第6話 ふつつかものですが……
助けてもらったお礼を言いたい。だけれど怖くて声が出ない。
僕は自分の声が嫌いだ。見た目に合わない、気持ち悪いと言われたことがある。
僕がワタワタしていると、
「そんな慌てなくても大丈夫だよ」相変わらず柔らかい笑顔の
そうかもしれない。ただ話すだけなら出会って初日でもできるだろうが……ちゃんと心を通じさせた会話は長期間の関係を築かないと不可能だろう。
それくらい気長に待ってくれているから
しかし……僕は今、感謝を伝えたい。
その気持ちを汲み取ってくれたのか、
「そうだね……じゃあ、スマホ持ってる? アドレス交換しようよ」
コミュ力おばけ……なんで初対面の相手にアドレスとか聞けるの? コミュニケーション能力高すぎない? 僕には絶対に真似できない……
そのまま僕はスマホを取り出して、チャットアプリのアドレスを交換する。このチャットアプリ……入れたは良いが、一度も使ったことがなかったやつだな……ポイント受け取りのために企業のアカウントを友達登録しただけにとどまっていた。
そんなチャットアプリに
さっそくチャットアプリにメッセージが送られてきた。
『届いた?』
なるほど……チャットアプリなら僕も会話できるかもしれない。
『届きました』
「よかった」
『そっちのほうが安心できるので……』
『そっか』納得してくれた。『そういえば自己紹介してなかったよね。私、
『僕は――』僕も自己紹介をしてから、勢いのままに、『今日はありがとうございました』
『感謝されるようなことをしたっけ?』
『ノートの件で……』
『そんなの気にしなくていいよ。キミはなにも悪くないし』僕がちゃんと喋れていたら、
『そんなことは……』
……なんか普通に会話できているな……僕もチャットアプリを使えばちゃんと会話できたようだ。僕すらも知らなかった。
しかし順調に物事が進んでいると、不安になってくるのが僕という生き物である。とはいえ問題が起きても不安になるんだけれど。というか常時不安なのだけれど。
『ごめんなさい……』
『なんで謝るの?』
『僕がちゃんとしゃべれていたら、こんな手間はかからないのに』
『こっちは気にしてないよ。チャットでしゃべるのがキミの言語ってだけ』……僕の言語……? 『日本語とか英語とかフランス語とか、いろんな言語があるでしょ? その中には筆談とか手話とか、こうやってチャットで話すというのも含まれているんだよ。その中でお互いが意思疎通できるものを選べば、なんの問題もないよ』
……チャットも言語の1つ……なるほど。その考え方はなかったな。
それにしても
暇なのか気を使ってくれているのか、
『ご趣味は』
『お見合い……?』
『ふつつかものですが……』
こんな冗談も言う人なんだな……
ともあれ……僕の趣味か。それは1つしかないな。
『趣味はゲームです』
『ゲームか。私は昔、ピコピコするやつをやっただけだよ』同年代だよな? 『ゲーム好きなの?』
『はい』
それは自信を持って断言できる。
それと……なぜか
『私は好きなもの、ないんだよね』少し、
夢中になった経験……
僕にはある。ゲームに夢中になった経験がある。
そして……かなり真剣に悩んでいるようだ。
『私の友達は好きなことがあるんだ。周りの人も、これが好きだっていつも言ってる。部活とかやって……一生懸命1つのことに打ち込んでるんだ』たしかにうちの部活動は盛んだ。『私には、なにもないの』
なにもない。
……なんだか僕程度では想像もできないような悩みが、彼女にはあるようだった。
「私、このまま大人になるのかな」
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