第27話 私の運命の人だぜ

 雨霖うりんさんと楽しくゲームをしていると、あっという間に時間が経過した。


 雨霖うりんさんは素直かつ飲み込みが早く……すごい速度で成長していった。この速度なら、やりこめば僕よりもうまくなるだろう。


 感心したと同時に、雨霖うりんさんがなにかに熱中できない理由もわかった気がする。


 彼女はきっと……なんでもそつなくこなせるタイプなのだ。やればできるタイプ。だけれど……なにかを一定まで極めることができない。飽きっぽいわけじゃないのだけれど……なんでだろう。


『そろそろ夕食?』

『そうですね……』気がつけば7時を過ぎていた。『雨霖うりんさんも夕食ですか?』

『そうだね。いつも適当に食べてるけど、今日はもう食べちゃおうか』ということは、いつもはもっと遅いんだな。『なに食べるの?』


 まだ決めてないけれど……


『牛丼が好きなので、食べに行こうかと思ってます』

『キミも牛丼が好きなんだ』ってことは……雨霖うりんさんも? いや……好きと好物は違うよな。『せっかくだし一緒に食べる? ゲームの話も聞きたいから』


 ……


 ……


 一緒に夕食を?



 ☆



 他の人と一緒に食事をするのなんて、いつ依頼だろう。おそらくその昔……家族と一緒に食べたことがあるのは覚えている。その時はまだ僕も小さな子供だった。


 その後、僕は順調にボッチロードを歩いていた。それで良いと思っていたし、後悔したこともない。


 はっきり言って、僕は人間が苦手だ。それでも、誰かに好かれたいと思う面倒くさい人間だ。


 そんな僕を、どうして雨霖うりんさんは食事に誘ってくれるのだろうか。


 あまりにも気になった結果……僕は地平ちひらさんにチャットを送った。もちろん雨霖うりんさんには見えないチャットグループである。


雨霖うりんさんは他人との距離感が近すぎませんか』

『私が言うのもなんだけど、そうだね』地平ちひらさんも距離感が近いもんな。『私たちからすれば親しみの証でしかないんだけど……そっちからすると迷惑だったりする?』

『基本的には困惑しているだけです』稀に迷惑だったりもする。『どうして雨霖うりんさんは僕を食事に誘ってくれたんでしょうか』

『それも親しみの証でしかないんだけど』コミュ力おばけってことか……『まだ大した意味はないよ。ただ仲良くなったから一緒に食べようってだけ。私たちからすれば不思議じゃないんだけどね』


 これがトップカーストに位置する人間の思考回路と行動力なのか……とても真似できそうにない。


 そんなことを思っていると、しずかさんがチャットに参加してきた。そりゃ僕と地平ちひらさんとしずかさんのグループチャットだから、しずかさんも見ているだろう。


『私は苦手だったわ。あなたのそのノリ』

『衝撃の事実なんだけど。もう10年くらい一緒だよね私たち』そんなに長い付き合いだったのか……『一応解説しておくと、私としずかゆうは幼馴染だよ。すずとは高校に入ってから友達になった』


 なるほど……地平ちひらてんさんとしずかゆうさんの友達関係の中に雨霖うりんすずさんが入って完成したグループなのか。


 ともあれ、しずかさんは地平ちひらさんに言いたいことがあるようだ。しずかさんはチャットが苦手なので、少し間が空いた。


『すぐ食事とか誘ってくるし、遊びも誘ってくる。私は1人になりたかったのに』

『ごめん……』本気で落ち込んでるのが伝わってくる。『……今後は、気をつけるよ……』

『あなただからいいわよ。他の人に誘われるのは面倒だけど、てんすずの誘いなら大丈夫よ』


 ツンデレかよ。

 しかしなるほど。地平ちひらさんのノリは苦手ではあるが、地平ちひらさんそのものは嫌いじゃないと。絵に描いたようなツンデレ発言だな。


『嫌なら最初から断ってるわ。私は愛想笑いとか苦手だから』

『心の友よ』なんか友情話が盛り上がっているな。『やっぱりゆうは私の運命の人だぜ』

『そうかもね』


 ……仲良しだなぁ……なんかこういう友情は見ていてほっこりする。僕には……ないものだからな。

 

 さて2人の美しき友情を見届けてから、僕は家を出た。


 目的は当然……雨霖うりんさんとのデート……じゃなくて食事である。

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