第6話 メメの魔法

 召喚魔法は、召喚獣の魔法を間借りすることが出来る。


 例えば騎士団長はワシの召喚獣から、風の魔法を借りることが出来る。特に飛び上がって空を飛ぶような風魔法が得意で、騎士団全員にかけて奇襲を仕掛けるのが得意だとか。


「メチャクチャ強い魔法だよねそれ」


「ハッハッハ! お褒めに掛かり光栄ですよ坊ちゃん! この強みが分かるとは、坊ちゃんも中々侮れませんね!」


 呵々大笑する騎士団長に、「めぇ……」と怯えるように俺に隠れるメメ。


「おとさま……この人……」


「ウチの家の騎士団長。強くて優しい人だよ。訓練は厳しいけど、イジメてるわけじゃないから暴れちゃダメだからね」


「めぇ……」


「ハッハッハ! 勘違いであの雷を落とされては堪りませんな!」


 騎士団長は笑い飛ばしてくれるから、俺の気も楽というもの。


「今日は召喚獣を伴った魔法訓練と行きましょうか! いいですか? 坊ちゃん。召喚獣の使い方には、大きく分けて二種類あります」


 騎士団長は俺たち二人を前に、指を二つ立てる。


「一つは、召喚獣に指示を出して使役する方法。召喚獣は大抵人間よりもずっと頑丈です。死ぬほどの怪我を負っても、大抵の場合は実体化を解いてしばらくすれば回復します」


「ふむふむ」


「もう一つは、召喚獣の魔法を借りて、主が使用する方法。まずは召喚獣の使役について説明しましょう」


「めぇ……?」


 ゲームで慣れ親しんでいる俺は分かるが、何故か当事者のメメは分かっていない様子だ。


「おとさま、じったいか、って何?」


「今の状態だね。解くと、こう、消えるというか、休むというか」


「……?」


 メメは首を傾げて、よく分からない、という顔。


 それに、騎士団長は苦笑する。


「メメ殿は特殊な召喚獣のようですからな! 実体化しない類いの召喚獣と言う可能性もあります」


 そこまで言って、騎士団長はしゃがんでメメと目線を合わせ、優しく頭に手を置く。


「しかし、どちらにせよ召喚獣は主の前に出るもの。主を守り、その意思に忠実であるのですぞ」


「め……は、はいっ!」


 メメは背筋をピシッと伸ばして答えた。「良い返事だ」と騎士団長は頷く。


「ではまず、召喚魔法の基礎の基礎をお教えしましょう」


「基礎の基礎」


「はい。すなわち、召喚です」


「召喚? 召喚の儀とは別に?」


「ええ。早速見本をお見せしましょう。現在、私の召喚獣であるイグルは実体化させていません。ですが」


 騎士団長は懐から干し肉を取り出して、一口くわえた。そして「イグル」と呼ぶ。


 すると虚空から、まるで召喚の儀の時のような光の粒子を伴って、イグルが騎士団長の肩に現れた。「「おおー」」と俺とメメの声が重なる。


「これが召喚です。召喚獣は『召喚の儀に用いた食物を口にする』ことと『名を呼ぶ』という二つの行動によって、いついかなる時でも主の傍に召喚されます」


 そうか、これが召喚か。ゲームでは、敵に遭遇すると勝手に行われていたから、名前を知らなかった。


 にしても、ゲームでもそうやって呼び出されていたが、いやぁいつ見ても格好いいなこれ。痺れる。


「召喚獣の実体化を解いているときはもちろん、遠くにいるとき、窮地に陥っているときなどで、強制的に傍に呼び戻せるのでなかなか便利ですぞ」


「これが召喚魔法の基礎の基礎、か」


「はい、ここから召喚魔法は始まります。さぁ坊ちゃんも是非一度やってみてください。メメ殿はせっかくなので、屋敷の中に入ってもらうのが良いでしょう」


「め……わかった!」


 ちょっと騎士団長に慣れてきたのか、メメは言われた通りに駆けだした。屋敷の扉を開けて、窓越しにこちらをワクワクした目で見つめている。


「では、こちらを」


 騎士団長は、俺に家紋の施されたペンケースのようなものを渡してくる。開けると、中にはワインが揺れていた。


「なるほど、これを飲んで、か」


 くぴ、と舐めるようにワインを口にする。それから「メメ」と呼ぶ。


 すると窓から見ていたメメの姿が光の粒子に包まれ、粒子と共に俺の真横に転移した。「めぇ~!」とメメは大興奮だ。


「おとさま! おとさますごい! メメ一瞬でおとさまの隣に来たの!」


「なるほど、これは便利だ」


「でしょう? 召喚魔法はこれがなくては始まりません。こうやって呼び寄せ、共に戦うのです」


 次に、召喚獣の魔法について。そう騎士団長は語り出す。


「召喚獣の魔法は、主が間借りすることが出来ます。魔法名を召喚獣から教えてもらい、その名を叫べばその通りに魔法が発動します」


「これまた簡単なんだね」


「発動そのものは簡単です。ただいくつか注意点がありまして」


 騎士団長は皮肉っぽく肩を竦める。


「第一に、召喚獣の魔法というのは、基本的に主が運用するものではありません。理由は、『召喚獣本人がその魔法を使った方が、威力が高いから』です」


「そりゃそうだ」


 主が使った方が強いのは筋が通らない。


「ですが、主は召喚獣の数だけ混合した魔法を使用することが出来ます。複数召喚獣がいる場合は、組み合わせ次第で相乗効果が生まれる、と言う場合もあります」


「ロマンだね」


 ゲームでもそうだった。ぶっ壊れ威力のコンボが結構存在するのが『サモイリュ』だ。


「他方、坊ちゃんは違う理由で、召喚獣の魔法を坊ちゃんがメインで使っていくことになるでしょう」


 つまり、と騎士団長はメメを見る。


「メメ殿本人が使うと、威力が高すぎて危険だからです」


「めぇ~……」


 メメは絶妙な顔で鳴いた。俺は苦笑するしかない。


「ということで、坊ちゃんが使った場合の威力を見てみましょう! あそこに的がありますので、狙いを定めて魔法名を唱えてください」


「分かった」


 俺は前に踏み出して、十メートル程度先に立つ的に意識を集中する。深呼吸をし、心を凪がせ、口を開いた。


「ホワイトサンダー」


 真っ白な雷が、空中を裂いた。


 ズギャァン! と音を立てて、雷が空中を走った。的へとまっすぐに進み、そのど真ん中を貫く。


 その様子は、放った俺には見て取れたが、傍から見ていた騎士団長は違うらしい。


 騎士団長は何が起こったのか、と言わんばかり目を丸くしている。


「……あ、主が放って、これとは。速度は極めて速く、強い光を伴うため目視はほぼ不可能。よって回避も困難。そして威力は、金属製の的を破るほど……」


 見れば、的は中央から破れて焦げ付いた穴を残している。常人なら一撃で死ぬ威力だ。マジかよこれ。俺が使っても威力が高すぎる。


「坊ちゃんの魔法訓練は、まず威力を抑えることから始まりそうですな……」


 真剣そうに顎を撫でながら、騎士団長は的を見つめて唸っている。


 威力が高いに越したことはない、というのがゲームでの考えだったが、転生だと別だなこれは。


 少なくとも学園に入って同級生に撃てる威力ではない。生徒同士の戦闘、たくさんあるのに。


「メメ……君は強いね」


「めぇ? すごいのはおとさま! メメの魔法は、全部おとさまの魔力使ってるもん!」


「ハハハ……、そう言ってもらえて何よりだよ」


 俺はメメのモフモフの頭を撫でながら息を吐く。メメはクリクリの大きな瞳で、俺を笑顔で見上げている。


 ……ま、可愛いメメのためなら、このくらいのことは何とかするのが主の役目か。そう俺は、苦笑と共に嘆息するのだった。

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