第44話 全力で罵倒してくださいね
大会は一ヶ月後。
本当のことを言うと……実は
それから僕はゲーム漬けの毎日を送っていた。大会に出場するという目的を得て、再びゲームへの熱が蘇ってきたようだった。
やはり挑戦というのは素晴らしい。オフライン大会という道の舞台を目標にすると、こうもプレイに熱が入るのか。
今までは同じ場所に閉じこもっていた。
こんなにも楽しいのなら、さっさと挑戦すればよかった。
まぁ、あの停滞があったからこそ楽しめているのかもしれない。泊まることを知っているからこそ、進む楽しさにも目覚めたのかもしれない。
ならば
この大会を通して、
さて……
『楽しい時間というのは、あっという間に経過しますね』
『ついに明日だねぇ……』すっかりチャット友達になった
『絶好調ですよ』本当は少し悪かったりする。『逃げる必要を感じませんね。対戦相手のほうが逃げたがっているのでは?』
『そうかもね。調べてみたら、キミはネット上じゃ有名人みたいじゃないか』スー・テランという名前は格闘ゲーム界隈では知れ渡っている。『ミラージュ897って人とどっちが強いのか。そんな議論がされるくらいには強かったみたいだね』
『それはミラージュ897さんですね』まったく歯が立たなかった。チートを疑われる僕よりも強かったのだ。『最近ミラージュさんは姿を消してしまったんですよね。それでモチベーションが落ちてたんです』
『今頃ミラージュさんはどこで何をしているのかねぇ……大会にエントリーしてたりは?』
『名前は見ませんね』ミラージュさんがエントリーしてるなら、優勝するなんて宣言はできない。『たぶん異世界にでも転生してますよ』
『そうか』適当な返答だなぁ……『まぁ、ともあれ期待してるよ。緊張して吐かないようにな』
『エチケット袋は常備してますよ』
大会とか関係なく、常にエチケット袋を持ち歩いているのだ。すぐに気分が悪くなってしまうからな。
まぁ実際には人前でぶちまけたことはないけれど……お守り代わりだ。気分が悪くなっても大丈夫という備えがあれば、気分が悪くなることも少ない。結局は精神的な理由であることが多いのだから。
『ちなみに一人部屋の気分はどう?』
『悪くないですよ』
僕の現在地は東京だ。明日大会があるのだから、会場の下見やらを含めて前日から東京に来ている。
ちょっと贅沢な一人部屋に宿泊させてもらっている。今までバイトをしてそこそこのお金が溜まっていたし、今日くらい使ってもよいだろうと思った。それよりも明日のコンディションを整えることが重要だ。
『しかし残念だな。二人部屋を取ってくれたら
『緊張して眠れなくなっちゃいますよ』
『それもそうか』
そうだそうだ。
『最近、
『ほとんど話してないです。たぶん気を使ってくれてるんでしょうね』
僕の練習の邪魔をしないようにしてくれているのだ。別に少し話しかけるくらい大丈夫だと思うが……
『それで、いつ告白するの?』
『優勝したらするつもりですよ』
『じゃあ確定ってことか』
『その認識で大丈夫ですよ』告白が成功するとは限らないが。『フラれたら全力で罵倒してくださいね』
『慰めなくていいの?』
『やめてください。惨めだし、好きになっちゃいそうです』
しかし何度も言うが男なんてのは単純で、落ち込んでいるところに優しくされたらコロッと落ちてしまうものなのである。
『まぁ、どっちも成功することを祈ってるよ』優勝も告白も。『大会前日に邪魔して悪かったね。あとは表彰式で会おう』
『
『じゃあ、また明日ね。私はミラージュ897さんじゃないから安心してね』
……
……うん? なんか最後のチャットの流れが変だったな。
ミラージュ897ではない? 表彰式で会おう……?
……
え……?
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