第2話 クラスで二番目に可愛い女子が相談に乗ってくれた

 俺は、最近山田さんと上手くいっていないことを伊井野さんに話した。


「特に昨日は酷かった」

「なにがあったの?」


 アレをどう言語化したものか、俺は悩んだ。

 山田さんと津田先輩がシていたとか……ストレートに言うべきか。

 でも、このことを話さなきゃ一生スッキリしないとも思った。誰かに聞いてもらいたい。このモヤモヤをどう解決するべきなのか。


「じ、実は……浮気というのかな」

「えっ! 山田さんが?」

「信じられないだろうけど、そんな光景を昨日見てしまったんだ……。あれが夢か何かであれば良かったけど、ハッキリと見てしまったんだ。この教室でね」


「ウソッ……」


 伊井野さんは口を押え、ショックを受けていた。

 そりゃ、そうだよな。仮にもあの人気者の山田さんが俺と付き合っていて――けれど、他の先輩とも関係をもっているかもしれないとか。


「どう思う?」

「う~ん……。山田さん、そういう人じゃないと思うけどなー。もしかしたら、強く言い寄られて断れなかったとか。弱みを握られて脅迫されたとか」


 ……な、なるほど。言われてみれば、様々な可能性があるわけか。

 だが、本当にそうなのだろうか。

 俺と山田さんは手を繋いだり、キスまでだった。

 今まで最後まですることはなかった。だから余計に俺は傷付き、混乱し、絶望した。

 彼女本人も、そういう経験はないと断言していた。だから確実にはじめてもう……。考えただけで精神と涙腺崩壊しそうだ……。


 ……あぁ、やっぱり俺は山田さんが好きだったんだ。


 でも。でももうダメだ。


「どうすればいい……」

「深刻っぽいね。分かった、一緒に山田さんのことを探ろうか」

「えっ」

「だって、スッキリしないじゃん。彼女の状況を知って、それから判断してもいいんじゃないかな」


「う、うーん……分かった。そうしよう」


 真実を知るのが怖いと思った。でも、このままではダメだ。ちゃんと向き合って、俺は山田さんがなぜ津田先輩とあんなことをしたのか知りたい。

 そして、もし本当にこれが裏切りであるのなら……その時は終わりにしなければ。

 いや、したくはない。

 そんな簡単は話しじゃない。

 くそう、いろんな感情が押し寄せてくる。頭の中がグチャグチャだ。


 山田さんは俺にずっと優しくて、デートもいっぱいしてくれた。楽しいことばかりだったのに……なぜ、なぜこんなに俺は辛い。


 目頭を押さえていると、伊井野さんが俺の手を握ってくれた。


「手、震えているよ。前川くんってそんなに山田さんが好きなんだね」

「あ、ああ……でも今はよく分からない」

「酷い顔をしてるよ。そっか、そんなに辛かったんだね……。ごめん」

「なんで伊井野さんが謝るのさ。君は悪くないよ」

「そ、そうだよね。とにかく、まずは津田先輩のことを調べてみよっか。わたしに任せて」

「ありがとう、伊井野さん。すっごく助かる」


 今は伊井野さんに探偵になってもらおう。

 状況を知り、判断はそれからでも遅くはないかもしれない。



 それから授業を淡々と受けていく。



 山田さんは俺のこと気にせず、ただずっと机に向かっていた。……なんだよ、冷たいじゃないか。やっぱり、津田先輩に乗り換えているってことか。そうなんだよな。


 今は耐えるしかない。

 この爆発しそうな感情を抑えつつ、結果を待つ。


 そうしてお昼を迎えた。

 ようやく山田さんの方から話しかけてきた。



「前川くん、話せなくてごめんね。お昼どうしよっか」

「……今日は飯って気分じゃないんだ」

「どうしたの? 体調悪い?」

「ちょっとね」

「そっか。じゃあ、無理させられないね。保健室行く?」

「いや、いい。それより、山田さん……いや、樹里。俺たち、付き合っているんだよな」


 そう確かめるように見つめると、山田さんは気まずそうに視線をそらした。……オイ、なんだよそれ! なんでそんな余所余所しいというか、妙に気まずそうなんだよ。


「……も、もちろんだよ。前川くんのこと好きだよ。この気持ちは一年前から変わってないし、これからも変わらない」


 信じられない。

 意味が分からないとさえ、俺は感じてしまった。

 昨日のあの光景はなんだったんだ。

 お前は、津田先輩に股を広げ……快楽に溺れていたじゃないかッ!


 問い詰めたいが、ここは生憎教室。まさにその現場だった。教室内にはクラスメイトも多くいるから、今は無理だ。

 それに、伊井野さんの情報収集を待つべきだ。


 グッとこらえ、怒りと悲しみ……憎しみさえも、俺はただただ押さえつけた。


 …………苦しい。


 胸が苦しい。



「分かったよ……」

「うん、じゃあ……行くね」



 そんな中、山田さんは廊下へ向かっていった。

 俺はその程度ってことか。


 廊下に出たところで、俺もまた席を立った。俺も行動に出ねば……。


 山田さんがどこへ向かうのか、この目で確かめねば。


 コッソリと尾行する俺。気づかれないよう山田さんの背中を追う。すると三年の空き教室に辿り着いた。


 ま、まさか……。


 バレないよう扉の窓を覗く。すると、そこには。



『……津田先輩』

『よく来てくれた、山田。昼に会えると思わなかったよ』



 そんな馬鹿な!

 なぜここに津田先輩が!


 伊井野さんが調べてくれているはずだ。けど、伊井野さんの姿はないし……どうなっている。


 それに、やっぱり山田さんは……。



『さっそくお願いします』

『もちろんだ。ここなら誰も来ない……山田、お前は良い体してるからな。楽しませてもらうよ』


 津田先輩は、山田を抱いて制服に手をかけていく。



 ……あ。


 ……あ。



 あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!



 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで……ッ!



 山田さんめ、一度ならず二度までも!!



 現場を去り、俺は教室へ戻った。

 しかし途中で伊井野さんに捕まった。



「ちょ、前川くん、どうしたの!?」

「伊井野さん、もういい。俺は死ぬしかない」

「な、なにを言っているの!? ていうか、津田先輩のことを調べたよ」

「もういいんだ。俺は……もうダメだ」

「なにがあったの?」


 俺は、山田が津田先輩と会っていたことを話した。


「え? 山田さんが?」

「そうなんだ」

「おかしいな。津田先輩は今、食堂にいるけど」

「……は?」


 いや、おかしいだろ、それ。

 津田先輩は確かに山田といた。

 誰もいない教室でヤってる最中なんだ。


「見間違いじゃない?」

「そんな馬鹿な!」


 もう一度確かめに、あの空き教室へ向かった。

 しかし、そこには驚きの光景があった。


 な、なんで……!

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