第13話 魔女の館へ。明かされる乙女の秘密

 どうやら、リベリオンさんはコンビニの店長らしい。店長権限で退勤して、あとはバイトに任せたようだ。


 しばらく歩くと魔女の館みたいな屋敷に到着。

 周囲は閑静で、若干自然に囲まれている。なんだかちょっと不気味だ。


「ここがリベリオンさんの家……でっか」

「驚いたかい、前川くん」

「そりゃ、こんな洋館とは思いもしなかったですよ」


 伊井野さんも、このことは知らなかったようで、目を白黒させていた。


「うそでしょー…」

「伊井野さんも来たことないんだね」

「うん。はじめて来た……」

「そうなんだ」


 玄関まで向かうと、これまた別の迫力があった。

 なんだか古びているなぁ。

 使い魔ででも出て来るんじゃないかと思うほどに、異世界感がある。


 扉を開け中へ入ると、広々とした空間が迎えてくれた。中は中世の貴族の屋敷みたいだな。


 リベリオンさんに案内され、ある部屋に。

 どうやら広間らしい。シャンデリアと長テーブルがあった。なんか高級感というか雰囲気あるなぁ。



「どうぞ、座って」



 席に座るよう促され、俺と伊井野さんは座った。

 お、落ち着かない……。


 とりあえず、礼を言わないと。



「さっきはありがとうございました、リベリオンさん」

「さっき? ああ……コンビニのことね」

「そうです。おかげで馬淵は逮捕され、山田さんも連行されました」

「あの人たち、知り合いだったの?」

「ええ、まあ。山田さんはクラスメイトです」

「そういうことか。あ、そうだ。お茶を出すよ。ついでに着替えてくる」


 思い出すようにリベリオンさんは立ち上がって、どこかへ行ってしまった。そういえば、ずっとコンビニ店員の服装だったな。妙に似合っていたけど。


「ねえ、前川くん」


 静かな空気の中、伊井野さんが話しかけてきた。


「ああ……凄いよな。この家」

「リベリオンさん、お金持ちなんだね」

「俺は伊井野さんの家かと思ったけどね」

「家はこんな大きくないよ~。今はあの雀荘が家だし」


 お嬢様っぽい伊井野さんには、こっちがイメージなんだが……分からないものだな。

 しばらくしてリベリオンさんが戻ってきた。

 この前のパーカー姿で。


「お待たせ。はい、どうぞ」


 美味しそうなコーヒーとお菓子を出してくれた。なんか高そうだな。

 さっそく味わうと両方とも美味すぎた。

 なんだ、このコーヒー美味すぎだろ。

 お菓子のクッキーもサクサクとした食感と味……。絶対高いヤツだ。


「うまっ」

「おいしい~」


 俺も伊井野さんも夢中になってオヤツを楽しんだ。



「口にあって良かったよ」

「その、本当にありがとうございます」

「礼はいいって。困ったことがあったら、いつでも言って」

「なんだか、すみません」

「いいよ。苺ちゃんとは麻雀仲間だし、それに前川くんのことも信用してるから」


 淡々と喋るリベリオンさん。ダウナーすぎて感情こそ捉えにくいが、俺たちを良く思ってくれているようだ。それだけで嬉しい。


「あの、リベリオンさん」

「なんだい、苺ちゃん」

「真歩さんって呼んでも……」

「ダメ」


 直ぐに却下され、伊井野さんは落ち込んだ。

 そういえば、コンビニにいた刑事さんがリベリオンさんの本名を口にしていたっけ。ついでに、この館に表札がった。


 どうやら、リベリオンさんは『重守しげもり 真歩まほ』というようだ。


 けど本名を呼ばれることを良く思っていないようだし、ここはソウルネームで呼んであげよう。


「リベリオンさんは、普段はコンビニの店長なんですね」

「良い質問だ、前川くん。その通り、自分はコンビニで勝手に店長を名乗っている」

「ふぅ~ん……って、まて。勝手に名乗っているだけかよ!? ニセモノかよ!」

「まあね」


 まあねって――そりゃ、マズいでしょ!

 さっきの無断退勤!?


「大丈夫なんですか?」

「大丈夫。あのコンビニは今日で辞めた」

「な、なんで……」

「接客が苦手だから……!」


 真面目な顔をして、切実そうに言うリベリオンさん。そうか、辞めたのか……! しかも接客が苦手って……無茶苦茶かよ!


 伊井野さんも反応に困ってるぞ。



「てか、何歳なんですか……」

「女性に歳を聞くものじゃない」

「そ、それは失礼しました……」

「十八歳だ」

「って、教えてくれるのかよ!?」


 しかも十八……やっぱり年上だった。

 お姉さんっぽいとは思っていたけど、そこは感じた通りだった。


「ちなみにだけど、前川くん」

「はい?」

「自分も同じ高校に通っている」

「なんだとォ!」


 同じ高校なのかよ!

 そのことは伊井野さんも知らなかったようで、明かされる事実に固まっていた。そうか、伊井野さんも知らなかったんだな。


「ちょ、ちょっとリベリオンさん! 雀荘では全然教えてくれなかったのに……」


 妙に困惑する伊井野さんは、そうアタフタしていた。


「ごめん、苺ちゃん。自分は口下手だから」

「そんなことないと思うけど……」


 そもそも、この二人はどう出会ったんだ?

 そこが気になるな。

 よし、切り込んでみるかっ。


「伊井野さん、リベリオンさんとはどこで知り合ったんだい?」

「あ~、それね。わたしの雀荘オープン当初に駆けつけてくれたお客さん第一号なの」

「へえ、オープンからいたとはね。じゃあ、結構長いんだ」

「うん、一年くらいだね」


 一年前からリベリオンさんとは仲が良いわけか。けど、今日に至るまで何も知らなかったとは……。麻雀ばっかりやってたのかな。

 というか、我が妹もどうやって迎え入れたんだかな。そこも気になるところだ。本人から問いただしてみるか。


 それから一時間ほど滞在して、帰ることに。



「「ありがとうございました」」



 俺も伊井野さんも礼を言って玄関を出ていく。



「またいつでもおいで。まあ、基本的には雀荘で会うことになるけど」



 最後まで表情ひとつ変えず、クールに去っていく。

 リベリオンさんって不思議な人だなぁ。

 けど、今日は本当に助かった。

 いずれ、この借りを返さないと。

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