第11話 二番目に可愛い女子を守るために
頼む……こっちに来ないでくれ。
このままだとあの馬淵に狙われて、恐ろしいことになる。
後方には猛追してくる馬淵の姿があった。
くそっ、思ったより足が速いな。追い付かれる……。
そんな中、前方に伊井野さんの姿が見えていた。マズイ!
「伊井野さん、こっちに来るな……!」
「え……前川くん!? なんでここに!」
俺は走りながらも伊井野さんの腕を掴み、走り続けた。
「説明は後だ! 俺を信じてくれ!」
「う、うん。分かった」
伊井野さんは俺のことを信じてくれた。ありがたい。
学校はどうでもいい。このまま遠くへ。
必死に走り、駅を目指す。
こういう時は人混みに紛れる方がいい。
どんどん先へ進んで、ようやく駅が見えてきた。
馬淵の姿は…………ない。
どうやら、撒いたようだな。
人混みの中をゆっくりと進んでいく。
「突然ですまない、伊井野さん」
「ううん、いいの。理由はよく分からないけど、でも、前川くんのことなら信じられる」
「ありがとう、嬉しいよ」
このまま電車に乗ってどこかへ遠くへ……そう思ったが、駅前に馬淵の姿があった。……もう先回りされていたのか。
しかもこっちに気づいて向かってくる。
「これからどうする?」
「しばらくは走り続けるよ。伊井野さん、体力は大丈夫か」
「大丈夫だけど、誰かに追われてるの?」
「ああ、馬淵っていう不良だ。山田さんが仕掛けてきた」
「うそ……なんで山田さんが」
「証拠不十分で出て来れたらしい。納得いかないけど……」
「そんな……」
とにかく、馬淵がこっちに気づいている以上、駅にはいられない。
別の方角へ行こうとすると、今度は山田さんがこっちに接近していた。もう追いついたのか……!
なら、もっと別の方向へ。
しかし、仲間らしき男たちがこっちを睨んでいた。……その数は六人はいるか。馬淵の仲間か何かだろうな。クソッ、八方塞がりかよ。
こんな朝っぱらから、これだけの人数を動かすとは……族というのは本当らしい。それと、早くも駅に先回り出来たのは、バイクに乗ってきたからと推測できた。それらしい、エンジン音が鳴り響いていた。
最初から囲まれていたわけか!
だが、俺は諦めない。
電車には乗れないだろうが、まだ手段はいくらでもある。
「伊井野さん、お金ある?」
「う、うん。少しなら」
「よし、バスを使おう。この時間帯なら、すぐ出発するバスが多いから、それに乗り込む」
「了解」
隣町くらいならお金はそれほど掛からない。
タクシーの乗ると見せかけて、バスに乗る作戦だ。
まずは馬淵たちを引き付けつつ、タクシー乗り場へ。俺と伊井野さんがタクシーに乗ると見せかける。
タクシーの後部座席に乗るような動作で――けれど、丁度通り掛かった客と入れ替わるようにして、そのまま団体旅行の群れに紛れた。
今だ……!
上手く旅行客の中に潜伏して、俺と伊井野さんはバス停へ。
一方で馬淵たちはタクシーを追いかけ始めていた。あっちは俺たちではない。他人の旅行客。これで上手く出し抜いた!
バス停へ向かい、一分後には出発するバスへ乗り込んだ。
「……ふぅ、上手くいったな」
「うん、なんかウチの高校の先輩らしき人たちがこっちを探していたよね……怖かった」
今はもうバイクでタクシーを追いかけて行ってしまった。
驚くほど上手くいったが、早い内に気づくだろうな。タクシーには俺と伊井野さんが乗っていないということを。
一分後、バスは動き出した。
俺と伊井野さんは前の席へ座った。
そういえば、バスなんて久しぶりだ。
普段は徒歩で登校しているし、しかも女子と隣とか……ちょっと緊張する。
「…………」
「どうしたの、前川くん」
「ちょっと新鮮で」
「そうだね。わたしもこんな朝早くからバスに乗るとか初めて。しかも、学校サボちゃった」
「今日は仕方ないさ。今は身の安全を確保する為に逃げて、警察を頼ろう」
「守ってくれてありがと」
嬉しそうに微笑む伊井野さんは、俺の肩に小さな頭を預けてきた。信頼していると、ぼそりとつぶやく。
しかし、その身は少し震えているようだった。
……怖いんだ。
俺は伊井野さんを落ち着かせるために、勇気を振り絞って手を握ってあげた。伊井野さんも握り返してくる。
今はこれでいい。これで……。
* * *
バスは隣町まで走った。
途中で降りて、そのまま近くのコンビニに入った。飲み物だけ買い、イートインを利用。空いている席に座って落ち着いた。
「……ふぅ。伊井野さん、このまま警察に通報しようか」
「それがいいかもね。だって、馬淵先輩と山田さん、仲間の六人……計八人狙われているんだよね? 危険すぎるよ」
そう、今までとは比にならない危険度だ。
下手すりゃ人気のない場所に拉致られて、リンチされるとかありえる。で、伊井野さんを……そんな光景は見たくないし、させるわけにはいかない。
「よし、警察に通報だ」
「うん、そうしよう」
無難に通報しようと思ったが――コンビニに入店してくる馬淵の姿があった。……嘘だろ、もう!?
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