第28話 10秒間の運命と伝説再び

 殺される気配しかないけど、外へ出た。

 階段を降り、リーダーらしき男達の前まで歩いていく。


「俺になんの用だ……」


 天龍という男の方が俺の目の前にやってきた。

 背高いな……巨体で威圧感が半端ない。


「お前が前川だな」

「そうだ」

「よし、ちょっとそこまでツラ貸せや」

「分かった」


 どのみち、ここでは近所迷惑になる。

 近くの公園まで向かった。

 幸い、歩いて五分のところに小さな公園がある。そこで話をすることに。


 しかし、三十人に囲まれては恐怖しかない。いつボコられるかと俺は内心焦っていた。それは桑田も同じようで、ずっと顔を青くしていた。


「おい……前川、どうするんだよぉ!」

「どうするって作戦はないよ」

「ないのかよ! このままだと殺されるぞ!」

「落ち着け。こうなったら俺たち二人で何とかするしかないだろ」

「二人で!? アホか!?」


 ツッコむ元気はあるようだな。

 そんなヤリトリをしながらも公園に到着。


 天龍が改めて俺の前に。


「前川、俺とタイマンだ」

「ケンカしろってことか」

「そうだ。お前が勝てば知りたいことを全て話してやる」

「なんだと……」

「馬淵のことや闇カジノのことを知りたいんだろ?」

「なぜそれを」


「そんなことはどうでもいい。やるか、やらないかだ」


 二つに一つだと天龍は重苦しい口調で言う。

 俺に選べってことか。


 なるほど、情報はありがたい。


 きっとこの愛羅武勇アイラブユーの総長なら重要ななにかを知っているに違いない。


 けど、この大男を相手とか、無謀すぎる。

 こんなプロレスラーみたいな男に勝てるのか……?


 しかも、俺はケンカなんてほとんどしたことがないぞ。


 いや……弱気になっている場合じゃないな。

 全ては伊井野さんの為に。



「やってやるさ」

「ほう、勇気だけはあるようだな。いいだろう、お前のその態度は気に入った」

「なにかハンデでもつけてくれるのか?」

「十秒だけ動かないでやろう」

「なに……?」

「十秒だ。それがハンデだ」


 たった十秒だけどチャンスだ。

 その間にこの男をぶっ飛ばせれば俺の勝ち。


 さっそく俺はファイティングポーズで拳を構えた。天龍も同じように拳を。


 メテオストライクの総大将・佐山さやまが合図をする。



 その瞬間、決闘ははじまた。



 俺は勢いよくストレートを天龍の腹に決めるが、ビクともしなかった。……ウソだろ、顔色一つ変わっていない。倒れる気配もまるでない。



 効いていないだと!?



「馬鹿な!」

「どうした、前川。貴様の力はこの程度か!!」



 何度も何度も殴るが、天龍はふんぞり返って余裕な表情を浮かべていた。……そんな、アホな。コイツの体は鋼で出来ているのか……!?


 こんなダメージが通らないなんて……ありえないッ!


 あと五秒もない。

 早くしないと反撃がきちまう!


 その前に天龍をぶっ潰す!



「うおおおおおおおおおお!!」



 フルパワーで俺は、天龍の顔面を殴った。これでどうだ!



 バキッと音がして手応えを感じた。


 これは効いたか!?



 だが、天龍は失望したような顔で俺を睨む。



「残念だが、十秒経過だ。前川、お前の力は蚊以下だ」



 次の瞬間、物凄いスピードのパンチが俺の腹に。

 重くて固すぎる拳が内臓をえぐってきた。



「かはああああああああああああああああああ!?」



 い、息ができねえ……!



「前川! おい、ウソだろ!!」



 桑田が叫ぶが、その声すらも届かなくなっていた。やべえ、意識が飛ぶ……。


 でも、こんな時に伊井野さんの顔が浮かんだ。


 走馬灯か?


 いや、違う。

 俺は伊井野さんが……好きなんだ。


 そうだ、彼女の幸せの為なら俺はまだ生きていられる。だから!



「天龍!! これならどうだあああああ!!」



 隙を見て俺は拳を振り上げた。

 そのまま天龍のアゴにヒット。



「ッ!?」



 さすがのヤツも怯んだ。

 わずかながらもダメージを与えられた。

 そのせいか天龍はよろめいていた。



「やった……」

「この程度で喜ぶな、前川。本物のパンチというものを見せてやる」



 筋肉を膨張させる天龍。お、おい、そんなのは反則だ! ていうか、殺される……!

 一般人では避けられないような、マッハパンチが飛んできた。



 …………だ、だめだ。もうおしまいだ。



 俺の……負けだ。



 敗北を受け入れたその時。



「やめな」



 パシッと音がした。

 誰かが俺と天龍の間に割って入ったんだ。


 あの天龍のマッハパンチを片手で受け止めるとか、何者だ!?



「…………あんた、真歩さん!?」

「違う。自分の名はリベリオンだ」



 静かに動くリベリオンさん。天龍の間合いに一瞬で入り、一撃を入れていた。



「がば、がば、ぼべっ、がふ、がはぶふぁッ!?!?」



 まるで何発も食らったかのように天龍は叫ぶ。

 な、なんだ……?


 やがて天龍はその場に倒れた。


 静まり返る公園。

 そんな中で見物していた男のひとりが「お、おい……今のリベリオンさんのパンチ、五発は入っていたぞ」と言った。


 ウソでしょ!?


 あの一瞬で五発も入っていたのかよ。



「この勝負、前川くんの勝ちだ。愛羅武勇、メテオストライクの野郎共……もし不満があるなら、この自分に決死の覚悟で挑んできな。まとめて相手になってやる」


 総長がやられ、ざわつく周囲。

 さすがの男達も黙って見ているわけにはいかなかったようで、リベリオンさんを取り囲む。おいおい、女の子相手に二十人以上で……最低かッ!


 けど、俺の心配はいらなかった。


 リベリオンさんは、相手の攻撃を回避しつつ拳ひとつで反撃。族の男達を次々に撃破して、気づけば地面には十五人以上がぶっ倒れていた。


 たった五分で……こんなに死屍累々になるとは。



「ひ、ひぃ!」「リベリオンさんに勝てるわけねぇだろ……」「路上の伝説じゃん……」「伝説は健在か……」「……俺、逃げる! うあああああああ!」「あれは女じゃねえ! バケモノだ!」「なんで攻撃が当たらないんだ!」「ぎゃああああ!」



 さすがの光景に戦意喪失する男たち。


 その中でメテオストライクの総大将・佐山さやまだけが不気味に立っていた。



「佐山、自分とやるか?」

「やるわけないだろ。コイツ等は興味本位で突撃しただけだ。馬鹿ばかりだよ」

「そうか」

「そもそも、リベリオンさん、あんたとやり合う予定はなかった。やりあえてコイツ等は幸せだったろうよ。伝説と手合わせできたんだからな」


「じゃあ、情報だけ寄越せ」

「いいだろう。というか、最初からそのつもりだった」

「なんだって?」


「天龍が仕切ったせいでこうなった。悪かったな」



 どういうことなんだ……?

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