第4話 こんな時に成長かよ

 雨の中、大雨の中、俺は行きと同じように、走って小屋まで帰ってきた。


 残念ながら、俺は妹の天華とは違い、魔法みたいな粋な技は使えない。俺には、一瞬のうちに小屋へ帰ってくるような、テレポートなんて芸当はできない。できっこない。脳筋と言われればそれまでだが、まあ、帰ってこられたなら方法なんてさして問題はないだろ。


 そもそも、天華にもできるのかは知らないしな。ドラゴンとの戦いを見てたら、できそうな気がしたというだけの話だ。


 とにかく、あっという間に着くために、全力で走って帰ってきた。


 基本は無駄なエネルギーを使わない、エコな生活を心がけている俺は、運動はもとより得意ではないんだが、妹のためならば、たとえ火の中、水の中だ。


 何せ、彼女は雨の中なのに寝てしまったのだ。そのまま放置というわけにはいかないのが、世の常というものだろう。


「しっかしどうしたものかな」


 小屋に戻ってきたはいいものの、びしょびしょの少女の体を、温められるものはない。


 いや、正確に言えばある。ただ、この状況で、それを使えるものとして数えていいのか、ということについては、はなはだ疑問が残るものだ。


 暖炉、と言えば聞こえはいいだろう。俺だって知ってる。冬は暖炉って地域や時代もあったはずだ。そうなれば、今の状況にもってこいといった感じの印象を受けるだろう。


 しかし問題はそこじゃない。俺はその暖炉、もとい暖炉と思われる設備を、一度として使ったことがないのだ。


 転生してからの今日まで、俺は、暖を取る必要に迫られたことがなかった。


 そのため、今目の前にある暖炉の存在も、妹を抱えて帰ってきて、何かないかと見渡してから、初めて思い出したのだ。


 わかっていれば、どうしようなどと悩むことなく、暖炉を使おうと考えたはずだろう。つまりそういうことなのだ。


 無論、火をつければいいということは俺でもわかる。流石にわかる。


「でもこれ、どうやって火をつけるんだ?」


 あいにく、スイッチやリモコンのようなものはついていない。ここから、暖炉のような形をした家電という線は消えたわけだ。


 まあ、家電という線はハナからないのだが、魔法がある世界みたいだから、魔法が使えなくても、魔力があれば使えるタイプのマジックアイテムなんじゃないかという期待をもっての行動だった。


 しかしダメだった。空振りだった。


 この小屋は、今の俺、ルリヤちゃんが流されてきた、川の一番近くにあった小屋ってだけで、神様からの贈り物ではないってことなのかもしれない。


 となると、ハイテクじゃなくても文句は言えないな。ただ、それならそれで、薪を大量に準備とかしておいてほしいものだ。


 結局、俺は諦めて、燃やせそうなものだけは取ってきた。これくらい、妹の一大事の前では、描写するほどの大仕事でもない。ただ、木を切り倒して、バラバラにしただけだ。簡単ではないが、今の俺には簡単な作業だった。


 小屋の周りは雨が降ってないので、きっと大丈夫だろう。


「さて、と……」


 燃やせそうなものは準備したけども、本当に、火ってどうやってつけるんだ?


 マッチもライターもない。現代社会に飼い殺しにされた俺は、妹の窮地すら救えないのか?


「くしゅん」


 眠る天華がくしゃみをした。風邪をひかないようにと思ったが、もうすでに手遅れか?


 いや、落ち着け。まだひき始めだ。まだ間に合う。


 考えろ。何かあるはずだ。魔法が使えなくても、何か。


 木をこするやつは、俺の幼女の手じゃ、きっと火がつく前に壊れてしまう。それに、また木をばらすのが面倒だ。


 となると……。


 俺は改めて、俺の持つ剣を見た。


 やったことはないが、俺の戦い方は火を起こすのに使えそうな気がする。


 あれっぽいじゃん、それっぽいじゃん。あの感覚は、エネルギーを活用している感じじゃないか。こう、火の要素をコントロールして火を起こす、みたいな……。そうでもしないと、寒すぎて本格的に風邪をひいてしまう。


 いかに優秀な妹でも、せっかく俺を追ってこんな世界まで来てくれたというのに、風邪をひかせてしまっては兄が廃るというものだ。


 そもそも、風邪は魔法じゃ治せまい。


 風邪は治癒魔法どうこうの外にある、とかなんとかだったはずだ。


 ということで、もう俺にできることは一つしかない。物は試しとじゃっかん急ぎつつ、俺は意識を集中させた。いつも剣にやる時のように、暖炉の火がつきそうなところに意識を集中させる。イメージとしては、そう、電気ヒーターのようなものを思い出す。うちは暖炉でもストーブでもなかった。電気ヒーターだった。そこに、火のエネルギーが集まるようなイメージで……。いつもと違うのは、手っ取り早く、近くに多いエネルギーを使わないところ。


「うおっ!」


 ボッと大きな音がしたからビビってしまった。が、成功だ。大成功だ!


「ついた。ついたぞ」


 幻覚じゃない。近づきすぎないように近づいてみると、あったかい。ほっかほかの暖炉だ。


 妹のためにやったことだから、喜びもひとしおだ。小躍りしてしまうくらいには嬉しい。ヒャッホー!


 これはまあ、俺も濡れてるから止まると寒いってことももちろんあるのだが、とにかく、これで暖は取れた。そう、暖は、取れた。


 けれど、もう冷え切っている天華の体を、温め切ることは難しそうな気がする。


 いや、そもそもこれじゃあまだ足りないよな。


「寝てるとこ悪いが、起きてもらうか……」


 流石に、びしょ濡れのまま放置しては、暖炉があっても風邪をひくことだろう。


 俺の能力覚醒は嬉しいが、風呂か……?

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