第43話 経験上

 せっかくの機会だ。僕の通っている学校だけじゃなくて、世間的にも『スー・テラン』がチートをしていないことを知らしめてやろう。


 おそらく世間的に本名がバレるだろうけれど、まぁしょうがない。それはそれだ。名前がバレたら、どうせなら配信でも始めてみようか。それもやってみたかったことだ。


 そのためには雨霖うりんさん以外の人とも喋れるようにならないとな……先は長そうだ。


 そう……僕が喋れたのは雨霖うりんさんの前でだけだった。地平ちひらさんともしずかさんとも、まだチャットでの会話が続いている。


 雨霖うりんさんは……僕が喋ったことに関して、何も言わないでいてくれた。それが当たり前のように接してくれた。大騒ぎされるとつらいので、そうやって触れないでくれるのがありがたかった。


 俎上そじょうさんと揉めたその日の休み時間に。地平ちひらさんからチャットが来た。


『話は聞いたよ。キミもなかなか大胆なことをするものだね』


 地平ちひらさんは遅刻の常習犯なので、僕と俎上そじょうさんが揉めている時間には学校にいなかったのだろう。だから人から話を聞いた。


 それで直接僕に話しかけてくれないところを見ると……地平ちひらさんもちょっと怒ってるみたいだな。そりゃそうか。僕が勝手に……僕の身を危険に晒したのだからな。


 ともあれ、ここは安心してもらおう。


『大丈夫ですよ。僕が勝てば解決です』

『それが難しいことは知ってるだろ?』前々から思ってたけど……地平ちひらさん、ちょっとゲームに詳しいよな。『リスクが大きすぎるよ。それに、ネット上の名前がバレることはかなり面倒でしょ? そんな大々的にやらなくても……』


 スー・テランが僕だとバレたら、そりゃ多少は叩かれるだろうな。仮に大会で優勝しても、納得しない人達もいるだろう。

 それに、もしかしたら家まで特定されるかもしれない。まぁ僕は一人暮らしだし、ある程度の行為までは耐えられるけど。


『バレて困るようなことはしていませんよ』チートもしていなければ迷惑行為もしていない。『強すぎることが迷惑じゃない限り、ですけど』

『経験上キミみたいな人が強気な言動をする場合は、かなり怖がっているときだよ』本当に鋭い人だな……『それでもキミはやめないんでしょ? なんか覚悟が決まった目をしてる』


 そこまで鋭く推察してくれるのなら話が早い。


『僕が出場するのはもう決めたことです。誰のためでもない。僕の熱中を見つけるために出場するんです』


 雨霖うりんさんと知り合って、熱中というものについて考えた。その結果として……僕の熱中は甘かったことに気がついた。


 もっと深く熱中したい。夢中になりたい。そのためには……新たなステージに進む必要がある。現状のゲーム環境に満足してはいけないのだ。


『そこまで覚悟があるのなら、もう止めない』そう言ってくれるとありがたい。『私も応援に行っていいかな?』

『応援は苦手なので、見学ならご自由に』

『じゃあそうさせてもらう』そうして地平ちひらさんから、次の言葉が送信されてきた。『信じてるよ』


 信じてる……それはまた、もったいない言葉だ。僕なんかを信用する必要はないというのに。


 まぁ僕を信じて安心できるというのなら、いくらでも信用すれば良い。裏切った場合は……軽蔑してくれたら良い。


 ともあれ、もうやることは決まった。やることさえ決まれば……あとは行動するだけ。そして結果が出るだけである。

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