第14話 妹よ……
様子のおかしくなった妹のことを強くゆすり続けた結果、
「はっ!」
と、天華は正気を取り戻してくれた。
「ロリと動物が戯れる天国は?」
正気を取り戻してくれなかった。
「ねえ、お兄ちゃん。いや、ルリヤちゃん」
「とうとう兄と呼ぶのをやめるな。もう少しがんばれ」
「うぅう。お兄ちゃんは幼女だけど、私のお兄ちゃんで。兄はロリだから」
「なんで混乱してるんだよ。リスを肩に乗せただけだろ?」
「それがダメなんだよ」
「えぇ……」
なんか肩をがっしりホールドされて目をまっすぐ見てきた。真剣そのものの目で見てきても、言ってること理解できないんだが?
いや、しゃべれるくらいに回復してくれたし、起きた拍子に俺に顔を埋めてきたのは見逃してやろう。
もしかしたら、警戒していたから、リスの方も何かして……、いや、魔獣じゃないしそんなことできないか。
なんにしても、このままでは天華のペースに乗せられてしまう。せっかく起きてくれたので、このまま引っ張って行こう。
「ほら、行くぞ」
「愛らしい。かわいい。もうダメ。好き」
「そんなに飼いたいなら時々呼んでくるから」
「え!?」
すっとんきょうな声をあげたせいでびっくりした。
「情緒不安定すぎないか?」
「も、もう大丈夫。限界。耐えられない。絵面がファンシーすぎて、心臓がいくつあっても、ああ、思い出すだけで、はあはあ。ふふっ。お兄ちゃん……」
「お前、大丈夫か?」
なんか、はあはあ言ってるんだが。
これは目を覚ましてないかもしれない。変な本ってのの中には、本当に変な内容の本も混じっていて、変な状態になっているとかかも。
ない。ないと信じたい。
「もう行くぞ? あんまりグダグダしてると」
「待って」
突然、天華は食い気味に言ってきた。顔つきも真剣そのものに変わっていた。
いくら顔つきを真剣なものに変えようとも、そうすればなにをしてもいいわけじゃないんだぞ、と言いたいところだったが、どうやらふざけてやっているわけではないらしい。
やっと冷静さを取り戻しただけでなく、呼吸も落ち着いたものに変わっている。おふざけできない状況に変わっているようだ。
そんな天華を見て、俺もシリアスモードへ移行する。
「どうした?」
「お兄ちゃんは感じない?」
「今は天華の体温が高くて、他のものはよくわからないな」
「それは、ごめん……」
本当に、顔つきを変えればいいと言うものではない。
待ってと言いながら、彼女は俺のことをハグでもするようにくっついてきていた。
先ほどまで、はあはあ言っていた彼女だ。動いてもいないのに体温が高く、くっついているとものすごく熱い。感じるとすれば、本当に彼女の体温くらいだ。
ふざけてないのは事実みたいだが、あいにくようやく戻ってきた真剣さを俺が拾ってやってるような状態だ。
それに、天華は何かを感じているとしても、俺は周辺を把握する魔法も使えないので、天華の感じている対象がわからない。
「天華は何を感じてるんだ? 敵か? 道具か? それとも、よくわからない何かか?」
「今のところ敵かはわからない。そこは多分、見てみないとかな。でも、生き物だと思う」
生き物。
しかし、先ほどのリスのようなその辺にもいる小動物や、少し探せば見つかるクマような猛獣といった、現実感のある動物を指しているわけではないのだろう。
それ以外の生き物。魔獣か、魔物か、はたまた人間、もしくは、それ以外の何か。
「どの方向だ?」
「山の下側。私たちが進んでいる方向、その先」
「なるほど」
今の俺はその方向に背を向けている。天華の体温を込みで考えても、どうなっているか把握するのは難しかったわけか。
警戒しつつ振り返って目を凝らして見るが、残念ながら目視できる距離に対象はいないようだ。
流石に、天華を危機に落とし込んでまで、先ほどのようにリスを呼び、偵察を依頼をするということはできそうもない。
天華がこの辺に詳しくないだけという可能性もあるし、警戒しすぎるのもよくないな。
「俺が先に行く。天華は少し距離をとって、後ろからついてきてくれ」
「でも……」
「いいから。ドラゴンを倒したのは俺だぞ? 何が相手でも遅れは取らない。それに、天華は後方タイプだろ?」
「……うん。そうだね。お兄ちゃんなら大丈夫だよね」
「ああ」
「……わかった」
俺の心配もあるのだろう、不祥不詳ながらうなずいてくれた。
まあ、なめられる見た目をしてるからな。こればっかりは仕方ない。
ただ、敵の方向と天華との距離さえわかっていれば十分だ。その二つがわかれば、天華を守りつつ戦う余裕がある。たとえドラゴンが相手でも、天華には傷一つつけさせない。
ぽんぽんと頭を撫でてやってから、俺の先導で山を進む。目指すはその存在。回り道して背後を取られるよりいいはずだ。目先の目標のためにも、ここはまっすぐ進む。
今までこの山には、俺をピンチにさせるようなヤツはいなかった。むしろ、そんなヤツには会いたいくらいだ。
動物の話では、この間のドラゴンやこの辺の魔物の危険度は、個体により街一つから国一つ潰す程度が多いらしい。流石にこれは言い過ぎだと思うが、こっちも俺を心配して、警戒してほしいということなのだろう。
だから、警戒はしつつ、いつでも動ける心の余裕も備えておく。
そうしながら歩みを進めていると、見えてきた。
それは、線の細い人型のシルエット。女性のような姿をした影。
なんだよ。話聞けそうじゃん。と俺はノリノリで人影に向けて走り出した。
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