第46話 同じクラスの女子の猛攻

 教室を飛び出して、アテもなく走った。

 気づけばグラウンドにいた。


「ちょ、ちょっと……どこまで行くの?」

「あ、すまない」


 俺は足を止めた。

 テンパりすぎた。


「里樹くん、なんか焦ってる?」

「い、いや……なんでもないんだ。なんでも」

「本当かなあ」


 怪しまれる俺。さきほどの池澤さんのことや最近モテるだとか……そんなことは話せないな。


 なんとか誤魔化すしかない。


「本当だよ。二人きりになりたくてさ……」

「そ、それならいいけど」


 良かった。なんとか話をそらせた。

 少し歩き、人気のない場所で腰を下ろした。


「その、苺……」

「うん」

「卒業する前にいっぱいデートしよう」

「その言葉が聞けて嬉しいよっ」


 頬を赤くする苺は、嬉しそうに抱きついてきた。

 よし、決まりだ。


 今日の放課後、苺を連れ回す……!


 いっぱい楽しいことしよう。



 ◆



 放課後、席を立とうとすると池澤さんが再び声を掛けてきた。



「ねえ、前川くん」

「な……なんだい、池澤さん」

「暇ある~?」

「そ、それは……」



 前の席の苺がこちらをジロリと見つめる。

 ここは丁重に断らねば。

 約束のデートがあるのだ。


「用事あるの?」

「そ、そうなんだ、池澤さん」

「あれぇ、やっぱり伊井野さんと付き合ってるんだ?」

「そ、その……まあ、先約で遊ぶだけ」


「なんか怪しくない~?」



 めっちゃ怪しまれてる。

 なんでこうなるかな!


 困っていると、苺が助け船を出してくれた。



「あの、池澤さん!」

「なに? 伊井野さん」

「わたしと前川くんは遊びに行くって約束をしているの。悪いんだけど……」


「そうなんだ。じゃ、仲間に入れてよ」



「「なッ!?」」



「だって付き合っているわけじゃないんでしょー?」



 確かに、表向きはそうなっている。

 だから池澤さんからすれば俺たちはただの友達の仲。その友達の輪に入るとか自然の流れ。断ればかえって怪しい。


 ……二人だけのデートのはずだったが、これは仕方ないか。



「分かったよ、池澤さん。君も一緒に――」



 誘ってあげようとすると、苺が遮ってきた。

 なるほど……誘うなということか。



「ちょっと、伊井野さん。なんで前川くんを妨害するの!」

「なんでって、二人で遊ぶって約束だもん」

「ふぅん。妙に仲が良いのね」

「普通だよ、普通。付き合ってないけど、別に友達だから」


「友達ならいいじゃない」


「そ、それは……そうだけど」



 ダメだ。池澤さんの圧が強すぎて苺ですら圧倒されている。

 間違ったことは言っていないし、自然の流れすぎて非常に断り辛い。


 こうなったら、今度こそ俺が――。


 けれど、そこで苺を呼ぶ声が。



「伊井野さん~! 廊下に待ち人よー」



 同じクラスの女子がそう言った。



「え……うん」



 覚えがないのか苺は首をかしげていた。



「どうした」

「ちょっと待ってて、海里くん」

「あ、ああ……」



 苺は廊下へ。

 その直後、池澤さんが俺の腕を引っ張って来た。



「伊井野さんは用事みたいね。じゃあ、私とデートしよっか!」

「マジで……」

「マジで」



 なんだこの絶妙なタイミング。

 しかも池澤さんの顔をよく見ると、さっきの女子とアイコンタクトを取っていた。まさか、仲間か……!


 やられた!


 苺と分断されてしまったわけか。



「えっと、すまないけど」

「伊井野さんは用事だってさ。だからもう遊べない」

「だから……」

「行きましょ」


「待ってくれ――うわっ!?」



 池澤さんは俺を壁ドンしてきた。

 かなり密着してきて体とか胸の感触が直ぐそこにあった。


 これは……参ったな。

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