まだキミに

　翌日、地平（ちひら）さんからチャットが来た。

『喃（なん）が入院するんだってよ。最近、休みがちだったから……そうだろうとは思ってたけどね』

　喃（なん）……喋喋（ちょうちょう）喃（なん）さんか。名前と神というあだ名だけ聞いていた人物だ。出会ってみたかったけれど、まぁしょうがない。これもめぐり合わせというやつだろう。

　……僕の選ぶ選択肢次第では、喃（なん）さんと出会うルートもあったのだろうか。そもそも雨霖（うりん）さんたちと出会わないルートもあっただろうから、出会う可能性もあったんだろうな。

　僕たちは色々な可能性の上を生きている。それは少しの行動でレールが切り替わって、まったく知らないところまで僕を運んでしまう。気が付かないうちに違う世界線に移動しているなんてことが起こり得るのだろう。

　あの日……雨霖（うりん）さんと出会ったあの日。僕が行動しなかった世界線もあるのだろう。喋喋（ちょうちょう）喃（なん）という人物と出会っていた世界線もあるのだろう。

　それらの世界線の僕は後悔していないだろうか。幸せだろうか。挑戦しているだろうか。

　わからない。わからないけれど……どっちでもいい。他の世界線の僕のことは、そっちの僕に任せておけば良い。そいつなら、きっとなんとかする。僕の助けなんていらない。

　大事なのは、今この世界線の僕をどうするかである。他の世界線の僕に助けてもらいたいところだが、味方にすると頼りないからやめておこう。

　地平（ちひら）さんからのチャットは続く。

『喃（なん）は今までも何度か入院してるからね。今回も大事には至らないと思う。でも、病気持ちの子だからね。いつまでも大丈夫なんて言えない』明日にでも別れが来るかもしれない。そしてそれは……『私達も同じだよね。今日、今すぐ命が尽きるかもしれない。だからまぁ、お互いに後悔しないように生きようね』

　僕も同意だ。

　僕の命がいつまで持つのかはわからない。案外ちょっとしたことで尽きるのかもしれないし、憎まれっ子世に憚るということわざを証明する形になるかもしれない。

　まぁあれだ……とにかく、僕は今の僕の人生と行動に後悔しない。唯一喋喋（ちょうちょう）喃（なん）という人物と出会えなかったのが残念だが……まぁしょうがない。いつか出会うこともあるだろう。

　さて……では……

　行動開始といきますか。

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