第15話 共同捜査
ユディミルの話はこうだった。
「そもそもムーンゲイズ法国とは、太古の昔から陰謀と暗殺渦巻く地だった」
王族は昔から多産で、毎回のように王子たちで王位継承権争いになる。
そうやって代々法王の座を受け継いできたものだから、王族と言うのは実に狡猾で陰険な奴らが揃っている。
……というのが、その王族である第十三王子、ユディミル殿下のお言葉だった。
「じゃあユディミルも狡猾で陰険ってこと?」
「親友、バカを言うな。狡猾は合っているが、陰険なのはオレ以外の王子ども―――つまり兄上たちのことだ」
実にひねくれた笑みを浮かべながら、ユディミルは語る。
「で、だ。学園に入れば末端の貴族でも揉まれることになるが、王族は学園入学以前から伝統通りの生活でな。現にオレも、暗殺者を何度返り討ちにしたことか」
「じゃあ今回は」
「そうだ。オレの妹の一人、第七王女のマリアが何者かに狙われている」
なるほど、と俺は思う。ゲーム本編は学園入学から始まるので、こんなイベントは知りもしないのだが、何となくあらましは分かった。
「じゃあ一旦の目的は、マリア様を狙ってる人を発見して拘束。及び仕掛けた呪物の回収ってところかな」
「そうだな。そこからさらに発展する。撃退すれば良いたぐいの、簡単な敵ではなさそうだ」
俺の言葉に、ユディミルは頷いた。何か楽しいな。ゲームのキャラとこうやって話すの、何だかワクワクする。
「となると、相手をまず発見する必要があるけど」
「ああ、それにはアテが「めぇっ! メメ分かるよ! すぐ案内できるの!」
ユディミルの言葉を遮るように、ぴょんこと手をあげて主張するメメ。
可愛い。役に立ちたいって気持ちでいっぱいのメメ、超可愛い。持って帰って抱きしめて眠りたい。
ハッ、毎日やってるわ。
一方話を遮られたユディミルは、無言で額に青筋を立てている。
そしてそのユディミルの様子を見て、「めぇ……」とニヤリ勝ち誇るメメ。
相性悪ぃ~~~~~……。
「まぁ、まぁ、まぁ……。じゃあメメ、案内してくれる?」
「めぇ! メメ、おとさまの役に立つの!」
「ふー……。冷静に、冷静になれ、オレ……。こんなガキみたいな召喚獣相手にキレるのは、王の器じゃない。落ち着け……」
メメを先頭に、続く俺、眉間に手をやりながら深呼吸するユディミルの順番で進む。
メメはどうやら呪物に残るニオイのようなものが分かるらしく、度々すんすんと鼻を鳴らして「めぇ、こっち!」と進んでいく。
「すごいね、分かるんだ。鼻が鋭いのかな」
「めぇ! えっとね? お鼻も人間よりきくけど、今は呪物の気配みたいなのがあるの」
「気配?」
「ニオイなんだけど、お花のニオイとかとは違うというか……。だから、結構ハッキリわかるの」
「そうかぁ~すごいなメメは」
「めぇ~~~」
俺が撫でると、上機嫌に鳴くメメだ。
一方拗ねた様子でユディミルが言う。
「オレのアプルだってこの程度はできるが」
「でも役立ってるのはメメの方……めぇ……♪」
「このクソガキ……!」
「まぁまぁまぁまぁ! まぁまぁまぁまぁまぁまぁ!」
何でこの二人が犬猿の仲なんだよ。ゲーム本編ではなかっただろ絡み。
そんな風に進んでいると、「めっ」とメメが軽く鳴いて停止した。
「メメ?」
「おとさま、あっち」
見る。先ほどの男女だ。「あいつらか」とユディミルも確認する。
「そうだね……ん? 奴らに近づく男女が、もう一ペア……」
合計四人。それぞれ男女二名ずつが、今は平凡な参加者の振りをして、飲み物片手に談笑している。
「くさいな。臭う、臭うぞ。連中から他人の命を奪って笑う、下衆の匂いがプンプンする」
ユディミルは獰猛に笑いながら、懐からリンゴを取り出し、シャクと齧る。
「アプル」
「お呼びですか、我が主」
しゅるりとユディミルの左腕に巻き付いて、蛇の召喚獣アプルが這い上った。
ユディミルは問う。
「お前の目から見て、奴らはどうだ。どんな目が似合う」
「ふむ……ほうほうほう。人の命を貪って嗤う、酷い悪党たちのようですね。実に多くの罪を背負っている。あれらを食えば、実に甘美でしょう」
「そうか。ならば―――」
ユディミルは、アプルの巻き付く左腕を、奴らに伸ばした。
まるで、発射台のように。
「―――アプル、『スワロー・ホール』」
にぃ、とユディミルは笑う。
「丸呑みを許す」
「御意に、我が主」
直後、発射台となったユディミルの左腕から、アプルが射出された。
俺は面食らう。周囲には、のんびりと歓談する貴族たちがいる。その中で、平然と攻撃を仕掛けるとは。
だが、ユディミルには考えがあるらしかった。射出されたアプルの速度は極めて速く、目で追えるのは発射を見ていた俺たちくらい。
アプルは小さい蛇の姿のまま飛んでいき、あと少しで連中に激突する―――
その寸前で、ほんの一瞬だけ巨大化し、敵の一人を丸呑みにした。
「――――ッ」
直後、アプルはすぐさま小さなヘビに戻り、実体化を解いて消える。
するとどうだ。残るのはただ一人の消滅。歓談していた四人の内、残された三人。そして俺たち以外、ユディミルの攻撃に気付けない。
「きゃぁああっ!?」
「ッ!? いっ、今、何が!」
「あいつだ! あいつが今、俺たち、を……?」
残された三人は、顔面を蒼白にして俺たちを指さす。だがそこに立つのは、傲岸不遜な第十三王子、ユディミル・イスカリオテ・ムーンゲイズその人。
ユディミルは言う。
「まず一人。残りは早い者勝ちだ、親友」
暗殺者三人が、恐怖に叫ぶ。
「あぁぁぁぁああ! クソッ! 見つかった! よりにもよって十三王子に!」
「クソッ! クソクソクソクソ! あいつらみたいに殺されて堪るかァ!」
奴らは懐からナイフを取り出し、その刀身を撫でる。ルーン魔法が発動する。
その凶行に、周囲の貴族たちが泡を食って逃げていく。「何だあいつら!」「不審者よ! 警備を呼んで!」と口々に言い合いながら。
最後にその場に残されるのは、俺たちと暗殺者たちばかり。俺は意図を理解して、ほう、と感心してしまう。
「なるほど、賢いね。こちらが騒ぎを起こすんじゃなく、敵に騒ぎを起こさせて、それを鎮圧したという形をとるのか」
「だろう? こちとら寝静まった夜にも、騒がしいパーティでも狙われてきた百戦錬磨だ。周囲から見た『悪い奴』のレッテルを押し付けるのが得意でな」
「経験豊富ってわけだね」
「良いように言ってくれるじゃないか、親友」
二人で軽く笑い合う。「何がおかしい!?」と敵が喚く。
だがこうなれば、俺たちを阻むものはない。
「メメ、行くよ。ただ暴れるなら、俺たちの得意分野だ」
「めぇ! 周りに人いなくなったし、たくさん暴れるの!」
「アプル、このチビ羊にだけは負けるなよ。目にもの見せてやれ」
「御意に、我が主」
二つの召喚ペアが、暗殺者の前に立ちふさがる。片やラスボスを従え、片やプレイヤーを阿鼻叫喚の渦に巻き込んだライバルキャラ。
負けるわけがない。俺たちは、確信と共に踏み込んだ。
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