第8話 寝取られる前に怒りの鉄拳制裁……まさかのまさか

 男の顔を見て俺は驚いた。

 そこにいたのは津田先輩・・・・だったからだ。


「なッ……」

「え、どうして……」


 伊井野さんも同様にビックリしていた。俺は直ぐに伊井野さんを守るようにして前へ出た。



「よくもやってくれたな」



 ギロッとにらんでくる津田先輩。いや……だが、おかしいぞ。彼は警察のお世話になっているはず。取り調べとかでそんな直ぐには出られない。

 即釈放されたってことか?


 にしては、ひとりっていうのはどういうことだ。

 弟の方はどうしたんだ?


「俺に復讐か」

「あたりまえだ! 前川、お前をぶっ殺してやる!」


 充血した眼でこちらを威嚇する津田先輩。けど、本当にコイツは津田先輩なのか……?

 目元のホクロとか、ちょっと雰囲気が違う気がしていた。



「あんた……誰だ?」

「なにを言っている。俺は津田だ」

「そうじゃない。津田兄弟はここにいるはずがないんだ」

「さァな! そんなこと知るか!」


 なにかおかしい。

 この男はなにか違う。


 けど、津田はナイフを取り出し、向かってくる。


 俺は自慢の回避力でナイフを回避した。あっぶね……腹を刺されるところだった。



「前川くん!」

「だ、大丈夫だ。コイツの攻撃はのろい。それより、逃げてくれ!」

「で、でも……」

「俺のことは気にするな。警察を呼んでくれるとありがたい」

「分かった。絶対に死なないでね」


 上手く伊井野さんを逃がし、俺は興奮する津田に向き直った。今度はナイフが頬をかすめた。切れた部分から血が零れ落ちる。痛ぇ……。


「前川ァ! 楽しいよなァ!」

「うるせぇよ。さっさと留置場に戻れ!」

「やなこった。それより、お前の逃がした伊井野だっけ? イイ女だよなァ」


 突然走り出す津田は、伊井野さんを追いかけ始めた。――って、マズイ!

 しかも、津田のヤツ、かなり足が速いぞ。

 追いつかないと大変だ!


「津田、お前!」

「ハハハッ! 前川、お前の女を寝取って、犯して、痛めつけてやるよ!」


 この下衆ゲスがっ……!

 怒りが沸々と湧き出て俺は、なんとしてでも津田を止めてやると猛ダッシュした。息が切れるほどに走り、津田の背中が見えてきた。


 伊井野さんの姿も見えてきた。


 が、伊井野さんは気づかないのかスマホで警察に連絡していた。やべぇ、早くしないと伊井野さんに危険が――!



「津田あああああァ!!」



 俺はギリギリのところで飛び跳ね、津田の背中にタックルをかました。衝撃でゴロゴロと転がって地面に転倒。



「ぐふぉッ!?」



 津田は顔面からアスファルトへ突っ込んでいった。うわ、痛そうだ。



「きゃっ! なになに!? なんなの!?」



 混乱する伊井野さんは、身を引いて焦っていた。俺は直ぐに庇うようにした。



「伊井野さん! 津田がいきなり走り出して君を襲おうとしたんだ」

「そ、そうなんだ。怖かった……」

「俺のそばから離れないで」

「うん、でも警察には今通報したから」

「助かった!」


 あと数分もしない内にパトカーが到着するだろう。それまでに津田を確保する! それが俺と伊井野さんの為でもある。


 顔面の半分に酷い擦り傷を負う津田。

 こんなバケモノが海外のヒーローコミックでいたっけな。トゥー…なんだっけな。そりゃいいや。


 たまたまあったカーブミラーで津田は、自分の酷い顔に気づく。やがて絶望と苦悶の表情を浮かべて涙した。


「…………く、くそ。前川、よくも……痛っ! え……え、うあああああああああああああ!!! くそがァ!! 俺の顔が!! 整形してカッコよくなったのに!」


 まさかの整形かよ!!


「もう諦めろ」

「諦めろ……? ふざけんな! 兄貴たちをよくも……整形費用を出してくれたんだぞ!」


 兄貴ってことは、コイツは弟なのか。



「お前、健太郎なのか」

「あ? 俺は健太郎じゃねェ。弥太郎よたろうだ!」


「「な……」」



 名前が違う!!

 伊井野さんも察したようで、俺の代わりに聞いてくれた。



「あなたたち……もしかして三人兄弟?」

「そうだ。俺たちは三つ子・・・! 悪いのか!!」



 逆ギレしてそう答えを教えてくれる津田。そうか……そうだったのか。ドッペルゲンガーでもなく、コイツ等は三兄弟であり“整形して”そっくりなんだ。


 なんてまぎらわしい!!


 ほぼソックリで分からなかったぞ。


 兄貴達が捕まって、それで逆恨みかよ。



「性格も似ているわけか。もういい、お前も大人しく捕まれ!」


「……俺たち兄弟はブサイクで、そりゃモテなかった。だから、兄貴たちが必死で金を集めて整形費用を貯めてくれた。おかげで三人ともイケメンに生まれ変われた。女にモテモテになったんだ! なのに前川、お前が――ぶふぁああああああああああ!?」


 話が長いので俺は途中で、津田にボディブローを捻じ込んだ。

 完全に油断していた津田は、その場でのたうち回り、子犬のようにピクピク痙攣けいれんしていた。


 三分後、パトカーが到着。


 津田弥太郎は逮捕され、連行。


 俺と伊井野さんは、昨日のことも含めて警察に詳しく説明。一時間ほど経って……やっと終わった。



「……まさか津田先輩が三兄弟だったとはね」

「そうだね、前川くん。わたしもビックリしちゃったよ」

「もう帰ろっか」

「もうすっかり夜だね」

「親父に怒られるな」

「あ、そうだ。家に寄ってく?」

「え……」

「ほら、昨日からいろいろ助けてもらってるしさ、お礼がしたいの」


 伊井野さんがまさかの提案をしてくれた。

 つまり、彼女の家に行けるということだ。


 マジか!


 断る理由がない。俺はこの為にがんばってきた。だから。

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