第14話 二番目に可愛い女子と共に、平和で甘々な時間を……

 伊井野さんの雀荘まで向かい、送り届けた。

 ここまで何事もなく無事に来れた。


「じゃ、また明日……でいいかな」

「うん。明日からは前川くんの家に向かうよ」

「そうだな。一緒に学校に行こう」

「絶対だからね。約束だかねっ」


 指切りをして約束をした。

 また馬淵とか山田さんが現れないとも限らない。その時は伊井野さんを守れるようにがんばらないと。


 今回は偶然にもリベリオンさんが助けてくれたが、次回は分からない。

 実際、コンビニではボコられる寸前だった。あの時、助けがなかったと思うとゾッとする。これからは少しでも筋トレして鍛えておくか。


 伊井野さんと別れ、俺は家に戻った。


 帰宅すると妹がやって来て元気よく「おかえり~!」と言った。俺は「ただいま」と返した。


「ねえ、お兄ちゃん。お姉ちゃんと会った~?」

「伊井野さん? まあね。今日も一緒だったよ」

「そうなんだ。麻雀やりたかったのに~」

「ああ、そうだ。お前、どうやって伊井野さんと知り合ったんだよ」

「え~、ヒミツ~」

「教えてくれたら、おこづかいをやろう」

「分かったー!」


 我が妹は純粋で助かる。

 あとで特別報酬の500円を進呈だ。


「で、どうやって?」

「えっとね、一か月前にサーちゃんとお散歩してたの」


 サーちゃん。それは親父が買ってきたサーバルキャットのことだ。てか、あんなデカい猫を小学生に散歩させんなッ!!

 しかし、具体的に聞くとどうやら道に迷ってしまったらしい。

 そこに伊井野さんが助けてくれたようだ。


 そうだ、我が妹・陽菜は方向音痴なのだ。尚更、散歩なんて行かせてはならないのはずなのだが、親父め……相変わらず適当なんだから。


「そうか。それで伊井野さんの雀荘に招かれたわけか」

「そうなの~。麻雀もその時に教えてもらったんだ」


 へえ、そんな出会いがあったとは。

 伊井野さんのおかげで陽菜が救われた。大事に至らず本当に良かった。これは改めて伊井野さんに礼を言っておかねばな。



 * * *



 翌日、自然と目が覚めて起床した。

 陽菜の目覚ましアタックはない。……ふぅ。


 制服に着替えて俺は朝の準備を進めていく。今日も学校がある。だるいけど……伊井野さんに会うために今はがんばれる。


 朝食を摘まんで、俺は家を出た。


 メッセージアプリには、伊井野さんから連絡が入っていた。どうやら、あと少しでこっちに来るようだ。


 ちょっと待つと伊井野さんが現れた。



「おはよ~、前川くん」

「おはよう」



 今日も伊井野さんは可愛いな。腰まで伸びる黒い髪は、一本も乱れることなく綺麗だ。パッチリとした目を向けられ、俺はいつも以上に緊張する。


「そういえばさ、昨日の不良グループいたじゃん」

「あ、ああ……馬淵か。族なんだよな」

「うん。なんかね、ネット記事になっていたよ。ほら」


 スマホの画面を見せてくれる伊井野さん。その中身に俺は驚いた。確かに、ネット記事になっていた。

 どうやら、馬淵は『白竜ハクリュウカイ』という族の副隊長であり、相当なワルらしい。犯罪にも手を染めており、ついに逮捕されたわけだ。


 そんな真実を知りながらも、俺たちは学校に到着。


 教室へ向かう。


 ……山田さんはいるのだろうか。

 いや、今度こそはいないはず。

 そう信じたい。


 扉を開け、教室内へ踏み入れると……そこには山田さんの姿は……なかった。



「いないか」

「みたいだね、前川くん」



 俺も伊井野さんも胸をなでおろす。

 ここで逆恨みとかされても、かなわんからな。


 一安心して席につく。

 本来なら隣の席に山田さんがいるはずだった。けど、しばらくはもう来れないはず……。というか、もう色んな意味で無理だろうな。


 それから授業がはじまって……気づけば昼を迎えた。


 山田さんは来なかった。

 きっと警察のお世話になっているに違いない。

 もう気にする必要はないのかも。


 気にせず、俺は伊井野さんを連れて屋上へ向かった。



「今日は快適だね」

「今のところ山田さんも姿を見せないね」

「となると、今度こそ逮捕かな」

「白竜會とも繋がっていたと見なされたのかもね」



 その可能性もありえる。あの馬淵とつるんでいたのだ。自業自得としか言いようがない。


 お昼を食べ終え、残り時間は屋上で伊井野さんと二人きりでゆっくりだ。



「ふぅ、お腹いっぱいだ」

「前川くん、いつもパンだけなんだ」

「そういう伊井野さんも同じだろ」

「まあね」



 俺もだが、伊井野さんも少食とは。けど、それであんな体が細りとしているんだろうなぁ。



「早く済ませて、時間を有効に使いたいんだ、俺は」

「じゃあ、私と同じだね」

「伊井野さんもそういうタイプか」

「ついでにダイエット」

「え~…そんな手も足も細いのに」

「甘いモノが好きだから……ケーキとか」


 恥ずかしそうに答える伊井野さん。そうなんだ。ケーキとか好きなんだな。へえ! それで昼は少ないんだな。


「今日の帰り、甘いモノでも食べに行こう」

「名案! 前川くんのオススメで」

「任せてくれ。一度、伊井野さんに食べて欲しいものがある」

「わぁ、楽しみっ」


 そんな会話をしつつ、昼を終えた。

 最高だ。

 本当に最高だ。


 こんな日を待ちわびていた。

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