第30話 異変、怪しい声、軍資金

 急いで雀荘に向かう俺。

 リベリオンさんと桑田を置いて先行した為、ひとりでここまで来てしまった。


 扉を開け、リビングへ向かう途中で“異変”を感じた。



 ……なんだ?



 物音がする。

 耳を澄ませてみると――。



「……気持ちい」



 え……この声は伊井野さん……だよな?

 誰かと話している?


 そんな……まさか。


 ウソだろ。

 俺がいない間に……誰かと?



「よかった~。もうちょっと強くするね」

「うん」



 伊井野さんは気持ちよさそうな声を漏らす。……まて、まてまて。そんなハズはない! そんな片鱗すらなかった。


 そんな、ありえないだろッ!!


 いてもたってもいられなくなった俺は、リビングに突撃した。



「伊井野さん、どういうことだ!」

「ん、前川くんおかえり~。どうしたの~?」


「え……」



 よ~く見ると伊井野さんはソファに座っていて……我が妹からマッサージを受けていた。背中を指圧していただけだった。


 そういうことかよ!



「あ、お兄ちゃんだ。おかえりなさーい」

「まぎらわしいぞ、陽菜! てか、いつの間に雀荘にいたんだよ」

「さっきお邪魔したの~」

「なるほど、ちょうど来ていたわけか」

「そうそう」


 しかし、安心した。

 伊井野さんが誰かと……いや、想像したくない。セーフだったんだ、忘れよう。


「ところで前川くん、汗凄くない?」

「あ、いや……これは外でいろいろあったんだ」

「そういえばあの人たちどうだった? ケガとかない?」

「大丈夫だ。それより話がある」


 俺は伊井野さんに、これまでのことを話した。


「――というわけで闇カジノの招待状も入手した」

「これで山田議員のことが分かるかもね!」

「ああ」



 そんな話をしているとリベリオンさんと桑田も戻ってきた。

 リビングに集合して、俺はついでに妹を桑田に紹介した。


「へえ、前川、妹いたのか」

「まあな。ていうか、お前は帰れ」

「その前に金くれ」

「そ、そうだな」


 ぐっ……覚えていたか。

 しかし、10万円なんて大金は払えないぞ。

 1000円は払ったけどな。


 やっぱり脅されたとか言って警察に突き出すか。


 そんなことを考えていると桑田は笑った。


「冗談冗談」

「ん?」

「前川、お前の根性を見せてもらった。あの天龍とタイマンとか勇気あるよ」

「いや、実質なにもできなかったけどな」

「そうでもないさ。今回のことに免じて1000円でいいわ」

「いいのかよ」

「その代わり、困ったら俺を頼ってくれ。今度は相棒として背中くらい守ってやるさ」


 どうかな。桑田は今回だいぶビビっていたからな。役に立つかどうか。けど、1000円で良くなったのは助かった。


「その時は頼む」

「おうよ。じゃ、俺は邪魔みたいなので帰るよ」


 雀荘から出ていく桑田。

 なんか意外とイイヤツだったな。



「ねえ、お兄ちゃん。ケガしてるっぽいけど大丈夫?」



 妹が近づいてくる。



「大丈夫、擦り傷だ」

「でも~」

「心配するな」

「うん」



 さて、こうなった以上は作戦を話す。



「聞いてくれ、みんな。明日、俺は闇カジノに潜入する。証拠を掴んでくる」



 俺がそう打ち明けると、伊井野さんもリベリオンさんも――そして、我が妹も俺をじっと見つめた。


 そんな張り詰めた空気の中、伊井野さんが口を開く。



「ねえ、前川くん。無茶……しないでね」

「もちろんさ。でも、平和を勝ち取るためだ」

「分かってるけど、やっぱり心配だから」

「ありがとう、嬉しいよ」


 これでプランは決まった。

 あとは尾道さんの情報も気になるところだが、連絡が入る様子もない。このまま潜入捜査になる可能性が高いな。

 それならそれで仕方ない。


「前川くん、ちょっといいかな」

「なんだい、リベリオンさん」

「闇カジノは、かなり危険だよ。てか、金あるの?」

「そ、それは……」

「そんなことだろうと思った。軍資金くらいないと怪しまれるよ」

「用意できて1万円だな」

「それはショボすぎ。じゃあ、自分の10万円を貸す」

「そ、そんなに!?」

「この前、コンビニで働いたお金さ」

「そんな大事なお金を貸して貰えないよ!」

「いいのさ。前川くんのためなら」


 なんて嬉しいことを言ってくれるんだ、リベリオンさん。

 しかしそうだな、大金を持たずにカジノに行くだなんて頭がおかしい。せめて、持っているように見せかけないと。


「分かった。借りるよ」

「うん、そうして。もちろん、使ってくれてもいい」

「いや、ちゃんと返すよ」

「どっちでもいいさ」


 どっちでもいいのか。

 いや、なるべく使わないぞ、俺は。

 このまま返す方向に持っていきたいところだ。


 これで軍資金(ダミー)も出来た。


 準備は整いつつある。

 いよいよ闇カジノへ向かう時がきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る