と能力があると知ってもらえたから、少しは安心してくれている、ということなのだろう。そう思いたい。


 実際、俺の足取りも軽い。天華を背負わなくてよくなったからな。


 それでも、行き先は俺の全く知らない場所なので、案内誘導は任せることとなっているわけだ。


「この先に遺跡があるの?」


「そうだよ。ここ、人が通ってたから道が残ってるでしょ?」


「たしかに、村へ行く時よりも歩きやすい」


「そうなんだよ」


 俺より詳しいことが嬉しそうに、慣れた道を我が物顔で歩いている。実際そうなのだろう。実に歩き慣れている感じだ。


 きっと、ご両親と何度となく通った道なのだ。


 ヨバナちゃんの言う通り、獣道というか、人の通っていた道って感じだ。


 やはり、時間の経過はあるようで、多少は自然に戻り、草も生えようかという雰囲気はあるが、長年踏み固められた地面からは、そうそうタネも芽吹かないらしい。未だ、道として機能している。


 これだと、ダンジョンに関しては、一応方向を知っているというだけで、全くと言っていいほど用はなかったのだと見受けられる。それもそうか。あんな危険な場所、冒険者でもいなければ用はない。


 そう思うと、小さな村だったからかもしれないが、冒険者ギルドのような施設は残骸としても見なかった。


「ヨバナちゃん」


「なあに? ルリヤちゃん」


 村への道の時よりも楽しげに、少女は隣に並んできた。


 やっぱり前を歩くと小さな俺がついてきていないか心配になるらしい。時折ちらちら振り返ってくれていたが、俺の隣に落ち着いたようだ。


 今は天華という目立つお神輿も担いでいないので余計だろう。


「えっとさ。ギルドとか冒険者みたいな人たちって村にいた?」


 たしか、見回りとか、番兵みたいな、村を守る自警団みたいな人たちはいるという口ぶりだったはずだ。


 そういうのとは違うのだろうが、この世界観なら、存在していてもおかしくないと思う。いやしていてくれ。


「うーん。村にはいなかったかな」


「そうなんだ。村には」


「でも、宿はあったから、その宿に時々外から来た旅の人とかが泊まることはあったよ?」


「ああ。そういえばそんな話もあったな」


 今となっては何もないと言ったら失礼だが、村には何も残っていないので、ヨバナちゃんと一つ屋根の下寝てしまったわけだが、宿もあるって話だった。


 なるほど、別に冒険者はいないってわけでもないのだろうが、ギルドを利用するなら、また別のところで情報を集めないとダメか。


「ごめんね。お役に立てなくて」


「全然。知っての通り、俺は何にも知らないから、ヨバナちゃんの知識は頼りになるよ」


「そう?」


 えっへん。と胸を張ると、ぽんとヨバナちゃんはその胸を叩いた。


「頼れることは任せてよ!」


 そしてやっぱり、人に頼られるのが好きな子らしい。


 そんな動作がかわいらしい。じゃなかった。じゃないじゃない。


 しかしどうだろう。なかなか遺跡は見えてこない。


 小さい体だから歩幅も狭いし、走っているわけでもないからそんなに進んでいないのかもしれないが、俺としてはそこそこ歩いたように思う。


 流石に昨日と同じくらいとは言わないまでも、道が歩きやすい以上、村が見えないくらいには遠くまできた。曲がりくねってるからとか言わない。


「そうしたらヨバナちゃん」


「なになに!」


 俺が男と知っても距離感は子どもらしく近いヨバナちゃんは、顔を寄せて聞いてきた。


 いや、近づかれるとアレだ。この子やっぱりかわいいな。


 だから違う。


 ぶんぶんと頭を振って邪念を追い払う。


「どうしたの?」


「なんでもない。あのさ、遺跡ってどれくらいのところにあるの?」


「すぐだったよ?」


「じゃあ、もうすぐ?」


「うーん……」


 すぐだったと言う割には、腕を組み口を尖らせてヨバナちゃんは考え込むような仕草をとった。


「えっとね」


「すぐじゃない感じ? 大人の足ではすぐとか?」


「お馬さんに乗ってすぐだったよ? 歩いて行くとどれくらいかはわからないけど」


「え……」


 それやばくね?


 ウマですぐって、子どもの足じゃダンジョンと村より遠いんじゃないか?


 そもそもダンジョンと村の間だって、実はこっそり休んでたりするんだぜ?


 たしかに、道が良くて歩きやすいから進みが速いとはいえ、ウマと人間じゃそんなの誤算範囲じゃないか。


「あぅ……」


 俺のダンマリに怒られると思ったのかヨバナちゃんが小さくなってしまった。


 やっぱり、こういうところが俺のボッチたる所以だったのだろう。


「大丈夫大丈夫。移動手段があったなら、俺たちも使えばいいんだよ」


「でも、お馬さんに乗ってたんじゃなくて、その後ろの車に乗ってたんだよ?」


「ああ……」


 そこそこ現代的な乗り物だった。


 いや、それはなんか御者的なアレで移動してたのか? じゃあ違うのか?


 ただ、言われてみると、タイヤ痕というか車輪痕みたいなへこみがある気がしないでもない。納得だ。


「そこは気にしなさんな。またしても秘密兵器があるからさ」


 しかも、馬車が必要だったのはご両親が一緒だったからだろう。俺たちは幸いロリだ。そこはなんとかなる。


 村まで行く時に使おうと思って控えてたやつがある。


 あの時は天華もいたし、ヨバナちゃんとも今より距離があったからやめておいたが、今なら使っても大丈夫だろう。


「さあ、いでよ! その姿を現したまえ!」

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