第16話 残るは

 俺とメメは、同時に言った。


「「ホワイトサンダー・パラライズ」」


 同時に二人を、麻痺の魔法で狙い撃つ。「ぎゃぁっ」「あがががががっ」と痺れて、その場に立ちながら痙攣する。


 それに、俺たちは同時に肉薄した。俺とメメは体格こそ違うが、肉体的な練度は大体同等だ。


 だから俺たちは、同時にそれぞれに近い敵に飛び掛かり、地面に押し倒してから拳で一撃を入れた。


「ガフッ」「んごぇっ」


「制圧!」「めぇ! こっちも倒した!」


「おいおい親友! お前ら手が早すぎるぞ! 負けてられないな―――アプル!」


「御意に」


 ユディミルの左手首に巻き付いて、蛇の召喚獣アプルは、暗殺者の背後の木まで体を伸ばし、その幹に噛み付いた。


 直後アプルは勢いよく縮み、ユディミルの身体を強く引っ張る。まるでワイヤーアクションのように、ユディミルは敵に急接近し。


「拳で一発だ」


 勢いそのままに、ユディミルの拳が暗殺者のアゴに命中した。ぐらりと男は体を傾げ、そのままその場に崩れ落ちる。


「ユディミルもやるね」


「だろう? お前も期待以上だったぞ、親友」


 拳をぶつけ合う。思ったよりノリが合うな。仲良くなれそうだ。


 と思っていたら、メメが駄々をこねた。


「めぇ~~~! メメも! メメもそれやる!」


「ぐーのやつ?」


「めぇ!」


 俺が拳を固めると、メメもきゅっと固めて、軽くぶつけ合う。メメは嬉しかったのか「めぇ~~~!」と俺を抱きしめて、胸元辺りでぐりぐり頭をこすりつけて甘えてくる。


「あはは、メメは可愛いなぁ。おぐ、角……あ~でももふもふが同時に、あぁ~」


「親友、お前チビ羊とじゃれてるときは気持ちが悪いな」


「は?」


「うお驚いたこれでお前はキレるのか。分かった、触れるのはやめるからその目をやめろ」


 お互いの程よい距離感が測れたところで、俺たちは暗殺者たちを見下ろす。


「さて、どうしようかこれ」


「拘束し、一人ずつ起こして情報を吐かせる」


「一人ずつ?」


「同時に話させると、目配せなり何なりで示し合わせて嘘つくからな」


「なるほど賢い」


「これはどちらかと言えば経験だな。家庭教師に叩き込まれたぞ」


「ユディミルの家庭教師やばくない……?」


「否定はしないな。陰気なのっぽなんだ」


 ふはは、と笑いながら、アプルの口の中から頑丈そうな縄をユディミルは取り出す。


「あ、そこ収納できるんだ……便利……」


「めぇ!? お、おとさま! メメの髪もたくさん入るの!」


「え? ……あれと比べ物になるくらい?」


「めぇ! 人なら五人くらい入る!」


「本当に!? すごいな。そうなんだ……今度試そ」


 とかやり取りしていたら、ユディミルは拘束を終えて、早速暗殺者の一人を起こしていた。


「んぐっ、ハッ、ここは」


「よう、暗殺者。お前で尋問は最後だ。お前らは誰の差し金できた。何人で来た。計画の段取りまで全部話せ」


「っ!? 最後? まさか」


「ああ、そのまさかだ。お前の横で寝ている連中はもう話した。助ける約束でな」


 暗殺者が仲間を、裏切り者を見る目で睨みつける。全然そんなことないのに。


「なら、もう何を話しても意味なんて」


「いいや? 一番多く情報を吐いた奴一人を助けることにしていてな。お前が洗いざらい全部吐いたら、自動的にお前だけが助かる」


「っ! し、しかし」


 躊躇う暗殺者に、ユディミルは「アプル、少し吐き出してやれ」と命じた。


 口を巨大化させたアプルの口から、先ほど丸呑みにされた暗殺者の頭が現れる。まだ溶けていないが、胃液でドロドロだ。


「ひっ」


「お前らはアプル好みのようでな。助ける一人以外は全員食わせるつもりでいる」


「わっ、わかった! 話す! 話すから食べないでくれ!」


 暗殺者の顔は青ざめ、必死になって話し始めた。


 その様子を笑いながら聞くユディミルに、俺とメメはドン引きしていた。


 それを人数分繰り返して、「だいたい一致したな」と言いながら、結局全員をアプルに丸呑みさせつつユディミルは言う。


「誰の命令かは末端だから知らない。人数は八人。計画は屋敷の四方に呪物を埋め込んで、第七王女マリアの衰弱死を狙う」


「それがこの四人の仕事。もう半分の四人は、パーティに乗じて屋敷の奥に忍び込んで、終了後に人が少なくなってから、直接マリア様に襲い掛かる、と」


「いやぁ実に甘美な罪の味でしたぞ、我が主よ」


「めぇ……罪を食べるなんて悪趣味……」


 舌なめずりしてご馳走様なアプルに、舌を出しておぇ~、としているメメ。とことん相性悪いんだな、と俺は一周回って感心してしまう。


「となると、固まって動くのは良くないな……。親友、任せたいことがあるんだが、いいか?」


「いいよ、酷い無茶振りでさえなければ」


「今更お前にそんな舐めた真似はしない。今回の件だが、二手に別れよう。片方はマリアの守り、片方は連中の捜索だ」


「分かった、それくらいならいいよ。じゃあ俺は捜さ―――」


「ああ、親友にはマリアを任せたい」


「んっ?」


 俺は予想外の役割を任され、キョトンとしてしまう。


「……俺が君の妹を守るの?」


「そうだ。さっきの動きを見る限り、正面から動けばお前らの方がオレたちより強い。逆にオレは、自由に動いて裏をかけば、お前らより強い」


 ニヤリ、とユディミルは笑う。確かに、正面からぶつかれば、人数差、魔法の出などで俺たちが勝つだろう。だがユディミルの奇襲に対応できるかは怪しい。


「適材適所ではある、のか。けど俺、マリア様に面識ないし」


「それはオレが紹介すればいい。なぁに、親友の気さくさなら、打ち解けるのも早いだろう」


「えぇ……。逆に聞くけど、何で俺をそこまで信用してくれるんだ?」


 俺が聞くと、ニヤリとユディミルは笑う。


「水臭いな。オレと親友の仲だろうが」


「出会ってまだ十分だけど」


「ハッハッハ! ま、正直な話をすれば、アプルは相手の『罪』がどれだけのものか見抜くことが出来てな」


 しゅるりとユディミルの肩に登ったアプルが、俺を見てペロペロと舌を出す。


「先ほどから観察しておりましたが、ディアル様は実に罪がなくマズそうだ。食えたものではありません」


「褒められてる気がしない」


「ってことだ。小さな罪すら見逃さないアプルが吐きそうになってるなら、大事な妹でも預けられる」


「おぇぇ」


「本当にうれしくない」


 吐きそうなアプルに「もう消えろ」とユディミルは告げる。そうしてから、ユディミルは俺に拳を作った。


「この騒ぎで、どうせパーティも仕舞いに近づく。済ませるべきことはさっさと済ませよう」


「はいはい。ひとまずは、紹介だけ頼むよ」


「分かってる」


 軽く言い合って、俺たちは屋敷の中へと戻っていく。






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