第6話 クラスで一番可愛い女子が体で迫ってくる。もう終わりにしたい関係……なのに
「同棲……」
「うん。これからは、私の身も心も前川くんのモノだから。私のこと……自由にしていいから」
まるで悪魔のささやき。
その交渉に気持ちが揺らぎそうになりかけたが、ふと伊井野さんの顔が浮かんで、俺は思いとどまることができた。
それに、山田さんの家庭環境だとか過去が本当だとしても――もう全てが遅いんだ。
かつてあった恋心は、とうに冷めた。幻滅している。
「悪いけど山田さんとは付き合えない。だって、これからも体を売り続けるんだろ!? 無理だ……そんなの耐えられない。そもそも女子高生がそんなことをして……犯罪じゃないのか」
「大丈夫、今のところバレてないし。それにね、万が一警察のお世話になるとしても、私は未成年だから被害者扱い。人生終わるのは相手の男だけ」
最低だ。話にならない。激しい頭痛がして、
山田さんは何も分かっていない。
「もういい。もういいよ……山田さん。今ならこのことを担任や警察には話さない。だから、直ぐに足を洗って……人生を見つめ直すんだ」
「嫌よ。これからも体でお金を稼いでいくんだから」
「分かった。止めはしないけど、もう俺に関わらないでくれ」
嫌気がさした俺は背を向けた。
しかし、それでも山田さんは食い下がる。
「ちょっと待って!」
「……話は終わりだよ」
「待って、お願い……。私には前川くんしかいないから」
後ろから抱きついてくる山田さん。ぎゅっと抱きしめられ、その自慢の肉体を押し当ててくる。以前の俺なら興奮して押し倒していたかもしれない。
けれど不思議なことに理性が保たれ、性欲がまったく湧き出なかった。
なんだろう……恐ろしいほどに魅力を感じない。
今背後にいる山田さんは女子のはずなのに。本来なら嬉しいはずなのに。
ああ、そうか。
もう本当にダメなんだ、俺は。
びっくりした。
まさか“嫌悪感”を感じてしまうなんて。
こんな美少女を生理的に無理とか思いたくなかった。だが、体は拒否反応を示している。度し難いほどに。
「いや、山田さんにはたくさんのパパがいるだろ。十分じゃないか」
「え……」
「じゃ、猫を頼むよ。それだけが願いだ」
「わ、分かった! 分かったから! 今からシよ! ここで私とえっちしよ!」
涙目になり、震える手で制服を脱いでいく山田さん。下着姿になり、必死に体を見せつけてくる。更に、俺の目の前で腰を下ろし、ズボンのベルトを外してこようとする。
「触れないでくれ!」
だが、山田さんはそれでも俺のズボンを引きずり降ろして――我が息子に口で触れてこようとした。
マズイって!!
まさか、こんな不意打ちで襲われるとは思いもしなかった。逃げようにも俺の股間に食らいつかれては、ある意味では人質に取られているようなものだ。
「逃げると前川くんの大切な部分を潰しちゃうよ~?」
「この悪魔!」
なんとかして、この危機的状況を脱しようと思った――その時。
「止めなさい、山田さん!!」
屋上の出入り口から現れる伊井野さん。スマホを手に持ち、こちらに歩いてきた。……いたのか!
「い、伊井野さん。なんで!」
「今までの会話はスマホに録音させてもらった。あなたのこと、前川くんに対して執拗に体の関係を持ちかけていたことなど証拠がここにある」
「…………ぐっ! あんた!」
悔しそうに山田さんは唇を噛む。
ずっと近くにいたんだな。
伊井野さんの姿を見ないと思ったら、まさか俺の為に……?
「さあ、前川くんから離れて」
「か、関係ない! こうなったら、伊井野さん。あんたの目の前で前川くんとシてやるわ!」
や、山田さんめ……俺が動けないことを良い事に!
ここで抵抗すれば俺の股間は破壊されかねない。噛みちぎるくらいできるだろうからな。考えただけで恐ろしいが!
「伊井野さん、すまない。今の俺は絶望的だ」
「どうして!?」
「下半身を押さえられてしまっている」
「なるほどね。じゃあ、わたしが助けてあげる」
一歩ずつ進んでくる伊井野さん。
だが当然、山田さんもそうはさせないと俺の股間に口を近づけてくる。……コイツ、俺のイチモツをサメのごとく食い千切る気か!
「それ以上動くと前川くんのお股が血の海になるわよ~?」
「なッ! 山田さん、なにをする気なの!」
「ああ……経験のない人には分からないかもね。男子の急所はとても敏感で、繊細で――脆弱なの。こんな風にねッ!」
ローソクの火を消すような加減で息を吹きかけてくる山田さん。
俺は思わず……。
「……ッッ!!」
クソッ、クソッ、クソッ!!
こんな息ごときで!!
興奮してなるものか! 伊井野さんの前で勃ってたまるか! 絶対にそれだけは避けねばならない。根性を見せろ俺。耐えろ……耐えるんだ、俺よ。
「なんだかんだ言って、前川くんって体は正直よね」
「いや、それは違うよ、山田さん。俺はまだ少しも興奮していない。それを証拠にフニャフニャのままだ」
「チッ……こんなことって。今までの男は秒で大きくしていたのに」
現状を見て山田さんは舌打ちした。きっと今まで何度も男を落としてきたはずだ。知り尽くしているはずだ。そんな彼女が唯一、俺を興奮させられなかった。
残念だったな、山田さん。
俺は好きな相手じゃないとダメなんだ。
「もうやめて、山田さん! 前川くんから離れて!」
必死に訴えかける伊井野さん。そうだ、彼女のためにも俺は抵抗しなきゃ。こんなズボンを下ろされた情けない姿をずっと晒してもおけないからな。
一か八か、後方に下がる!
幸い、俺は親父から格闘技を習っていたことがあった。たいしたスキルじゃないけど、多少の回避力はあった。
脚をバネに変え、俺はバックステップしていく。
そのタイミングで伊井野さんが動き、山田さんを取り押さえる――!
これで!!
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