第27話 守るために戦う……襲来、愛羅武勇とメテオストライク

 雀荘に到着。

 できることなら、桑田を雀荘に招きたくはない。

 だが、他に場所もない。

 カフェなどお店を利用する手もあるけど、山田さんや馬淵が現れたら危険すぎる。

 となると、ここしかないわけだ。


 階段を上がって二階にある雀荘へ。


 伊井野さんにカギを開けてもらって、いよいよ中へ。


 靴を脱ぎ、リビングへ。



「へえ、こんなところに雀荘があったとはな」

「伊井野さんの雀荘だ。今のところ非営利だけどね」

「マジかよ。お前の彼女すげえな」


「「んなッ!!」」



 桑田のヤツ、俺と伊井野さんが付き合っていると勘違いしているのか、そんなことを……それは嬉しいけど。

 伊井野さんも同様に、嬉しそうに照れていた。


 良かった。



「そ、それよりも話だ。桑田くん、いろいろ教えてもらうぞ」

「もう、あんまり話せることもねぇが、金の為なら話せる範囲で話すさ」


 こちらとしても、引き出せる情報はなんでも引き出す。



「じゃあ、まずは……」



 俺は、桑田からいろいろ聞きまくった。

 馬淵が実力で白竜會の副隊長にまで上り詰めたこと。短気でケンカが強く、悪いことばかりしていると。

 そして、今回の総長襲撃事件。

 馬淵の仲間の仕業であり、裏切りがあったようだ。


 馬淵の部下だけではなく、他の族も参加したと判明。



愛羅武勇アイラブユーという組織と、メテオストライクのメンバーが密かに合流し、リーダーをボコったんだ」


 なるほど、意外と他の族からも恨まれていたのかもしれない。

 結託して重守くんを狙ったわけだ。


「その中で闇カジノに詳しい人とかいそう?」

「んー、分からねえ」

「そうか……」



 思ったよりは有力な情報は引き出せなかった。やはり、尾道さんの密偵に期待するしかなさそうだ。

 お役御免となった桑田には悪いが、警察に突き出させてもらうか。


 タイミングを見て通報しようと、思ったその時だった。


 周辺から騒音がしていた。


 まるでバイクをふかすような音だ。


 ブンブンと複数のエンジン音が聞こえてくる。



「なんか、うるさくない?」



 伊井野さんの言う通り、雀荘の周辺がうるさかった。なんだ、珍走団でも走っているのか……?



「……こ、これはまさか」

「桑田くん、青い顔をしてどうした」

「前川! まずいぞ!」

「え……」

「このバイクは、愛羅武勇アイラブユーの総長のモンだ。あとメテオストライクの総大将も来ているはずだ……」


「そんな馬鹿な! なんでここがバレた!?」


「俺が知るかよ。とにかく、まずいぞ!」



 窓を覗いてみると、目の前には大量のバイクが集結していた。一台、二台どころではない。三十台は余裕でいた。まてまて、どんだけいるんだよ!


 しかし、なぜこの雀荘に族が?


 不思議がっていると、外から声がした。



『おい、桑田ァ! ご苦労だったな! おかげで前川の居場所を特定できた。感謝してるぜェ!』


「ひ……ひぃ!」



 腰を抜かす桑田。

 ぶるぶると震えていた。



「お、おい。桑田くん、今の声って」

「今のは愛羅武勇アイラブユーの総長・天龍てんりゅう 無限むげんだ。本名か知らんけどな! 恐らく、メテオストライクの総大将・佐山さやまも来ているだろうな」


「くそ、なんでこんなことに」



 桑田を雀荘に招いたのは失敗だったのか。

 こんなことなら公園でも……いや、結果は同じだったはず。

 桑田を連れた時点でアウトだったんだ。


 そうか……桑田を利用して俺を特定したんだ。



『早く出てきやがれ。さもないと、このボロアパートをさらにボロくしてやろうか!』


「げっ、やっぱり佐山も来てやがる……」



 声に覚えがあるのか桑田は、明らかにビビっていた。そりゃ、総長が二人も来るとか……異常なんだろうな。


 俺もどうするべきか悩む。


 このまま籠城するか。

 いや、それはダメだ。


 雀荘を燃やされかねん。



「仕方ない。伊井野さんは残って。俺と桑田くんで外へ向かう」

「でも!」

「いいんだ。こうしないと伊井野さんに迷惑が掛かる」

「もう今更だよ。それにね、前川くんが心配なの……」

「ありがとう、伊井野さん。その優しさにいつも救われてる」

「行かないで……ひとりぼっちは嫌」


 悲しい瞳を向けられ、俺は足が立ち止まる。

 伊井野さんを一人きりにするとか、本当なら出来ない。


 でも、雀荘も大切なはずだ。


 伊井野さんの夢を壊すわけにはいかない。だから。


「君もこの雀荘も守ってみせる」

「前川くん……分かった。無茶はしないで」

「ああ、絶対に戻ってくる」


 伊井野さんを残し、俺は桑田と共に外へ。

 玄関を出た途端、バイクにまたがる集団がこちらを睨む。


 おっかねぇ……。


 くそ、まさかこんなことになるなんて。


 なにか策を考えないと!



「前川……俺は殺されるかもしれん……」

「諦めるな、桑田くん。俺と二人で戦うしか……」

「無理だ。相手は三十人だぞ! しかも、総長と精鋭ばかり! ボコボコにされて終わりだ!」


 今にも泣きそうな顔で絶望する桑田。コイツ、思ったより弱いな。涙目で俺よりも情けない。


 俺だけは思考を止めない。

 考えろ、なにか考えろ。


 出来ることはまだあるはずだ。


 戦うか、口で言ってなにか誤魔化すか……。警察を呼ぶか、間に合うか? 戦ったとしても、勝率は?


 生きるのか?

 死ぬのか?


 誰か最適解を教えてくれ!!


 なにか、なにか……ないのか!

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