第9話 二番目に可愛い女子の部屋へ……その趣味はいったい!

 静かな夜道を歩く。

 伊井野さんの家を目指し、真っ直ぐ歩き続けていた。

 きっと家は豪邸なんだろうな。

 お嬢様っぽいし、どこかの令嬢だと俺は予想していた。


 だが、その予想は外れるのだった。……周囲の様子がおかしかった。


 そういえば俺の家の近所だとか言っていたっけ。


 でも、それなりに距離を歩いているようにも見えた。


 やがて、アパートが見えてきた。

 え、アパート……?


「まさか」

「うん、あそこがわたしの家」


 マジか!

 豪邸だとか屋敷をイメージしていたのだが、これは予想外すぎた。まさかアパートとは。いや、別に悪く言うつもりはないのだが、あまりに想像と違い過ぎた。


 階段を上がって二階へ。


 なんだか随分とボロいアパートだな。

 そもそも、こんなところにアパートがあったことも知らなかった。長年住んでいるはずなのに。


 カバンからカギを出し、扉を開ける伊井野さん。

 ついに女子の家に……。


「ちなみになんだけど、一人暮らし?」

「実はそうなんだ。こんなところだけど静かで住み心地は良いんだよ~」


 中に入ってと言われ、俺は伊井野さんについていく。まさか、一人暮らしをしていたとはね。俺の中のお嬢様イメージが一気に崩れたけれど、彼女のことを知れて嬉しかった。

 部屋の奥へ入ると、そこは女の子らしい空間があった。

 ぬいぐるみだとか、全自動麻雀卓だとか、漫画だとか。――ん、ちょっとマテ。



「全自動麻雀卓!? なんで部屋に!」

「あは……あはは。バレちゃったか」


 テヘペロと舌を出して笑う伊井野さん。

 いやいや! 大きいから一発で分かるって。

 高校生の俺でもこの机が麻雀をやる為のテーブルだと理解できた。



「どうなってるんだ? 部屋に麻雀卓って」

「本当のことを言うとここは雀荘なんだよね」

「なッ!?」

「まあでも、わたしの部屋なのもホント。隣がね」


 と、付け加える伊井野さん。なるほど、ちょっとボロいアパートだとは思っていたけど、雀荘にもなっていたわけか。なにその特殊な空間!


 そういえば、アパートの前に【同好会雀荘・四暗刻スーアンコウ】なんて看板があった。完全にスルーしていた。


「雀荘かぁ、すごいな。オーナーとか?」

「みんなに内緒にしていたんだけどね。実はそうなんだ」

「すご……高校生社長かよ」

「父の力を借りたけどね。ちなみに、このお店はまだ正式なものではなくて、しばらくは無料の招待制。身内限定でやってるよ」


 どうやら、きちんと経営するとなると風営法やら法律がうるさいらしい。だが、この雀荘はいわば部活や同好会みたいな趣味の部類らしく、お金は一切取っていないようだ。


「考えてやっているんだな」

「うん。年齢も引っ掛かるから、今のところは知り合いが集まる同好会」


 ちょっとだけ申し訳なさそうにする伊井野さん。いや、親の力を借りたとはいえ、ここまでやるとは。それに、伊井野さんが麻雀好きとは思いもしなかった。

 そんな片鱗もなかったのに。


「麻雀好きなんだな」

「渋い趣味だよね……。でも、やるとハマるし、プロの世界もあるから目指したいよね!」


 そこまで考えているとは。

 感心していると、玄関が開く音がした。

 誰かがズカズカと入ってきた。


「どうも~、苺ちゃん。来たよー」


 黒いパーカーを着た怪しい人物が現れた。フードを深く被っているから顔がよく見えないな。


「あ、リベリオンさん、こんばんわ」


 伊井野さんは、当たり前のように挨拶していた。

 リ、リベリオンさん!? 外国人なのか?


「うっす。で、この人は?」

「こちらは同じ高校に通う前川くん。後ろの席なんだ」

「あ~、苺ちゃんがよく話している男の子ね」


 フードを外すリベリオンさん。

 なんと伊井野さんと歳の近い女子だった。しかも日本人だった。けど金髪は……染めているのかな。


「前川です。よろしくお願いします」

「リベリオンです。麻雀とポーカーが趣味なんでよろしくです」


 丁寧に頭を下げられ、俺は軽くビビった。思ったより、礼儀正しい。


「その、失礼ですがリベリオンって……」

「ああ……それは我がソウルネーム。魂の名だ」

「へ、へえ……」


 何だこの人、ちょっと独特な世界観をお持ちのようだ。

 いやけど、伊井野さんといい勝負の美少女だ。


「ちょうど麻雀のメンバーを募っていたところ。前川くんだっけ、どうかな」


 なんかいきなり麻雀に誘われたし。


「すまない。俺は麻雀のルールを知らないんだ」

「大丈夫。なんとなくでイケる」

「そんな無茶な」

「役を覚えれば楽勝だよ」


 それを覚えるのが大変そうだな。

 スマホで調べてみると一般的な役は37種類も存在するらしい。そんな暗記できないッ! 俺馬鹿だから!


「伊井野さん、俺もやってみるべきかな」

「ぜひやって欲しいな!」


 なんか今日一番にテンション高いな!

 そんな星みたいにキラキラした瞳で見られると、非常に断り辛い。


 悩んでいると、またもや玄関か開いた。


 また誰か来るらしい。



「きたよ~、お姉ちゃん~!」



 なんだか聞き覚えのある声がした。

 む……なんだこの毎日耳にする甘ったるい声。


 ドタドタと走ってくる小さな影。

 ぴょ~んと飛び出してくる少女に俺は驚いた。



「おま!! あき!」



 前川 あき――我が妹だった。



 って、なんでここにいるんだよォ!!

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