第11話 妹を元の世界へ帰し隊

 帰すぞ! と意気込みはあれど、意気込んでみたけれど、俺はそのまま寝た。


 実のところ、妹の話を聞きながら、俺も半分くらい寝てたから、昨夜何があったのか、はっきりと覚えていない。が、妹は俺を追って、はるばる異世界までやって来たってことはなんとなく覚えている。


 おぼろげだが……。


 だから、俺はそんな妹を帰してあげたいわけだ。いくらニート生活をしていようと、現代の方が便利なことに異論はない。


 風呂だって、天華の魔法があったから、現代よりラクな感じだったが、普段はそういうわけでもない。


 というわけで、元の世界に帰りたくなったのだが、まあ、当然ながら、俺が帰れる方法を知っているわけもない。


 世界を移動できるような天才の妹をもっているからといって、俺も何かしらの天才かと言えば、別にそういうわけじゃないことと同じだ。


 知ってたら多分帰ってる。帰ってから、俺の今の見た目から、元の生活を送ることを諦めて、世界中を放浪しながらの今みたいな生活をしていたのだろうと思う。


 さて、目的のないニート生活から、地球へ帰ろう! へ、目的シフトしたわけだが、まずは、そうだな。やるべきことがあるな。


「ねえねえ天華ちゃん?」


「なに? お兄ちゃん」


 何はともあれ天華ちゃんである。


 こっちの世界に天華が来てから、うかがうようにちゃんづけで呼びがちだが、俺は妹のことを呼び捨てにしているタイプの兄だった。


 こればっかりは、今の見かけの影響も受けているのかもしれないが、まあいい。


 天華が今は誰より頼りになるはずなのだ。そもそも天華は、流されるまま異世界にやってきた俺と違い、自分の意思で、自分の力でこの世界にやってきたのだ。


 昨日はその辺、はっきりと否定されたような気もするが、目覚めて頭の冴えたはずの天華なら、思い出し、思いついていてもなんら不思議ではない。


「地球に帰る魔法ってないの?」


「うーん。帰る魔法はあるかもしれないけど、私の知る限りならないかな」


 とのことだった。


 天華ちゃんでも知らなかった。


「帰れたら、お兄ちゃん見つけたところで、あっちに帰ってるよ。もう、この世界に用はないしね」


 あっちとは、異世界に対する元の世界のことだろう。


 予想通りというかなんというか……。これは困った。


 しかし、考えてみれば当然のことだ。


 異世界へ行く方法まではワクワクするけど、帰る方法ってのはあんまり考えたくないからな。それに、異世界へ行ってからしか、帰る方法は見つけられないということだろう。それを思うと、手を抜いたというよりも、単に著者が帰ってきてないという可能性もある。


 だとしたら、著者がこの世界にいるのか?


「うっ……。何するんだ」


「いや、お兄ちゃん。昨日、私のお腹つついてたでしょ」


「いやぁ。それは気のせいだよ。夢だって、夢」


「夢? うーん。たしかにはっきりとは覚えてないけど……」


「だろ? だから夢だって。俺にお腹をついてほしかったんじゃないか?」


 どんな妹だって話だが。


「そうなのかな? そうなのかも」


 否定してほしかった。


 天華は、つついていいよ。と言うかつついて! と、興奮気味に俺にお腹を差し出してきた。


 差し出してきたというか、さらけ出したって感じだ。今の天華は、着ていたパジャマまでめくりあげて、そのキレイなお腹をさらしていた。


 見せつけられると、俺が恥ずかしいな。


「つ、つん。も、もういいだろ?」


「ダメだよ。何かの予言かもしれないでしょ?」


「何の予言だよ。それより、何か話があったんじゃないのか?」


「話?」


「俺を呼ぶために、わざわざお腹をついたんじゃないかってこと」


 天華はうーん。と悩み出した。


 あってくれ。でないと俺は、妹のお腹を朝からつつく、謎の趣味を持つ兄みたいになってしまう。


 少しして、天華はあっと声をあげて、思い出したように手を叩いた。


 俺はその様子にほっと胸を撫で下ろす。


「帰り方って話なら、お兄ちゃんこそ、神とかから元の世界に帰る条件とか聞かなかったの?」


「うーん……」


 今度は俺が悩む番だった。


 どうやら、天華の中では神はいるってことになってるみたいだけど、どうだろう。


 呪うくらいだから、そうなんだろうけど、うーん……。神様ねぇ……。


「正直、前世と今世の間の記憶ってのが、俺にはないんだよな」


「そうなの? よくあるじゃん。神から話しかけられて目を覚ますって話。なかったの?」


「よくあるのかは知らないが、俺の場合はなかったんだよな。寝て起きる感じで、こっちの世界だったから。それは苦労したぜ?」


 なんてったって体が幼女だからな。近くには、服と剣しかなかったから、毎日のように魔獣に追い回されて、魔物に襲われて、何が起きているのか理解するまでは、本当に地獄にでも落とされたんだと思ってたくらいだ。


「やっぱり、神は呪っておこうかな」


 ずずっと闇をまとう天華になり、俺は勢いよく首を横に振った。


「まあまあ。俺の記憶も頼りないから、神様のせいにもできないさ。俺は気にしちゃいないよ」


「さっすがお兄ちゃん。人間ができてるね」


「あはは……」


 その実、いるかどうかもわからない神様が下す神の天罰に恐れをなしているだけだったりするのだから、かっこがつかない。


 ともかく、現状は整理できてきた。俺たちは地球へ帰りたいが、帰り方がわからないってところだ。


 天華の使う魔術だか魔法だかも便利ではあるが、あくまで片道切符だったみたいだし……。


 まあ、できないことを憂いていても仕方ないな。


「そうと決まれば、やることは一つだな」


「そうだね」


 アイコンタクトで理解しあった俺たちは、がっしりとうなずきあう。


 俺と天華の仲だ。目と目が合えばなんだってわかる。


 俺たちはせーので口を開く。


「元の世界へ帰れる方法を探す」

「お兄ちゃんを一生ここで愛でる」


「ん?」


「あ、いや。帰るよ? 帰る帰る。そうだね。帰ってからのがいいよね」


「そ、そうだよ?」


 なんかまるっきり別のことを言ってた気がするのだが、声が被っていたせいでよく聞こえなかった。


 気のせいか?


 うまくいくかと思ったけど、練習なしじゃ難しいか。


 まあいいや。別に応援団じゃないし。


「ほいじゃ、さっそく今日から行動するかね?」


「おー!」


 天華も帰れるなら早い方がいいだろう。

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