第31話 秘策は二つ
俺の考える策は二つだ。
まず、アモンに刺さったままの剣にホワイトサンダーを当てるというもの。
アモンの剛毛は、ホワイトサンダーでも通じない鉄壁の守りだ。だが、剣を通じて体内に通電できれば、アモンを体の内側から焼ける。
次の策は、ロムの兵器でアモンの防御を強引に突破するというもの。
ボムアント一匹の爆発では、アモンには通じないだろう。
だが数を増やして大規模に爆破すれば、間違いなく通じる。脅威となる剛毛も焼き払えるはずだ。ノームの建築ではそれができる。
それで隙を作れれば、あとは乱打戦だ。ホワイトサンダーでも、メメの殴打でも、ロムにさらに攻撃させるのでも、アモンを追い詰められる。
本来ならカリュドンボアを使ってその突破口を開くつもりでいたのだが、こうなっては仕方がない。
俺たちはただ、自分の命のために、目的のために、やることをやるだけだ。
―――木陰から飛び出し、俺はアモンに突き刺さった剣めがけて、唱える。
「ホワイトサンダー!」
白雷が空を裂き、狙い通り俺が差し込んだ剣に当たった。
「ギャガガガガガガガ!」
アモンはハッキリと分かるくらい、防御を貫通した白雷に、ダメージと痺れを示した。体は痙攣し、煙を上げている。
これなら、と思う。これなら、接近せずともダメージを重ねられる。あとは回数を重ねればいい。
だがアモンとて、やられるままでいる訳がなかった。
「グルルルァァアアアアア!」
咆哮を上げるアモン。しかし俺は距離を取っている。鼓膜が破れるような距離ではない。
……ないが、どうしても体が竦む。本能に根差した恐怖が、体を蝕む。体の動きにこわばりが出る。
そこで、メメが言った。
「めぇ、来る」
「グルルルゥボォォオオオアアアアアア!」
咆哮がさらなる高まりを迎える。アモンの口から目から、炎が漏れ出る。
直後、アモンはその口から、まるで岩石のようなサイズの火炎弾を放った。
「デッカ!?」
俺は慌ててその場から飛び出した。寸前まで俺たちが隠れていた木が、火炎弾にのまれて消える。
残るのはアモンから伸びる、一直線の炭の道。草木も地面も何もかも、焼け落ち溶けて、ドロドロに溶けた炭と化している。
「~~~~~~ッ!」
一撃でも食らったら死ぬ。俺は改めて、格上と戦っているのだと実感させられる。
……何だよアレ! 原作ゲームで見た火炎弾よりも、ずっと大きく凶悪に見える。
何がチュートリアルだ。そりゃあ何人も人死にが出るはずだ。
「めぇ! おとさま!」
俺はメメに言われて顔を上げる。アモンが丸見えになった俺に向かって、ものすごい勢いで迫ってきている。
「くっ! ホワイトサンダー!」
俺は白雷を放った。アモンの鼻頭を痺れさせ、駆けてくる勢いをわずかでも減らす。
だがアモンも、俺を確かな脅威と認めていた。だから怯みを押し殺す。押し殺して、さらに奥へ踏み出し、俺へと迫る。
だから俺も、切り札を切り始めることにした。
「―――メメ! 横から一発だ!」
「めぇええ!」
温存していたメメに指示を出す。すると素早く駆けだしたメメが、アモンよりも素早く走り、アモンの横っ面を思い切り殴りつけた。
アモンの体が明らかによろめく。メメは、一年前からさらに大きく成長した。
メメの肉体強度は、もはや人間に太刀打ちできるものではない。拳を振るえば岩さえ軽々と砕く。人間なんて片手で縊り殺せるだろう。
生物として、遥か高みへと昇っている最中なのがメメだ。いずれ至る『黙示録の仔羊』は、これよりもさらに強い膂力を持つ。今でさえ発展途上なのだ。
だから俺は驚かない。よろめいたアモンを見据えて、さらに指示を出す。
「ロム! 君が狙える隙はここだ! ぶち当てろ!」
「待ってた、師匠」
いつの間にか近くに潜んでいたロムが、ノームたち召喚獣を伴って現れる。
「ノーム、建築。パンジャンドラム」
ノームたちが素早く動き、見る見るうちにパンジャンドラムを構築していく。
これだ。このために、俺は隙を作っていたと言っていい。ロムの攻撃は一番火力が出るが、どうしても三秒という長時間の隙ができる。
「だから俺は、メメを温存したんだ」
俺は勝ち誇り、アモンに言う。
「俺が一番体格が良くて、最初に襲い掛かってきたから、俺がアタッカーだと勘違いしたんだよね。けど、それは違う。そう勘違いするように、采配したんだ」
パンジャンドラムが完成する。ロムの「突撃」の一言で、ロケット推進が稼働を始める。
「全員、物陰に隠れ、わぶっ」
「おとさまこっち!」
俺が言い切るよりも早く、メメは俺を引き寄せ物陰に引きずり込んだ。直後、ロムのパンジャンドラムがアモンに直撃、爆発する。
衝撃が空気を揺らす。熱が俺たちにも伝わってくる。
その余波が終わったのを見計らって、俺は木の陰からアモンを覗き見た。
流石のロムのパンジャンドラムの威力だ。アモンの毛の一部が剥げ、血を流している。アモンもその威力に弱ったと見えて、膝を屈している。
「これは……やった?」
ロムの物言いに、俺はビクリと震える。
「あ、あの、ロム。それ、フラグ」
「?」
そりゃあ異世界でフラグだの何だのという話が通じる訳もなく、ロムはキョトンと首を傾げている。
すると、アモンに、恐ろしい気配が宿り始めた。
「!?」
俺たちは驚愕と共にアモンを見る。
アモンは、血を流す肌から中心に、メラメラと炎を纏い始めた。目から口から火が上がり、いよいよ全身が炎に覆われ始める。
「……まずい」
俺たちは、アモンの至近距離で、それを目の当たりにしていた。つまりは、奴の攻撃範囲内で。逃げられないほど近くで。
まずい。まずいのは分かるが、体が動かない。どうすればいい。これではどうしようも。逃げだしてもきっと間に合わない。そもそも俺一人で逃げても意味なんて―――
そこに、メメが割り込んだ。
「めぇ! ホワイトサン」
それを聞いて。
俺は流石に、我を取り戻した。
「メメ! ダメだ! ―――ホワイトサンダー!」
俺の命令に、メメは口を閉ざされる。召喚魔法において、主の強い命令は、召喚獣に有無を言わせない強制力がある。
だから、代わりに俺が白雷を放った。アモンの体の炎とぶつかり相殺されるが、しかし僅かなりとも意味があったらしい。
直後に起きた衝撃が、俺たちを打ちのめす。アモンの体から放たれる全方位爆発。
その威力が瞬時に俺たちを燃えカスにしなかったことで、ギリギリどうにかなったのだと思いながら、俺はあえなく失神した。
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