第27話 お宝ゲットだぜ!
「ふふんふんふん」
宝箱を前にするとどうしてもソワソワしてしまう。
ゲームでも結構好きな場面だが、こっちの世界に来てからも、なんだかんだ宝箱を開けるのは初めての経験だ。ワクワクするな。
リアルに宝箱を前にしてみると、意外と大きい。小さくなったからだろとか言わない。元のサイズでもきっと大きかったのだ。とにかく大きいのだ。いいね?
そんな大きい宝箱をクルリと回してこちらを向かせる。
「うーん。回した感じ、特に音はしなかったな」
箱をゆすって中身を予想するというのはなんとも子どもっぽいやり方だったが、それくらい落ち着かないのだ。
しかし音がしなかったってことは、中に入ってるものは回転で側面にぶつかるような小さいものじゃない? いや、中にクッションとか敷かれてたらその限りでもないか。もしくは、魔法によって開けるまでは実体化しないとかそういう可能性もある。
ええい、ウジウジ考えていてもらちがあかない。念のためミミックには警戒しつつも、俺は勢いよくその箱を開けた。
「リボン?」
俺はその言葉と同時に、後ろ回し蹴りを放った。
が、対象へその足が当たることはなかった。鼻先をかすめる程度のところで見事にもかわされてしまった。
ミミックではない。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃん。まあ、私としてはお兄ちゃんのそういう反応も嫌いじゃないけどね」
「お前、色々言いつつやることは俺に後ろから抱きつくつもりだったのかよ」
「さーあ? 今抱きついてないんだから、そうとは言えないんじゃなーい?」
そう言いながら、天華は口を尖らせて息を吐き始めた。
背後から迫っていた謎の影は誰あろう天華だったのだ。
「下手な口笛で誤魔化そうとしても無駄だぞ」
「それで? 中身はなんだったの?」
「話をそらしたな? ったく……」
まあ、本題ではあるので俺もさっさと宝箱の中を見やる。今度は箱の方ではなく背後に警戒しつつ、だ。
が、中にあるのはリボンかと思ったが違った。
ピンク色で手触りがいい感じの、布か? 持ち上げてみてもよくわからない。
「なんだこれ?」
「きゃわー! 着て! ねえ着て! 着るしかないよね! お兄ちゃん!」
天華にはすぐにわかったらしくぴょんぴょん跳ねながら、着てと言いつつ着せようとしてくる。
「待て。これは絶対天華が着るやつだろ。どう見たって女のもじゃないか」
「ふふふ。そんなに真っ赤になって。絶対お兄ちゃんの方が似合うよ。それにほしがってたじゃん」
「赤くなってないからな。あれだ。これの色が反射してるだけだからな。あと、俺がほしがってたのはローブだ。こんなものじゃない」
「はいはい」
なんだか興奮してる俺がたしなめられたみたいになっているが、絶対天華が着るべきタイプの装備だ。俺じゃない。
ただ、クルクル回してみると、天華の指摘通り、それはいわゆるローブのような布だった。言ってしまえば上着の類だ。そりゃ、今着ている服装を隠すために欲していたものではある。
が、デカいリボンにピンク色のローブ。イメージとしては、それこそ魔法少女というか魔法使いの女性がまとっていそうな感じの、かわいいかわいいローブだ。
「着るでしょ?」
否定しているのに、ギン、と開いた目で天華は見てくる。いや、にらみつけてくる。
「これは天華のだよ。俺は天華に作ってもらうんだ。さっきまで着てたやつみたいな、布切れに見えるローブをな。そもそもそういう約束だっただろ?」
「でも、絶対こっちのがいいよ」
「かわいいのは嫌だって言ってるだろ?」
「えー。でも、さっきのは、はっきり言ってダサいよ」
「いいんだよダサくても。機能性だ機能性」
「機能性ねぇ……」
わかってないなぁと言わんばかりの表情で、天華はニヤニヤしながら俺を見てくる。
「女装は本当に勘弁なんだよ」
「男女とかそういう小さい枠はもう時代じゃないよ?」
「俺の好みの問題、趣味嗜好の問題だよ」
「でも、それなら本当に性能で選んでるの?」
「選んでるって。どっちも優れてるなら、そっちのがいいだろ」
「どっちも優れてるねぇ」
「なんだよ。やけにもったいぶるな」
たしかに、俺としては今すぐにでも着ている服をさらすのは避けたい。だらだら拠点を離れているからこそ、人の目に触れる可能性があるのだ。積極的にみせたいわけがない。
だからって、弱々しいままに戦う危険性も心得ているつもりだ。俺がやられたことはないが、魔物が魔物を狩っている瞬間は何度も見てきたからな。
「じゃあ、言わせてもらうよ? お兄ちゃんが持っているそれ、多分今用意できる一番のローブじゃないかな? 性能は私の作るものじゃ超えられそうもないくらいの上等な出来だよ」
「は? そんなわけないだろ? そりゃ寝巻きより肌触りがいいけど、天華の作ってくれた寝巻きだってやけに上質だっじゃないか」
「うーん。どうしたら伝わるかな……」
なんて悩むそぶりを見せたかと思うと、
「うおおっ!」
天華は突然、なんの前触れも、なんの躊躇もなく、俺に向けて全力の魔法をぶっ放してきた。
「は、は? おおお、お前。実の兄に対して何してくれてんの? 危うく骨も残らずに消されるところだったんだが?」
撃たれる側ってこんなに怖いのかよ。心臓だけでも消し飛んだんじゃないかと思ったわ。今もまだバクバクしてるし。全身に冷や汗が出てるのがわかるってマジで。
「こっわ。走馬灯見えた気がする。こういうことは言ってからやってくれよ」
「ほらね」
「ほらねじゃない。何がほらねなんだよ」
「あれ」
「あれ……?」
天華の指さす方向を見れば、天井。そこはゴリゴリに削られ、ポロポロと魔法の衝撃を物語るように崩れてきていた。
あれ? 衝撃を物語るように?
それこそ天華が真上に魔法を放ったかのごとき陥没というか穴が数メートルに及んで開いていた。
反射的にローブを掲げてしまったが、なるほど。俺の手にあるこのローブ、見た目に反しかなり強い。魔法の反射もできるかなりいい代物らしい。
「ね? お兄ちゃん。これで性能も一級品だってわかったでしょ?」
「うぅむ。天華の実力は知っているし。前衛は俺だからな。たしかに優秀な装備だ……」
「そうそう。私は何もかわいいお兄ちゃんを後ろから見たいだけじゃないんだよ? お兄ちゃんにはかわいく、じゃない、可憐、いやいや、無事でいてほしいんだよ」
「なんか本音が出てた気がするが」
「着て? 着ようよ。それでいいよね? いいでしょ? お願い」
「むぅ……」
性能は折り紙つき、肌触りも抜群。強いボスを倒した報酬としてはふさわしい逸品。
だが、俺がこれを着るのか……。
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