第38話 守るための選択

 冷戦時代、陸上自衛隊に実際にあったという『別班べっぱん』と称された非公式の部隊。

 その裏世界で暗躍する人物こそ、椙崎刑事だったのだ。


 そんな部隊が今でも実在するだなんて……知らなかった。まるで映画みたいな話だな。


「ビックリしました、椙崎刑事」

「そうだ、私のことは刑事でなくていいよ。仮の姿だからね」

「じゃあ、椙崎さん」

「それでいい。そういうことだから、もし気が向いたら別班に入って欲しい」

「俺なんかを?」

「あの闇カジノに潜入する度胸があった。普通の高校生にはできないことだよ」


 賞賛するように椙崎さんは俺を見つめた。

 正直、俺にそんな才能があるとは思えない。

 今回のことだって、成り行きというか……伊井野さんの為だった。


 でも。


 確かに、山田元議員は日本を腐らせていた。

 腐敗する日本と政治を少しでも良くできるのなら……俺は。


「もう少し考えさせてください」

「もちろん、直ぐに返事を聞かせてくれとは言わないさ。さて、私はそろそろ行く。別班のことは、くれぐれも内密に」



 そう言って椙崎さんは立ち去っていく。

 俺も伊井野さんの元へ戻ろう。



「お待たせ」

「おかえり、前川くん。椙崎刑事、行っちゃったね。なにを話していたの?」

「これからのことさ」

「これから?」

「ま~、伊井野さんのお爺ちゃんをどう助けようかなとかね」

「嬉しいなっ! また前川くんが守ってくれるんだね」



 そんな笑顔がまぶしく映った。

 そうだな、伊井野さんの為なら俺はなんだって出来る。

 考えて見るのもアリかもしれない。



「さて、そろそろ時間か」



 なんやかんやしていたら、もう夕方。

 そろそろ帰らねば。



「帰る?」

「そうだな。まだ明日学校で」

「うん、そうしよ」

「心配だから雀荘まで送る」

「ありがと」



 俺は念のため、伊井野さんを雀荘アパートまで送った。

 脅迫状が届いた以上、伊井野さんも無関係とはいかない。俺がしっかりしないと。


 無事に送り届け、俺は家に帰った。


 これからは常にメッセージアプリで連絡するよう、伊井野さんにはお願いした。



「お、さっそくメッセージが」



 伊井野:今日はありがとね!


 前川:こちらこそ



 帰宅後、リビングへ向かうと妹の陽菜がソファでスマホをいじっていた。

 最近、麻雀のゲームばかり遊んでいるらしい。



「お兄ちゃん、おかえりなさーい」

「ただいま、陽菜。親父と母さんは?」

「二人で出掛けてる~。いつもラブラブじゃん」

「ああ、そうだったな。じゃ、飯は遅くなりそうだな。俺が作るか」

「お願い~」


 我が両親は無駄に仲がいい。

 なので家にいることが少ない。

 俺に陽菜を押し付けやがって。

 まあいいけどね、陽菜は純粋で可愛いから。


 それに、麻雀にハマってくれているから、そっちに集中してくれて俺はむしろ気楽に行動できた。

 伊井野さんの雀荘にも勝手に来るし、ほぼ目の届く範囲にいるわけだから安心だ。


 ならば、いつも通りゆっくりと――。



 む?



 スマホが鳴った。

 何事かと画面を覗くと親父からだった


 なんだ、電話かよ。



「もしもし。なんだよ、親父」

『父さんは今晩、母さんと共に旅行へ行くことにした! しばらく帰らんのでそのつもりで!』



 ――ガチャっと切れた。



 うぉい!!



 俺と陽菜を置いていくな!!



 どうしようと考えていると、今度は伊井野さんからメッセージが。



 伊井野:た、助けて!



 !?


 た、助けてって……なにが起きた!!



「陽菜、俺ちょっと雀荘へ行ってくる」

「え、お兄ちゃんどうしたの!?」

「伊井野さんが大変なんだ!」



 くそっ、やっぱり一人にするべきじゃなかった。俺の判断ミスだ。

 急いで戻る!!

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