第29話 交渉と交渉 一日彼女になってくれるようです
事情を聞くと、メテオストライクは最初から対話を望んでいたらしい。だが、愛羅武勇の総長・天龍は違った。
彼は俺とタイマンを張って、とにかくボコりたかっただけのようだ。なんだそりゃ!
「それで、話してくれるんだろうな」
「ああ、リベリオンさんに勝てるとは思っていない。俺は勝てない相手には挑まないタチでね」
「そうか、そりゃ賢いな」
「で、なにが聞きたい?」
「馬淵と闇カジノのことだ。奴はなにを企んでいる? 闇カジノにはどうやって行けばいい。そこに議員らしき男が通っていないか?」
そう聞くと佐山は手招きしてきた。
なんだ?
「二人で話がしたい」
「……分かった」
俺は桑田とリベリオンさんに待つように指示。
佐山を連れて少し離れた。
「ここでいいだろう。前川、お前の質問に答えてやる」
「頼む」
「まず、馬淵のことは知っているとは思うが、ムショ行きにはならず……行方不明だ。今はどこで何をしているか誰も知らない」
「やっぱりそうなのか」
「ああ。で、闇カジノの方は……招待状があるにはある」
「マジか!」
懐からカードを取り出す佐山。なにも書かれていないブラックカード。これが“招待状”なのか……!
けど、文字すらないとは。
これでどうやって行けばいいんだ?
その疑問も直ぐに判明した。
「このカードにはチップが埋め込まれている。スマホでこうやってかざすと
「なっ……ハイテクだな」
「するとWEBに繋がり、招待状ページが現れるというわけだ」
佐山のスマホの画面には、確かに『アーリークラウド』と書かれていた。こ、これだ! 間違いない。闇カジノだ。
ここに山田議員がいるかもしれない。
その証拠をゲットできれば、こちらの勝ちだ。
「その後は?」
「行きたい日時を記入する。そして、指定された場所に向かうんだ。車がやってきて黒服の男が目隠しと耳栓をしてくる。その際、スマホを取り上げられる仕組みだ」
その辺りは尾道さんの情報通りか。
「その招待状を譲ってくれないか」
「見返りはあるんだろうな?」
「そ、それは……そうだな。金で」
「当然金は欲しい。だが、闇カジノで稼ごうと思えば何十万、何百万と稼げるんだ。数万では合わんぞ」
佐山の言う通りだ。
けど、他に差し出せるものなんてないぞ。
「他に何が欲しい」
「そうだな。強いていえば、リベリオンさんだ」
「なに……?」
「あの女が俺のメテオストライクに入ってくれるなら最強だからな」
「なるほどな。ちょっと待ってくれ。一応聞いてくる」
俺はリベリオンさんの元へ向かった。
さっそく交渉を始めた。
「リベリオンさん、話しがある」
「なんだい?」
「例えばなんだけど……族に復帰とかしないかな」
「そういうこと。佐山が自分を欲しがっているわけだ」
あっさりと勘付かれてしまったか。
「そんなところだ」
「残念だけど興味ないんだよね」
「だめか……」
諦めかけたその時、リベリオンさんは俺の肩に手を置いた。
「でも、前川くんの為なら人肌脱いでもいいけどね」
「え……」
「条件がある」
こっちも条件付きか。
でもいい、可能性があるのなら。
「ど、どんな条件かな」
「そうだね、例えば付き合うとか」
「え!?」
「冗談だよ。前川くんは苺ちゃんが好きなんだよね」
「そ、それは……」
バレていたのか。
もちろん、俺は伊井野さんが好きだ。
でもまだ告白とかそういうタイミングが分からない。
ていうか、リベリオンさんが俺のことを……?
いや、まさか。
「じゃあ、デートくらいしてよ」
「それならいいですけど」
「一日彼女ね」
「マジですか」
「大マジ。それなら一時的にだけどメテオストライクに入ってもいい」
そうリベリオンさんは言ってくれた。
多分、彼女なりにかなり譲歩してくれたはず。
この条件なら……いい。
「分かりました。リベリオンさん、それでお願いします!」
「いい返事だね。じゃ、近い内に一日彼女決定で」
「はい。じゃあ、佐山くんに話してきます」
「うん」
手を振って別れ、俺は再び佐山の元へ。
「話はついたかい?」
「ああ、佐山くん。リベリオンさんが一時的なら入ってもいいと言ってくれた」
「なるほど、期間限定か。まあいい、それでいい」
「本当かい!?」
「リベリオンさんを少しの間だけでも戦力にできるなら十分だ」
交渉成立!
俺と佐山は握手を交わした。
これでついに闇カジノへ向かうことができる。
招待状であるブラックカードを受け取った。
「ありがとう、佐山くん」
「いや、こっちこそ誤解を与えることをしてしまった。この倒れているアホ共の処理はこっちに任せてくれ。ま、愛羅武勇の天龍は懲りたはずだ。目を覚ませば仲間と共に逃げ出すだろ」
背を向ける佐山。
どうやら仲間と共に帰るようだ。
「助かったよ!」
「がんばれよ、前川。探している議員が見つかるといいな」
そこで俺は佐山と別れた。
リベリオンさんと桑田と合流。
「おい、大丈夫かよ、前川!」
「ああ、なんとか交渉できた。ほら、闇カジノの招待状だ」
「おぉ、すげえ!! お前やるな!」
「いや……ほとんどリベリオンさんのおかげだよ」
そうだ、俺なんて非力すぎて交渉しかできなかった。
自分の情けなさに失望していると、リベリオンさんは俺の背中を押してきた。
「前川くん、この交渉はそう簡単にできることじゃない。相手はあのメテオストライクの総大将だよ。彼はね、男の中ではトップクラスの実力だからね。ウチの弟よりもヤバい。もし、天龍ではなく佐山と戦っていたのなら、前川くんは死んでいたかもね」
「え……」
そんなヤバいヤツだったのかよ!
背は高いけど、俺より細くて強そうには見えなかったのに、そんな強いとは。リベリオンさんがそう言うくらいだから、相当だぞ。
「だから誇っていいよ」
「いや、そんな」
「じゃあ、褒めてあげる。前川くん、君は凄い。カッコいい」
なんだか無理矢理褒められている気もしないでもないけど、リベリオンさんにそう言われると……とても気分が良い。
――って、そんな場合じゃない!
一刻も早く、伊井野さんの元へ戻らないと!
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