第16話 ダンジョンには……?
こそこそと、リスGPSを使ってダンジョンへ移動。
ある程度の期間生活しているはずなので、この辺の地形を知らないわけじゃないのだが、とはいえ、リスたちがいなけりゃ正確に移動することはできない。これまで、こっちの世界で目的地をもって移動したことなんてないから余計にそうだ。
まあ、グローバルなポジショニングなんてわかりっこないシステムなので、GPSなんて名前は気分的なものだ。
人という種族の話は、まだまだ遠くの情報みたいだけど、近くにあったのがダンジョンだったので、そちらを優先。
現状、人と遭遇すると、妹がノータイムで魔法を放つ危険があるからというのももちろんあるが、冷静に考えて、人里にあるような類の情報なら、異世界から人が来まくりだったことだろう。という予想もある。
つまり、わかりやすいところにはないだろうってわけだ。
「たしかにね。こっちの世界だったら、あっちと違って魔法が当たり前にある気がする。だって、向こうよりも魔法が使いやすいもん」
と天華も賛同してくれた。
「だよなぁ。魔法の使いやすさは俺じゃわからないが、以前、魔物が魔法らしきものを使ってきたことはあったからな。多分、そうなんだろう」
そう思えば、こっちの世界では魔法は日常と考えられていてもおかしなさそうだ。
動物たちからも、その辺は魔法でどうにかしたらいいのでは、と提案されるほどには、この世界の常識となっているものと思われる。
暗に、動物からすら魔法を使えないと馬鹿にされている気もするが、これはきっと俺の自意識過剰というヤツだ。天華じゃないが、かわいらしい彼らに皮肉を言われることはないはずだ。
まあもし、こっちの世界では魔法の普及率が高いのだとすれば、世界間移動が可能だと、その方法が魔法だと発表され、実証されれば、きっとノーベル賞ものだろう。
それだって、向こうじゃただの頭がおかしいやつ扱いで終わるように思う。まあ、こっちでもそんな権威ある賞があったとして、ノーベル賞って名前ではないだろうが……。
何はともあれ、ダンジョンだ。正直に言うと、こっちに来てから初めてのダンジョンでもある。
「なんかじめっとしてない? 本当にこんなところに魔法の情報なんてあるの?」
「ゲーム的に考えればヒントくらいあるんじゃないかと踏んでいる」
「お兄ちゃんが言うならそうなんだろうけど……」
これには流石の天華ちゃんも半信半疑といったところだ。
俺だって確証はない。が、それを隠さずに出してしまっては、兄として沽券に関わるから、おくびにも出せない。
まあ、今までのニート生活では、いわゆるドロップ品で生活ができていたので、わざわざ変な場所へ近づいて命の危険を高める必要がなかったのだ。
強いヤツに会いたいみたいな発言をしたかもしれないが、あれは冗談だ。俺は前も言った通り、バトルジャンキーじゃないので、できる限り危険は避けたい派なのだ。
そもそも夜目がきかないので、ダンジョンなんて覗き見だけだった。
君子危うきに近寄らずというやつだ。
が、今は状況が変わった。入るしかない。
「天華、頼む」
「本当に入るの?」
「入るから頼んでるんだろ?」
「わかったよ……」
そう、今は天華がいるのだ。天華の使う魔法の中には、色々と便利なものもあるらしく、暗闇を照らす魔法もあったようだ。
やけに慣れているけれど、今までどんな用途に使ってきたのかについては、なぜか教えてくれなかった。視線がじゃっかん下に逸れていたのはなんだったのだろう。
まあいい。天華がいるから魔法を使える。だからダンジョンでも活動できる。というだけでない。目標も変わった。天華を元の世界へ返すために、多少の危険を冒す覚悟ができたってわけだ。
「おお」
洞窟だというのに明るい。歩ける、入れる、見える。余裕でできる。
「すごいな魔法。なんでもできるんじゃないか?」
「なんでもはできないから、こうして元の世界に帰る方法を探してるんでしょ?」
「至極ごもっとも」
まあ、それ以外なら本当になんでもできそうな気がする。
さて、今回も俺は先頭。ここまで、ドラゴンの首を掻っ切ったくらいしか活躍していない俺なので、ここらで妹にかっこいいところを見せておきたい。
思えば、妹の力に頼りっぱなしなので、俺の立つ瀬がないのだ。無償の愛は嬉しいが、受け取ってばかりは心苦しいからな。
と思っていると、ダンジョンに入ってすぐ、天華は俺の肩を突いてきた。というか肩に手を乗せてきた。
「なんだ?」
「ねぇ、やっぱり元の世界に帰るための情報は、人のいるところにあるんじゃない?」
先ほどまでの俺の意見を真っ向から否定するように天華は言う。
その顔は目をつぶっていて、とても俺の勇姿を見るどころではなさそうだ。
「ひっ」
そのうえ、何かの物音のたびに俺の体にしがみつき、警戒するように周りを見ている
まだ入ったばかりだぞ。とは言えそうもない。なんだか切羽詰まった感じで怯えている。
そのまま天華は、ずるずると小さくなるようにかがみ込み、俺の腰にしがみつくような姿勢になった。
なんかこんな姿勢だと、小屋を出た時を思い出すが、今は意味合いが違そうだ。
天華はぶるぶると震え、つけた明かりは不安定になっている。
そういえば、天華の弱点は昔から閉所と暗所だったな。
「でも、人と話すのは」
「それはダメ!」
声を荒らげ、子どものように首を振る天華。否定されてしまった。
「だろ?」
「でも、ここは怖いよ」
「大丈夫だって。天華もすぐ慣れるから」
「お兄ちゃんは、私がこういうところダメなの知ってるでしょぉ?」
ひぃ、と悲鳴をあげ、音のした方を向いているが、やはり、目を開けることはできないらしい。
声まで震え、ダンジョンの湿り気のせいというより、妹の涙でじめついてる感じだった。
「そんなに嫌なら、入り口で待っててくれても良かったんだぞ?」
「それも嫌なの。お化けが出てきたら怖いもん」
「まあ、それは怖いな」
向こうの世界なら笑えるが、こっちだとお化けじゃなくても、お化けみたいな魔物とか普通にいそうだし……。
ただ、腰を掴まれていては動きにくいから、俺としても、明かりだけ飛ばしてもらって、一人の方がよかった説を唱えたいくらいだが、まあ、そこは妹、多少大目に見てやろう。
「ヒイ!」
再び悲鳴を上げる天華。むしろ、天華の悲鳴で驚くのだが、今回は特に何かがやってきた感じもない。音がしたわけでもなく、何かが近くを通った様子もない。
が、天華はたしか、遠くにいる誰かをあらかじめ把握できる魔法が使えたはずだ。
きっとそれの影響なのだろう。俺にはまだ見えていないが、何かが来ている。ほぼ一本道の入り口付近へと近づいてくる何か。
目の代わりに耳をすませてみると、カサカサ、コツコツと足音のようなものが迫ってきているようだ。
どうやら、何かがいる。
恐怖から、天華の俺を掴む腕の力が強まった。
さらに耳をすませてみると、何かを吐き出すようなシュルシュルという音が聞こえ、それを境に、俺の目にも赤く光るいくつもの目が視認できた。ようやく、敵の姿が見えてきた。
「ひい!」
再度の悲鳴では相殺できず、音は俺の耳にしっかりと聞こえるまでの大きさになってくる。
これはチャンスだ。天華が怖がっている今、俺がピンチから助け出せば、幼女姿でも見返すことができるはず。
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