修行

第33話 ラップかよ

 地平ちひらさんとのチャットは続く。しずかさんも見ていると思うが、おそらくチャットの速度に追いつけないのだろう。


『キミが魅力的な人間なのは私が保証するが、このままだと進展がないね』


 僕が魅力的な人間、という言葉以外には同意しよう。


 僕は受け身の人間というか……指示待ち人間なのだ。自分から物事を進展させることなんてほとんどない。雨霖うりんさんを助けたときくらいのものだ。


 雨霖うりんさんが僕を遊びに誘ってくれるのは、友達だと思っているからだ。それ以上の関係性は望んでいない。本来ならば望んではいけない。


『さて、どうしたら友達から恋人に進展するかな?』

『純粋に想いを伝えるとか』

『よかったね。より友達に近づくよ』まだ告白は早い。『しかし案としては悪くない。キミがすずと恋人以上の関係になりたいと思っていることは、いつか伝えないといけないからね』

『今じゃないって話ですよね』

『そういうこと』


 もっと仲良くなってから。もっと親しくなってから。もっと……好きになってから。


すずは恋に関してはアホだからなぁ……気づいてもらうってのは不可能に近いね。やっぱりキミの言う通り、素直に直接伝えるのが早いよ』


 しかし今のままじゃ玉砕するのだ。なんとかしなけば……そう思っていると、


『修行でもしたら?』珍しくしずかさんからのチャット。『身も心も鍛え上げて、魅力的な男になればいいわ』

『それもありかもね』勝手に話を進めるな。『ゆうの道場にお邪魔させてもらいなよ。そしたら、魅力はアップするよ』


 ゆうの道場……しずかさんの道場? しずかさんの実家は格闘技か何かの道場なのだろうか。


 疑問に思っていると、しずかさんが返答してくれた。


『私の実家道場。来たいならどうぞ』

『ラップかよ』

てんは出禁』

『私は何回出禁になるんだろう……』


 何度もなるものじゃないけどな……1回出入り禁止の時点で、次はないのだ。なにをやらかしたら何度も出禁になるんだよ。


 そして……別にしずかさんはラップなんてしてないぞ。


『ま、実際なにか心身ともに鍛え上げるのはアリかもしれないね。そうして自分に自信を持てたら、なにか変わるかもしれないし』


 もしかしたらしゃべれるようになるかもしれないし。


 実際……チャットで会話するのが面倒に感じることもある。他の人と同じようにしゃべれたら楽だろうと考えることもある。


 今は雨霖うりんさんたちが受け入れてくれているからなんとかなっているが、軽微な問題は生まれ始めているのだ。


 なんとかしてしゃべれるようになりたいものだ。


 そして……


 もう1つの計画も進めておこうか。

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