第9話 初戦闘
思ったことは、俺は前世の日本人ではなく、ちゃんとムーンゲイズ法国の貴族なのだなということ。
つまり平和ボケした一般人ではなく、子供でもちゃんと戦闘訓練を受けた、戦える人間なのだ、ということだった。
「ホワイトサンダー・パラライズ」
俺は魔法を放ちながら突撃し、盾で他二匹のゴブリンをけん制しながら、麻痺させた一匹を剣で貫いていた。
貫くのも、剣が抜きづらくなる胴体ではない。首を一突きにして、横に裂く。頸動脈が真っ二つになって血煙が上がる。
後ろで姉二人が悲鳴を上げているのに、俺には返り血を避ける余裕さえあった。
一応姉上ズを確認。伏兵ではなく単純に流血で叫んでいる。今は構わなくていいだろう。
「メメ」
「うんっ!」
俺と真反対からゴブリンたちを挟み込むように、メメは動いていた。
ゴブリンたちは俺に注目して目が離せない。その背後を、挟撃に向かったメメが取った。
メメは、わし、と一匹のゴブリンの首根っこを掴む。
「めぇぇええええ!」
そして、そのまま持ち上げ、壁に叩き付けた。
「ギャゲッ!?」
その様子は、まるで子供がぬいぐるみを振り回しているようだった。壁に叩き付けられたゴブリンは衝撃に絶息し、続くメメの拳を胴体に受けて絶命する。
流石ラスボスの卵。一番小さな女の子に見えても、やはり召喚獣は怪力だ。
最後の一匹、つまり俺とメメに囲まれたゴブリンは、俺とメメのどちらから対応して良いか迷い、動けなくなっていた。
「ホワイトサンダー・パラライズ」
そこを確実に麻痺させる。一拍待つ。
やっとレイピアを抜いたサテラが、その切っ先を突き出した。
「やぁッ!」
【三連突き】
ルーン魔法によるスキル効果を伴って、サテラはゴブリンを三度刺しにした。ゴブリンはその衝撃に吹き飛び、そのまま粒子となって霧散する。
他二匹も同様に、粒子となって消えた。粒子は壁に吸い込まれていく。
俺は前方を確認してしばらく構えを続け、気配がないこと確認して、やっと解いた。
「ふぅ、お疲れ様」
「めぇ~! おとさま! メメ頑張った!」
「うん、メメはとっても動きが良かったよ。ちゃんと俺の相棒って感じだった」
「えへへ~!」
もふもふの髪をなびかせて俺に抱き着こうとして、しかしメメは停止。
「……どうしたの?」
「あ、えっとね。返り血ついちゃったから……」
「あー……」
見れば俺も、何ならサテラも返り血を浴びている。俺は大部分を回避したが、それでもすべてとは行かなかった。
返り血に汚れていないのは、下がって固まっていたルルフィーだけだ。
「俺は気にしないけど、そうだね。帰ってお風呂浴びてからにしようか」
「うん……」
いつもの代わりにメメの頭を軽く叩いてから、「サテラもお疲れ様」と声を掛ける。
「ふーっ! ふーっ! な、ななな、なーんだ! わ、私、私だって戦えるじゃない!」
「うん、落ち着こうか。戦闘の興奮が強すぎて大分目が怪しい」
「なっ、なななな、何よ! 私にはできないって言うの!?」
「本当に落ち着いて」
すていくーる……と、宥める。サテラは段々と落ち着いて、目を瞑って長く息を吐いた。
「……落ち着いたわ。うん、ちょっとこれは慣れが必要ね」
「それはそうだね。でも咄嗟でも動けたし、多分サテラは向いてるよ。レイピアの訓練、また初めてみたら?」
「……ん。召喚の儀を済ませたら、またやってみようかしらね」
休憩するわ、と言って、サテラは傍の岩に腰かけた。俺は最後に、ルルフィーに声を掛ける。
「ルルフィーは大丈夫?」
「……あ、え、うん。……ごめんね~……何もできなかった……」
「いやだって戦闘訓練積んでないし、こんなもんだろうと思うけど」
「う゛」
正直読んでた。ルルフィーは多少運動音痴なのもあって、座学中心の教育だ。偶に体を動かす程度。戦えるという過度な期待は最初からしていない。
「でも、余計に動いて怪我もしなかったしさせなかった。それだけで俺は満点だと思ってるよ」
「えっ……う、嘘だ~……」
「いや本当に。俺が一番怖かったのは援護という名のフレンドリーファイアだった」
ゴブリン狙いの魔法が俺の背中に当たったら、というのは割と恐怖だ。それくらいなら動かないでいてくれた今の方が何倍もマシ。
なので、俺としては満点である。
「みんな、初戦で疲れただろうから、休んでて。警戒は俺がするから」
「めぇ~」「分かったわ!」「うん~……」
俺は一旦みんなに休ませる判断をしつつ、ルルフィーから松明を借りて、少し先を照らす。
気配はある。だが、多少距離がある。敵も俺たちに警戒しているのだろう。
ボスは三階だったか。俺とメメはまだ全然余裕がある。サテラは気疲れが大半。慣れの問題だ。ルルフィーは、疲れと言うよりは落ち込んでいる。
……落ち込む様なことかな? ほぼ戦えないのは最初から分かってたことだろうに。
まぁそれはひとまず置いておくとして、考えるべきは継戦能力についてだ。
恐らくだが、俺とメメだけなら問題なく地下三階のボスゴブリンを倒して帰ってこられる。
だが、姉上ズを連れていくとなると話は別だ。余計な戦闘が多いほどサテラの体力が怪しくなる。
となると最適解は俺とメメだけで取って帰ってくることだが……。
「風情がない、って話なんだろうな」
何で宝石が欲しいのかも知らされていないが、いわば二人はパーティメンバーと言うより依頼主に近い。
つまり『宝石を手に入れる』のが目的なのではなく、『二人が宝石を手に入れるという過程』が大事で、俺たちはその護衛なのだ。
「まぁまぁ難易度が高い。けど、このくらいが俺にはちょうどいいか」
戦闘は軽々こなしつつ、メインでリソース管理に頭を使う。初めての冒険にしては難易度調整が効いていて、やりごたえがあるというところ。
「そろそろ行こうか」
「めぇ~! 行こ、おとさま!」「ええ! こっちも回復したわ!」「あ、うん。分かった~」
俺が声を掛けると、それぞれが返事をする。俺は一つ頷き、再び先頭を歩き始めた。
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