第31話 好きと裏切りと……罪と罰

 解散となり、俺は妹を連れて家へ帰った。

 もう時間も遅いし、明日は早い。

 備えねば。


「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ、陽菜」

「苺のお姉ちゃんと付き合ってるの~?」

「!? な、なにを言いだすんだ。そんなわけ……ないだろ

「え~、お姉ちゃんはお兄ちゃんのこと好きって言ってたよ~」


「なっ!」


 それは朗報すぎる。ナイスだ我が妹よ。

 そうか……伊井野さんが俺のことを。

 気持ちが聞けただけで俺はがんばれる。



 次の日。



 早起きして俺は準備を進めた。

 あれから尾道さんからの連絡が――あった。



 尾道:闇カジノに山田議員らしき男がいたって。けど、気をつけて……なにか変だから


 この情報でもデカいぞ。

 これでほぼ確定か。

 山田議員の写真はネットにたくさんあったので顔は分かった。

 しかし、変とはなんだ?


 ……まあいいか。


 家を出て、指定された待ち合わせの場所へ向かう。


 スマホにQRコードを読み込ませると場所が送られてきた。九時前に駅裏の公園に来いとのことだった。


 歩いて向かった。


 やがて公園に到着。

 ここは寂れた小さい公園だから、人の気配はない。


 九時になると黒い車が公園の前で止まった。


 あれか。


 俺は歩いて向かう。

 すると黒い車の中から、グラサンをかけた黒服が現れた。図体はデカいな。


「招待状を拝見」

「これです」


 ブラックカードを見せると、黒服は納得していた。



「本物で間違いありません。では、車に乗る前にスマホを没収させていただきます。それと目隠しをしていただきますので、ご理解ください」


「分かりました。お願いします」



 スマホを取られ、目隠しされた。

 車に乗せられ……ついに出発らしい。


 発進する車。


 しつこく走り続け、三十分以上は走行を続けていた。

 いったい、どこまで走る気だ。


 ……いや、方向感覚を失わせるよう、ぐるぐる回っているだけか。


 やがて車は止まった。


 俺は車から降ろされ、そのまま連れていかれる。


 ついに闇カジノとご対面か。



「こっちだ」



 黒服が俺を誘導していく。

 寒くなってきた。どんどん地下らしき場所へ向かっているのが分かる。


 いったい、市内のどこにこんな地下を作ったんだ。


 どんどん地下へ向かい、どこかの部屋に辿り着いた。



「……なんだ、ここは」

「この先からはひとりで行け」

「目隠しは?」

「中へ数歩進んでから取っていい」



 指定された通り、俺は少し進む。

 そして、目隠しを取った。


 ずいぶんと長いこと目隠しをされていたせいで、視界がボヤけて戻らない。


 数十秒して、目の前が開けた。



 ん……なんだ?



「…………ま、前川…くん」

「え……」


「きて……くれたんだ……」



 そこには何故か山田さんがいた。

 ボロボロの下着姿でなぜか鎖に繋がれ、逃げられないようにされていた。な、なんで……なんなんだこりゃ!



「山田さん、なんでここに! てか、俺はカジノの連れてこれたんじゃ……?」



 明らかにここは闇カジノではなかった。

 いったいどうなっているんだ?

 困惑していると闇の中から声がした。



『フ、フフフ。前川くん、まさか君がここまで嗅ぎつけてくるとは思いもしなかった』



 足音がゆっくりと響く。

 闇から現れた人物を見て俺は驚いた。



「山田議員……なぜ!」

「はじめましてだね、前川くん。君のことは娘からよく聞いているよ」

「くそっ、筒抜けだったのか!!」


「そうだよ。君の行動は全部知っていた。私の弁護士は有能でね。彼と取引をしていたのさ」


「彼?」



 闇の中から更に男が現れた。

 そこの顔に俺はさらに驚愕した。



「……すまねぇな、前川」

「お……お前! お前は……」

「そうだ、俺だよ。桑田だよ!!」



 そう、そこには桑田が立っていた。

 信じられなかった。


 コイツは良い奴だと思っていたのに!



「裏切ったのか……」

「裏切るぅ!? 前川、お前は最初から俺を裏切るつもりだったろ!!」

「な、なんのことだよ」

「どうせ10万円もウソ。警察に突き出すつもりだった……そうだろ?」


 なぜ俺の考えが読めるんだ、コイツは。

 いや、違うな。



「そう、桑田くんに忠告したのはこの私でね」



 山田議員が桑田を説得したとか、そんなところだろう。

 そりゃそうか。

 腐っても議員。

 頭は良いわけだ。


「そうかよ。それより、実の娘を晒しものかよ。いいのか、俺は別に助ける義理とかないぞ」


「構わんさ。娘は、私を殺そうとしてね。危うく命を落とすところだったが、防弾チョッキを着ていて良かった。ナイフも通さない特注品でね。ほら、こんな闇カジノなんて商売をしていると馬鹿な破産者に狙われるのだよ」



 どうやら常に防弾チョッキを着こんでいるらしい。

 なんてヤツだ。


 ――って、まて。


 今のは聞き捨てならなかった。

 商売をしていると……?



「あんた、まさか……」

「察しが良いな、前川くん。そう、闇カジノ『アーリークラウド』は、私が経営しているのだよ。ゴミ猿共から金を巻き上げ、政治資金に使う。実に合理的だろう!?」



 ニヤリと悪魔のように笑う山田議員。


 コイツは腐ってやがる!!

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