第51話 今日一日は、まだキミに夢中でいさせてね
僕の思う
そのための僕の大会出場。
しかし大会を見た
いったいどういう心境の変化だったのだろう。
だけれどもちろん待つ。急かしたりはしない。だって……僕はいつも待ってもらっていたのだから。
「キミの試合を見てね……思ったの。たしかに私は試合を観戦したりして……熱中してた。
それは伝わってくれていたようだ。試合観戦の楽しさは
「でもね……それはきっと、どんな試合でも熱中できるわけじゃないんだと思う。たまにスポーツ中継を見るけれど、そこまで熱中することはないんだ。もちろん楽しいんだけれどね」
……家にテレビもないのにスポーツ中継とか見るのか。動画投稿サイトとかかな? あるいは友達の家とか……まぁそれはどこでもいい。
さて、では
「今回この大会に熱中できたのは……キミがいたからだよ」ああ……なるほど。なんとなくわかった。「
だからか……だから
その大会の出場者に……誰かがいるのだ。
知り合いかもしれない。友達かもしれない。恋人かもしれない。親友かもしれない。
ありきたりな風景でも、我が子や知り合いがいれば特別な光景に変わる。運動会だって見ず知らずの子供たちが競技をしているのを見るより、我が子がいる運動会を見たほうが真剣になれるだろう。
だから……
「もしもだよ? もしも私の教え子が……こうやって大会に出てたら、きっと私は全力で応援する。その度に熱中して……きっと感動すると思う」だろうな。常に試合観戦とかすることになるだろうな。「それに……キミが言ってくれたよね。広く浅く知っていることは私の長所だって」
「そうですね」
広く浅くの
「だからね。子供たちにいろいろな競技の入り口を紹介してあげることができると思うの。それで……協力してあげることができると思う」だろうな。共感して、褒めてあげることができるだろう。「その子が伸び悩んでたら、師匠とかも紹介できるかもね」
「師匠……?」
「キミとか」……ゲームで伸び悩んでたら、僕がそのこの師匠になるわけだ。「ほかにも
……
いろいろなことの入り口を知っている彼女だからこそ、無限の可能性を持つ子どもたちに未来を見せてあげられると思う。
唯一……生徒たちの初恋を奪ってしまう可能性があるけれど……まぁそれも淡い青春か。その恋が成就したとしても……それはそれで青春か。
……いや成就したら困る。それって僕がフラれてるって事だ。それはダメだって。
ともあれ……
ならば僕が言うことは1つだけだ。
「応援してます」たとえどんな苦難の道になったとしても、僕は応援している。「できることなら、一番近くで応援したいです」
いつまでもずっと……というのはまだ言わないでおこう。
「遠回しだなぁ……もっとストレートにどうぞ」
「……」本当に……からかっても面白くない人だな……「わかりましたよ……」
ちょっと……恥ずかしい。試合の緊張が消えてきて正気に戻ってきている。
……まぁ正気の状態での告白じゃないと意味がないよな。勢いだけの告白ではダメなのだ。
ということなので……一度深呼吸をしてから、
「好きです」ストレートにってことは、これしかないよな。「僕の……恋人になってくれると、嬉しいです」
「うん」
言葉の瞬間、
なにをするつもりなのかと思ったら……そのまま抱きしめられた。
女性とハグしたのなんて生まれて初めてだった。あんまりにも驚いて、息を呑んでしまった。大会の決勝より緊張してる。心臓が爆裂しそうだった。
「ねぇ……」
「……な、なにに対するお礼でしょう……」
「
「……知ってたんですか?」
「
……なんとなくわかる。
「私には思いつかないことだったよ。恋人を作るなんて、考えたこともなかった。それを気づかせるために、
「遠回しですね……もっとストレートに」
「……キミ、チャットじゃなくてもそんな感じなんだね……」自分でも驚いている。「好きだよ。そんなの……わかってるでしょ?」
わかってはないけれど。今でも
オタクが好きなんじゃなくて、なにかに夢中になっている僕が好きなのだと
ならば僕は夢中であり続けよう。挑戦し続けよう。彼女に嫌われないためにも。
「私は……あんまり成績も良くないからね。これから勉強したりとか体力つけたりとか……ちょっと忙しくなると思う。明日からでも行動を始めるつもり」
「……じゃあ、お互いに忙しくなりそうですね」
僕も次の大会に向けて練習を始めるつもりだった。この大会に出場していた数人と連絡先を交換したので、オフラインでの練習にも力を入れるつもりだ。
「そうだね……私もキミも、夢中を見つけてしまったのだからね」僕はゲーム。そして
「なんですか?」
「今日一日は、まだキミに夢中でいさせてね」
「……へ……?」
いよいよ僕の青春キャパがオーバーして頭から煙を吹きかけた瞬間、
「お話、聞かせてよ。今日の試合のこととか……これからのこととか。ね? いいでしょ?」
「あ……あの……」これからのことってどういうことですか……「あ、あ、あの……会場の片付けを手伝わないと……」
「あ、そうなんだ。じゃあ私も手伝うよ。それからお話しようね」
そのときの
そしてそのまま……一緒に帰ることになった。新幹線で隣の席に座って帰宅することになった。
新幹線の中で、
「よくよく考えたら……まだ私達って、あんまりお話してないんだよね」
それもそうだ。まだ出会って間もないし、この1ヶ月は練習で忙しくて話せていない。
だからこそ……今話そう。
それから
……そうか……
なんにしても……僕の人生、かなり変わったものだ。高校に入学した頃は、なんの面白みもない灰色の青春を送ると思っていたのに……
気がつけば隣の席に美人で優しい恋人が座っている。ずっと出場したかった大会に出場して、準優勝という成績までもらってしまった。
今でもまだ夢なのではないかと思っているくらいだ。
それもこれも……
「キミが私を助けてくれたから、今があるんだよね」
「ポジティブですね……」もうしゃべることも怖くない。「1つ訂正すると、最初に僕を助けてくれたのは
「そうだっけ? まぁ、そんなこと忘れたよ」お礼の言い合いはお互いに望んでないからな。「ちょっとした行動で、人生っていうのは変わるものなんだね。この変化が……キミにとって素晴らしいものだったら良いのだけれど」
「素晴らしいものだと思いますよ」
僕にしては珍しく……自分の人生に満足している。
完全に……今までの選択肢を選んだ自分を褒めてあげたい。
「私は素晴らしいものだと思ってるよ。けど、キミからすれば嫌なこともあったでしょ?」
「嫌なこと?」
「あの……張り紙のこととかさ」
「ああ……あれですか」僕がチート野郎って言いふらした張り紙だ。「まったく気にしてませんよ」
「そう? 犯人探しとかは、しなくてもいいの?」
「何度も言いますけど……それはやめてください」
だって、あれ作ったの僕だし。犯人探しなんてされたら困ってしまう。
そもそもスー・テランが僕の格闘ゲームのときの名前だと知っているのは僕しかいない。だからあの張り紙を制作できるのは僕だけだ。
あんな張り紙を作った理由は2つある。
1つは自分を追い込むため。僕がチート野郎だと学校中で言いふらせば、
そしてもう1つの理由は……まぁ大会を盛り上げるためだ。あれくらい煽られての出場のほうが、
あとは張り紙を見つけた生徒たちがザワつくであろう時間帯に登校すれば終わり。僕は計画通り
そしてこれまた計画通り
これは僕だけの秘密。まぁ
ともあれ……アレだ。これで最大のイベントは終了した。
これまで、いろいろなことがあった。ちょっとしたきっかけで行動して、こんなにも素晴らしい青春を手に入れることができた。
これからも、いろいろなことがあるだろう。ちょっとしたきっかけで行動して……もしかしたら最悪の未来を手に入れるかもしれない。
それでも、まぁいいや。僕が死んでしまったとしても最悪の未来を手に入れたとしてもいいや。それでもきっと、
オタクが好きというより、なにかに夢中になってるキミが好きだって言ってるんだよ 嬉野K @orange-peel
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