第12話 追い詰められて大ピンチ……その時、路上の伝説現る

 馬淵はこちらに気づいて向かってくる。

 くそっ、イートインは一方通行。行き止まり……詰んだ!


「伊井野さん、俺の後ろに!」

「う、うん……」


 こうなったら俺が盾になるしかない。

 せめて伊井野さんだけでも守るために。

 もうそれしか手段がない。


「よう、前川ァ!」

「……馬淵、やるなら俺だけにしろ」

「そうはいかねぇ。お前も女も引きずり出して、誰もいない場所で地獄を見せてやるよ」


 殺し屋のような目つきで見つめてくる馬淵。……なんて恐ろしい目をしやがる。まるで本当に殺人でもしたことがあるような、そんな目だ。


 俺は人生ではじめて戦慄した。


 コイツは……ヤバい。


 反撃に出るか……いや、馬淵のヤツ、ナイフをチラつかせている。凶器持ちとは……銃刀法違反だが、ヤツには関係ない。


 ダメだ……終わった。


 万事休す。

 打つ手なし……。


 もうダメだと唇を噛んでいると――直後、馬淵の顔が歪み、そのまま目の前に転倒。地面に顔を打ちつけていた。……な、何事!?


 他の仲間も驚いていた。



「…………」



 シ~ンと静まり返るコンビニ。

 店内は幸いにもお客さんがおらず、店員さんがいるだけ。いったい……む?


 よく見ると馬淵の背後には、女の子が立っていた。


 なんか見覚えのある人だ……。



「リベリオンさん!」



 そう声を発したのは伊井野さんだった。……ああ、そうだ。この顔はリベリオンさんで間違いない。そうか、馬淵をぶっ飛ばしたのはリベリオンさんだ。



「店内で迷惑行為はお止めください、お客様――いや、ただの不良共!」



 コンビニの制服に身を包むリベリオンさん。まさか、ここのアルバイトか!



「なんだ、この姉ちゃん!」「馬淵さんをぶっ飛ばしやがった!」「ふざけんな!」「この店の店員は客に暴力を振るうのかよ!」「こんなコンビニぶっ壊してやる!」「やっちまえ!!」



 馬淵の仲間がブチギレて、今度はリベリオンさんを襲おうとする。


 だが。



『ボコッ! バキッ! ズゴッ! ゲシゲシッ! ズボボッ! グシャァ!!』



 あっという間に六人の不良がボコボコにされ、馬淵の仲間たちは全員が逃げ出した。



「うああああああああ!」「なんだこの女……!」「つ、つぇぇ……」「こっちは……六人のはずだぞ……なぜ」「ま、まさか路上の伝説……!?」「いや、まてまて! あれは伝説の話だろ!? 三百人の族共をたった数人で相手したっていう!」



 なんだよ、そのレジェンド級の噂。本当だとしたら、リベリオンさんって何者!? ただの麻雀好きの女の子じゃないのかよ。


 しかし、おかげで助かった。


 倒れている馬淵と呆然と立ち尽くしている山田さんだけが残った。



「ったく、雑魚共め……」

「あ、あの……リベリオンさん」

「あ? ――って、前川くんと苺ちゃん」


 リベリオンさんは俺たちに気づく。


「お強いですね……」

「いや、それほどでも。で、この地面で伸びてる男は知り合い?」

「追われていたんだよ。伊井野さんと一緒にね」

「苺ちゃんと……なら、尚更許せないね」


 リベリオンさんは、馬淵の巨体を片手で持ち上げ、店外へゴミのように捨てた。ありゃ、しばらく立ち上がれそうにないな。



「リベリオンさん、助けてくれてありがとう」

「いいよ、苺ちゃん。あとはあの女だけど」

「あー、そっちは任せて」


 今度は伊井野さんが前へ。

 脅威が去った今、山田さんだけなら何とかなる。


「……っ!」

「山田さん、もうやめて」

「なんで……なんであんたなのよ」

「なにが?」

「私がクラスでは一番だったはず。あんたなんか二番目じゃん! そんなのが……なんで……」


 悔しそうに泣き崩れる山田さん。

 その直後、パトカーがやってきた。


 なんだ、もう来たのか……。


 コンビニの外で倒れている馬淵を連行していく警察。店内に入ってくる刑事さん。



真歩まほ、駆けつけたぞっと」



 真歩……誰のことだ?

 刑事さんの視線を追うと――それはリベリオンさんのことだった。って、彼女の名前かよ! 結構可愛い本名だったんだな。



椙崎すぎさき刑事。我が名はリベリオンだ」

「あー、はいはい。それより、外の不良はある事件の被疑者でね。警察が追っていた人物なんだ」


 マジかよ!!

 やっぱり、馬淵は見た目通り何かやらかしていたらしい。



「そうか。じゃ、後始末よろしく刑事さん」

「相変わらず愛想のない。お前の事件を担当してきたやっただろうに」


 なるほど、リベリオンさんと刑事さんには何かあるらしい。そういえば、路上の伝説とか言っていたし……伝説は本当かもしれないな。


 その後、山田さんも二回目の連行となった。


 今度はもう出てこないで欲しいな。


 そう願って俺と伊井野さんは、リベリオンさんの家にお邪魔することになった。

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