第37話 ディアルの入学初日
日中の授業は、それはもう針の筵と言ってよかった。
何せあらゆる授業で敵視されていて、授業で絡むあらゆる人物が俺を敵視しているのだ。
「ゴッドリッチ! 剣術授業で俺と模擬戦をしないか!? ――――ぎゃあっ!」
「ゴッドリッチくん、魔法の授業で君と決闘式訓練をしたい。受けてくれるね? ―――うぐっ、強すぎ、がぁっ!」
「ではこの問題を……ゴッドリッチ。ふふ、解けないか? 所詮生徒ではこの程度……え? は? なん、何で解け……!?」
生徒だけならまだしも、教師まで明らかに難しい問題を吹っ掛けてくるのだから、いい面の皮である。
とはいえ俺も百戦錬磨。その辺の生徒など正直相手にならないし、勉強だってすでに卒業間近レベルまでは予習済みなのだ。
その意味では、学園は政争の場、と聞いていなければ退屈していたかもしれないな、と少し思う。
嫌だけどね、政争。暗殺者が行きかうとか怖すぎだし。
そんなこんなで放課後、俺はユディミルの指定する、自寮でもあるプロテス寮の裏庭に立っていた。
そしたら案の定本日七回目のケンカを売られた。
「やいゴッドリッチ! お前主席合格者とか言われてイキってるらしいな! 十三王子派閥ごときが調子に乗りやがって!」
「はい、勝負形式は何?」
「えっ? あ、じゃあ……召喚獣だ! 召喚獣同士の勝負をさせてもらう!」
俺が一番乗りと見えて、しばらく壁を背に立ち尽くしていると、例のごとくケンカを吹っ掛けてくる奴が居た。
ここまでくると、大体俺も掴めてくる。表立って喧嘩を吹っ掛けてくるのは、恐らく『王子から簒奪した名誉を汚せ!』という目的があるからだろう。
理事長先生が言っていたが、恐らくは主席合格者というのは、王子がなるものだったのだ。だからケンカしに来る奴は、全員『十三王子派閥』がどうとか言う。
「来い! ミノタウロス・ジュニア!」
その少年は干し肉を口にして、そう叫んだ。すると成人男性くらいの牛頭のムキムキ男が、どこからともなく現れる。
「ハハハハッ! どうだ! 怖いだろう! こいつは伝説の怪物ミノタウロスゆかりの召喚獣だぞ! さぁ、お前の召喚獣を呼べ! ゴッドリッチ!」
少年は喚き散らかして俺に言ってくる。俺は隣に立つ小さなメメと目を合わせた。
「呼べって言われても、ねぇ?」
「おとさま、あの人の目、節穴みたい」
「はぁ!? 何を言ってやがる! 獣人風情が!」
どうやらメメは、生徒判定らしい。まぁ常時呼び出し状態だし、今は制服も着せてるしな。勘違いしても仕方ないか。
「じゃあメメ、頼むよ」
「めぇ!」
前に進むメメである。すると少年は、腹を抱えて笑い出した。
「ははははは! 何だそのちっこいのは! 獣人を連れてると思ったら、そいつお前の召喚獣かよゴッドリッチ! おいおい大丈夫か? ミノタウロスジュニアは狂暴だぞ!」
「めぇ、さっさと掛かってくるの」
メメは興味なさげに促す。少年は眉根を寄せてメメを睨む。
「こっちは心配してやってるのに―――なら行け! ジュニア! そいつをめちゃくちゃにしろ!」
「モォォォオオオ!」
牛頭の怪物が、メメに向かって突進してくる。それに俺はあくびをし、メメは「めぇ」と前傾姿勢を取った。
パチ、と僅かな静電気音。
衝撃は、遅れてやってきた。
床を砕く音と共に、ミノタウロスはメメの手でねじ伏せられていた。魔法を使うまでもなく放たれた電気が地面を走り、ミノタウロスは石でできた地面にめり込んでいる。
「……は?」
「メメ、もう少し加減」
「めぇ、思ったより弱くて……ごめんなさいおとさま~」
メメが涙目で俺に抱き着いてくる。俺はメメの頭を撫でながら、「手加減の訓練を増やした方がいいかもね」と肩を竦める。
一方、瞬殺された召喚獣に、少年は言葉を失っている。
「え……? は……? え、いや、そんな、え。だ、だって、俺は、召喚獣の成績、学年十位に入ってて、そんな……」
「悪いね、メメは特別なんだ」
何せ原作ではラスボスである。年々身体能力も魔法も強くなっている。マジでどこまで行くんだろうというのが、主である俺の目下の悩みだ。
そうしていると、「よう、派手に分からせたな」と声をかけられた。
「お、待ってたよユディミル。それに……マリア、君も来たんだね」
「はいっ! ディアル様。今回のお話は、『第十三王子派閥』としてのものになりますから」
答えたのは、制服を可愛らしく着こなしたマリアだった。ピンクの長髪を揺らして、清楚に微笑んでいる。
「あ! メメ、今の模擬戦で髪が荒れてますよ? 後で梳いてあげますね」
「めぇ~。マリア好き~!」
「うふふふっ、わたくしもメメが好きですよ」
メメがマリアに寄っていく。いい……。俺の召喚獣と婚約者が仲良くしてる図、いい……。
それはさておき。
「メンツは揃ったな。じゃあ行くぞ」
そう言うユディミルに、俺は尋ねる。
「ロムは? 派閥って言うなら、ロムも入るでしょ?」
「一応そう思ってたんだがな。結局朝から今まで捕まらなかった」
「アレ、そうなの?」
「ああ。後を追うと『イジメから助けられた』とか『困りごとを手伝ってもらった』とかいう話ばかり聞く。今日一日、オレが聞いただけでも十件越えだ。あいつは何者だまったく」
俺は苦笑する。入学初日から、全力で主人公をしているらしい。なるほど、ロムはサイドストーリーを網羅するタイプか。
「じゃあ仕方ないね」
「ああ。次に会ったら、もう少し連絡が取りやすいようにしろ、と言い含めておいてくれ」
言って、ユディミルは歩き出す。それに俺は続き、メメ、マリアと列をなす。
「さぁお前ら。これからオレたちの、入学最初の政争だ。うまく立ち回れよ」
ユディミルが笑う。俺はごくりと、つばを飲み下す。
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