第3話 やっぱり寝取られていた。でも……

 そこには山田さんと津田先輩の姿はなかった・・・・

 ほんの数分前まで半裸で乱れていてたはず。なのに、今は影ひとつない。俺の気配に気づいて逃げたのか……?

 いや、たった三分だぞ。

 それに、伊井野さんは津田先輩が『食堂』にいると言った。三階ここから一階にある食堂まで全速力で走ったとしても五分以上は掛かる。


 いったい、どうなっている?


 立ち尽くしていると、伊井野さんが声を掛けてきた。


「大丈夫?」

「あ……うん」


 幻なんかじゃない。

 アレは間違いなく山田さんと津田先輩だった。


「そういえばさ、津田先輩のことなんだけどね。後輩の女の子に手を出しているんだって。しかも複数」

「マジか……」

「でも、なぜか浮気の現場だとか証拠が掴めなくて、泣き寝入りしちゃうパターンが多いみたい。被害者の女の子が多いって聞いた」


 ということは、津田先輩が自らナンパしているってことか。だろうな。あのルックスなら余裕だろう。

 でも、そうなら……山田さんは断るはずなのに。なら、脅迫の可能性が捨てきれない。


「伊井野さん、引き続き津田先輩を調べてくれないか」

「いいよ。その代わり、この件が無事に終わったら、わたしの要望を聞いて欲しいな」

「要望?」

「今はナイショ。後からのお楽しみ」


 天使のような素敵な笑顔を向けられ、俺はドキドキした。

 こんなに熱が込み上げてくるのは……久しぶりだ。

 伊井野さんって、こんな良い人だったんだ。

 そりゃ、クラスで二番目に可愛いし、人気もあるから当然なんだろうけど。でも、こうして触れ合って俺は伊井野さんの魅力に気づき始めていた。


 それから、昼飯を食いに食堂へ。


 ついでに津田先輩がいないかチェックしてみたが……すでに去った後だった。山田さんの姿もない。いったい、どこへ行ったんだ……?


 スマホのメッセージアプリも既読がつかない。

 電話もスルー…か。


 午後の授業になっても、山田さんは姿を現さなかった。


 ……おかしいだろ、無断欠席とか。



 時は流れ――放課後。



「どうなっているんだ」

「前川くん、山田さん全然帰ってこないね……」



 前の席の伊井野さんが心配そうな声を漏らす。

 昼を過ぎてから気配がいっさい感じられなかった。相変わらず連絡もつかないし、担任も多少は心配していたが、女子はいろいろあるからなと、まともに取り合わなかった。

 担任は頼りにならない。



「すまない、伊井野さん。手分けして探そう」

「うん、ついでに情報収集もしてみるね」

「頼む」


 二手に別れ、俺は一年の教室から見回っていく。

 しかし、どこも異常はない。


 職員室や図書室なども回ってみるが、いない。体育館も部活をやっているだけ。二年、三年の教室を全て回っても見つからなかった。先に帰ったのか?


 そろそろ時間も遅くなってきた。

 伊井野さんにメッセージアプリで連絡をする。


 けれど、いつまで経っても無反応だった。


 おいおい、伊井野さんまでどうしちゃったんだよ。


 二年の廊下を歩き、俺はふと気づいた。

 そういえば二年には、生徒がだれも近づかないという物置部屋があった。普段はカギが掛かっていて開かずの間。


 まさか、そこに……?


 扉の前に立ち、俺は取っ手に手を掛けた。ゆっくりと開けると――。



「…………ッッ!」



 そこには椅子に縛られ、なにかの器具で口を塞がれている山田さんの姿があった。


 ……な、なんだ、これ。



「山田さん!」

「おっと、動くなよ、前川」

「津田先輩! あんた……これは犯罪だぞ!」

「フ、フハハハ。違う、違う、違う。これは山田さんが……樹里が望んだことさ」

「……は?」

「コイツはこういう束縛ヘンタイプレイが大好きなんだ。お前から寝取ったら、こんな風にエロ女に変貌しちまってよ」


 気安く山田さんの顔に触れ、ニヤリと笑う津田先輩。……そうなのか。

 確認するように俺は視線を向ける。


 すると、山田さんは涙を流しながら、うなずいていた。


「おい、ウソだろ! ウソと言ってくれ!」


 津田先輩は、山田さんの口元の器具を外す。



「……ご、ごめんね……前川くん。でも私……それでも君のことが好きだから……」


 涙を零す山田さん。ふとももにも涙のような雫が滴っていた。まるでそれが“答え”であるかのように。


 ああ、そうかよ。


 山田さんは俺に好意を持ってはいるが、体は津田先輩のモノってわけか。


「俺の気持ちをもてあそんで裏切ったな、山田さん。悪いけど別れよう」

「はは……そうだよね。確かに、津田先輩とは体の相性は抜群だった。でも、それだけ。本当に好きなのは君なの」


 脳が混乱する。

 山田さんはなにを言っているんだ……。


 俺が好きなら、なんで、どうしてその身を津田先輩なんかに捧げてしまったんだ。はじめてさえも……!


 怒りしかない。

 手が震え、今にもブン殴ってしまいそうになる。


「もういい! 俺は帰る」


 背を向けると、更なる光景に俺は愕然となり、驚愕した。



「……ま、前川くん、助けて……」



 そこには何故か伊井野さんがいて、津田先輩がいた。津田先輩は、悪魔のように笑い、伊井野さんを人質にするかのように捕らえていた。



 へ……?



 なんだ、なにが起きてる!!



 後ろを振り向くと、そこにも津田先輩が。



 津田先輩が……二人?



「……? ……?」



 前も後ろも津田先輩が。どういうことだ!!



「ハハハ! こりゃ、傑作だ。おいおい、健太郎。このタネは明かさないと約束したろ」

「兄貴。この伊井野って女が俺たちのことを嗅ぎつけてきてよォ! 仕方なかったんだ」


 …………あぁ!!


 そうか、そういうことだったんだ。


 この瓜二つの津田先輩は……!!



「ようやく気付いたようだな、前川。そうだ! 俺たちは双子の兄弟・・・・・! 顔も体型もソックリなんでね。上手く連携していたわけさ」



 それがトリックってわけか。

 だから、昼の時は弟の方が、俺たちの行動を兄に伝えていたわけだ。上手く逃げて隠れたわけだ。



「兄弟か……」

「そうだ。おかげで力を合わせて美味しい思いを散々してきた。この難攻不落と言われた樹里も簡単に落とせたわけさ」



 二人で作戦を練り、巧みな話術でたくさんの女の子を……山田さんさえも落としたというわけか。

 けど、一番許せないのは伊井野さんを巻き込んだことだ。


「伊井野さんを離せ!」

「おっと、動くなよ、前川。この伊井野って女は次に狙おうと思っていたんだ。丁度良い、お前の目の前で犯してやるよッ!」


 さすがの俺も堪忍袋の緒がはち切れた。


 山田さんはもうどうでもいい。けど、伊井野さんだけは絶対に守ってみせる!


 彼女を巻き込んだのは俺の責任だから――!



「やめろおおおおおおおおッ!!」



 思いっきり踏み込んで、俺は伊井野さんを人質にとっている津田弟の顔面目掛けてストレートパンチを繰り出した。

 怒りが原動力となり、上手く津田弟の顔面にクリーンヒット。



「ごぶふぁぁあッ!?!?」



 津田弟は前歯を折って、そのままゴロゴロ転がって、そのまま壁に激突。気絶した。

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