第26話 放課後の情報収集とデートの約束

 妙な空気が流れている。

 このままではマズいと思い、俺は昼食のカレーパンを二人に渡した。


「さあ、お昼にしよう」


「う、うん。ありがと」

「助かるよ、前川くん」



 伊井野さんとリベリオンさんと共にパンを食べ、お腹を満たした。

 あっという間に昼休みが終わり、教室へ戻る。


 午後の授業を受けていく。


 放課後は情報収集をして、一刻も早く山田さんの件を片付けねば。けれど、白竜會のことも気掛かりだ。特に重守くんは重症らしいし、一度お見舞いに行きたいところ。助けてもらった恩があるし。


 そんなことを考えて、ぼうっと過ごしていると放課後になっていた。


 前の席の伊井野さんが振り向く。


「ねえ、一緒に帰ろう」

「もちろん。でも、分かっているよね」

「そうだね、尾道さんにも聞かなきゃ」


 俺は帰ろうとしている尾道さんを探し、直ぐに呼び止めた。


「尾道さん、ちょっと待ってくれ」

「ん? ああ、前川くん。例の件かな」

「そう、まだ進展ないよね?」

「さすがにね。これから、闇カジノの招待権を入手できるか仲間に聞いてみる」

「マジか!」

「行くかどうかは別として、存在はハッキリするでしょ?」

「そうだな。頼むよ、尾道さん」

「おっけー」


 ニコッと笑う尾道さんは、身軽な足取りで教室を出ていく。

 もしカジノのことと山田議員に関連があるのならば……一気に追い詰められるはずだ。


「さて、俺たちも行こう」

「どこへ行くの?」

「危険を承知で山田議員のことを調べてみる」

「山田さんの家に行くってこと?」

「そうなるかな。でも、家にいるかどうか分からない。確実なのは国会とか事務所とか……かな」

「どうだろ。どこかへ出張とか言っているかもよ」


 確かに、居場所なんて分からない。

 このままだと徒労に終わる可能性が高すぎる。


「昨日みたいにネット検索の方がいいかな」

「それがいいかもね。今日はSNS、掲示板とか質問板とか使ってみようよ」

「なるほど、その手があったか!」


 情報収集には変わりない。

 雀荘へ戻り、パソコンでぱぱっと調べてみますか!


 伊井野さんと共に教室を出ようとするが、突然一人の男に足止めされた。



「おい、前川……ちっとツラ貸せや!」



 なるほど、馬淵の残党か。

 って、まてよ。

 これは望んでいた展開だ!


 馬淵を知る者から、情報を引き出せる最大のチャンスだ。


 ここは冷静かつ穏便にいくべきだ。


「ちょっと待ってくれ」

「待てだァ!? ふざけんな、テメェをズタズタにしてやらねぇと気が済まねぇんだ!」


 興奮する馬淵の仲間。

 頼むから、そのリーゼントで俺の顔をゲシゲシしないでくれ。鬱陶しい。

 いや、そんなことよりも話しだ。


「交渉がしたい」

「あァ!? お前と交渉なんてするか!」


「まあ、聞け。悪い話ではない。馬淵のことを教えてくれたら、情報料として10万円払う。どうだ?」


「じゅ、じゅうまんだとォ!?」



 驚く残党。

 隣の伊井野さんもアタフタしていた。


 むろん、ウソである。


 10万円なて大金払えるわけねぇだろ!

 コイツにやるのは警察だ。


 馬淵の仲間ということは、前のパトカー襲撃事件にも関わっているはず。だから、コイツを突き出せばそのまま逮捕ってわけだ。



「馬淵なんて野郎の為に尽くすな。俺に情報を渡せば大金をくれてやる」

「……ぐっ! ……分かった。ちょうど俺には借金があってな」

「とりあえず、信用してもらうために1000円払う」


 学生にとっては1000円は痛すぎるが、コイツから情報を得る為なら仕方ない。


「分かった。いいだろう。馬淵さんのことを話す」

「助かる。俺が教えて欲しいのは、アイツは今度こそ逮捕されたのか。馬淵が関わっているらしい、闇カジノのことも教えて欲しい」


「噂によれば馬淵さんは釈放された」


「なに!?」


「有能な弁護士が現れたらしい。でも、今どこで何をしているのか分からん」


「分からんって……」


「姿を消しちまったんだ! 前川、お前なら知っていると思ったんだ。だから、ボコって無理矢理吐かせようと……でも、すまねえ」



 そういうことかよ。わざわざ俺を先にボコる意味が分からんがな。というか、馬淵の居場所なんて知るかよっ!



「そうか。お前も知らないんだな。で、闇カジノのことは?」

「それはここでは話せねぇ。危険すぎる」

「知っているんだな」

「……ああ。最近、国会議員とか権力者も顔を覗かせているとか聞いた」

「それだ! それだよ」

「市内のどこかにあるようだな。それ以上は知らん」


 国会議員と分かっただけでも収穫だ。

 きっと恐らくは山田議員だ。


 もう少し話をしたかったが、クラスメイトの視線もあった。また後にしよう。


「とりあえず、雀荘に来てもらう」

「雀荘?」

「俺の隣にいる伊井野さんの家さ」

「妙なところに住んでいるんだな」


「それで、あんた名前は?」


「俺は桑田。隣のクラスだよ」

「マジかよ。同学年だったか……」


 俺はてっきり三年の先輩かと思ったんだけど。

 ともかく、この桑田を連れて雀荘へ向かった。


 伊井野さんは居心地悪そうにしていた。


「……ねえ、前川くん。公園とかじゃダメ?」

「うーん、けど誰かに狙われるリスクが」

「そ、そっか。仕方ないよね」

「その代わり、なにかおごるよ」

「ほんと!?」

「なんでも買ってあげるよ。500円以内で」

「ありがと! じゃあ、今度クレープ食べに行こ。二人きりでね」

「分かった。それで良ければ」


 そう約束すると、伊井野さんは俺の小指に小指を絡めてきた。強制指切りげんまんされ、契約は完了した。


 これはもう破れないな。


 それに俺は嬉しかった。


 伊井野さんと疑似的にデートできるってことだよな。楽しみだ。

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