第39話 泣いて、喜んで、抱きついてきた
そのまま家を飛び出て伊井野さんの雀荘へ向かった。
走って走って、走りまくった。
急いで向かうと、伊井野さんが外にいた。
なぜ外に!?
俺の方へ気づいて伊井野さんが走って向かってくる。
しかも、泣いていた。
「前川くん!」
「!? 伊井野さん、どうしたのさ! まさか馬淵が……」
「ううん、違うの」
「え……?」
「台所にアレが」
「アレェ?」
詳しく聞くと、伊井野さんは晩御飯を作ろうと台所へ向かった。すると、黒光りした物体が飛んできたという。
ああ、分かった。
その正体に。
古いアパートだからなぁ。
ヤツが出現したか……。
「もう怖くて戻れない……」
「把握した。つまり、Gってことか」
「うぅ、思い出しただけで怖い……」
そんなことなら俺が対処してやろう。
「任せてくれ。こういうのは得意だ」
「ごめん、お願い……」
ウチも何度か出たことがあるからな。
対処のしようはある。
また一度家へ戻り、最強のG駆除セットを装備。俺は再び、伊井野さんの雀荘へ向かった。こういう時、近所で良かったと思う。
準備できたところで雀荘へ。
台所へ突入し、俺は
ヤツはすぐに姿を現し、壁をはっていく。……何度も対処しているとはいえ、やはり目を覆いたくなるフォルムだ。
どうして、こんな生物が存在しているんだかな!
いや、そんなことよりもぶっ倒さねば。
G専用ジェットスプレーを両手に持ち、俺は吹きかけた。
「くらえッッ!!」
ぶしゅ~~~~~~~~と、もの凄い勢いで飛び出るスプレー。
二刀流なだけあり、威力は絶大。
Gは一瞬で壁からはがれ落ち、そのまま天に召された。
これで処理は完了した。
このことを直ちに伊井野さんに報告した。
「ありがとう、前川くん! 君はヒーローだよ!」
泣いて喜んで、しかも抱きついてくる伊井野さん。
助けて良かったぁ……!
「いやぁ、たいしたことは……」
「ううん、助かったよ。前川くんがいなかったら寝れないところだった」
「役に立てて嬉しいよ」
今の俺に出来ることはこれくらいだからな。
「やっぱり、君がいないとダメだね」
「そんなことないさ」
「本当だよ」
ぎゅっと抱きつかれ、それが伊井野さんの本心だと俺は気づかされた。
嬉しい……嬉しすぎる。
そうだ。今なら伊井野さんを家に招くことができるかもしれない。
「その、良かったら家に来る?」
「えっ、前川くんの家に行っていいの!?」
「そりゃ……うん。来てくれたら嬉しい」
「わぁ、やった! 行く行く!」
伊井野さんは乗り気だった。
良かった、断られなくて!
家には陽菜もいるし、喜ぶだろう。
さっそく雀荘から俺の家まで向かった。
辺りはすっかり日が落ちて暗闇に包まれた。腹も減ったし、三人でワイワイするのもいいかもしれない。
帰宅し、俺は伊井野さんを連れててリビングへ。
陽菜はまだゲームをしていた。
「戻ったぞ、陽菜」
「おかえりなさい、お兄ちゃん。なんか慌しいね~…って、えっ! お姉ちゃん!」
伊井野さんの存在に気づく陽菜は、飛び跳ねた。
「こんばんは、陽菜ちゃん」
「どうしているの!?」
「ちょっとお邪魔することにしたの。いいかな」
「もちろんだよ! お姉ちゃんなら大歓迎!」
陽菜は、本当に伊井野さんが好きなんだな。
麻雀仲間というのもあるんだろうけど。
「それじゃ、晩御飯でも作りますかね」
「あ、前川くん。わたしも手伝うよ~」
「いいのかい?」
「お世話になりっぱなしだし、なにかしたいの」
「ありがとう。じゃあ、一緒にやろう」
台所へ向かおうとすると陽菜もついてきた。
「お兄ちゃん、私も!」
「陽菜も? まあいいか。みんなでやろう」
「やったー!」
こうなったら豪華にしてやろう。
なにを作ろうかなぁ。
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