第47話 俺の子ども産めやがれ!

 どうしたものかと思案する。



 ①強引に池澤さんを突破し、苺と合流

 ②このまま維持して、しばらく池澤さんの感触を楽しむ

 ③俺の子ども産めやがれ!



 ここは無難に①だろう。

 だが、強引に抜け出すのも至難の業。なぜなら壁ドンされているから――!


 ②はアリだが、浮気になりかねん。

 それと同時に脅しの材料にもなるだろう。



 ③は論外だ。なぜこの言葉が出てきたか分からないが……ああ、最近ニュースになっていたっけ。それで思い出したんだ。

 問答無用でセクハラ。今後の俺の立場が危うくなる。

 人生終わるので選択肢から除外。



「前川くん、上と下……どっちがいい?」

「えっ……」

「私はどっちでもいいけど」

「な、なにを言っているんだい!?」


「じゃあ、上でいっか」



 さっきから上とか下とかなんだ!?

 まるで意図が分からない。


 戸惑っていると、池澤さんは大胆にも俺の膝の上に乗ってきた。



 うおおおおおおおおおおおおおお!?



 マテマテ、マテマテマテ!

 こんなこと、苺ともしたことないのに!!


 お尻が柔らか――じゃなくて、これじゃあ本当に恋人みたいじゃないか!



「なんで俺の膝の上に乗ってくるの……!」

「いいじゃん」



 大胆に背中を預けてくる池澤さん。

 思ったより小さくて体重も軽く感じた。

 スポーツ系っぽいし、痩せているんだなぁ。


 って、感心している場合ではないぞ俺。


 こんな現場を苺に見られたら、浮気認定間違いなし! このままでは、せっかく築き上げた関係が終わってしまう。


 なんとか脱出せねば。



「池澤さん、申し訳ないけど」

「聞こえなーい」


「なぬぅ!?」



 だめだ。もうここは①の強引に脱出するプランでいくか。

 もうそれしかないッ!



「悪いけど、帰らせてもらうよ」

「そうはさせないよ」

「んなッ」



 抜け出そうとしても、池澤さんの力が強かった。

 力技で腰を上げようとしても全然上がらなかった。

 ど、どうなってやがる!



「残念でした。これでも私、剣道部でね。足腰は強いんだ」

「な、なんだと……」



 スポーツ系だとは思っていたけど、剣道部だったか。確かに激しく動くし、足腰も使う。だからこんなに強いのか。


 体が軽いと思っていても、力はあるんだな。



「逃げれないでしょー」

「くそー…」

「観念して、私と付き合おうよ」

「まさかここまで強引とは。池澤さん、結構大胆なんだね」

「この人って決めたら、私はグイグイいくタイプだからね」


 そんな風に言いつつも、俺の手を握ってくる池澤さん。こ、これでは余計に逃げられない。マズい、マズすぎる。

 なんとかして苺と合流しなきゃならないのに、これでは……!


 そんな中、教室に入ってくる男子の姿があった。


 ん……あの顔はどこかで見覚えがあるな。


 あの明らかにウチのクラスではない男子は……まさか!


 包帯グルグル巻きで痛々しい姿をしている。

 こちらに気づき、俺のところまでやって来た。


「やっと見つけたよ、前川」

「……重守くん! 歩いて大丈夫なの!?」

「ん、あぁ……記憶ぶっ飛んでいるけど、へっちゃら。ていうか、彼女とイチャイチャしてんの?」

「いや、違うんだ。池澤さんは友達」

「へえ、にしては仲が良さそうだけど」

「助けてくれ」

「んー、まあいいけど」



 重守くんは気怠そうにするものの、池澤さんの腕を引っ張った。

 物凄い力で引っ張られた様子はなく、けれど一瞬で彼女は離れてよろめいた。



「う、うそ……なんで!?」

「合気道さ。俺は空手や合気道、剣道や格闘術をマスターしているんだ」



 ちょ、マジかよ。

 だから、めちゃくちゃ強かったんだ。

 でも、さすがの彼も奇襲攻撃には太刀打ちできなかったようで、今まで重症を負って入院していたようだが、もう回復したとはね。凄まじい生命力だ。



「な、何者なの!?」

「俺は……誰だっけ」

「へ」


「あ~、なんか記憶に欠落があるらしくてさぁ。わかんね」



 重守くんは困った様子でもなく、ただ笑っていた。

 でも俺のことは覚えていてくれたんだな。



「重守くん、ありがとうな」

「いや、いいのさ。俺がお礼を言いにきたんだから」

「え」

愛羅武勇アイラブユーの総長・天龍てんりゅう 無限むげんを倒したって聞いたぜ」

「あ、ああ……でも、あれはリベリオンさんが」

「いや、最初にタイマン張ったんだろ。その勇気に感服した」


 手を伸ばしてくる重守くん。俺は固く握手を交わした。


「意識を取り戻してくれて良かった」

「おう。じゃ、この女は拾っていく」

「え?」

「池澤だっけ。好みだからもらっていくよ」


 ひょいっと池澤さんを小脇に抱える重守くん。そんな澄ました顔で!



「ちょ、ちょっと! なにすんのよ!」

「俺が相手してやるからよ。前川の邪魔するな」

「ぐっ……。てか、イケメン……」

「行くぞ」



 重守くんは、池澤さんを連れ去ってしまった。……まあいいか、おかげで俺は身動きが取れるようになった。


 苺を探すぞ……!

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