第4話 ザコ姉妹
俺がメメとの契約を済ませて離れを出ると、二人の少女が立っていた。
「あー! もう召喚獣連れてる! ナマイキよっ! ナマイキディアル!」
「あれ~? でも何か、ちっちゃい子じゃな~い? ねぇねぇ、ディアル~? まさかとは思うけど~、そのちっちゃくて可愛い子が召喚獣なんて言わないよねぇ~?」
二人の登場に俺は笑顔になり、一方メメは怯えて俺の後ろに隠れてしまう。
「めぇ……おとさま、誰……?」
「ああ、紹介するよ、メメ。この二人は俺の姉。ツンツンしてる方がサテラで、ニヤニヤしてる方がルルフィー」
「もっと丁寧に紹介しなさいよ! ほんっとナマイキね!」
「ねぇ~ディアル~、ニヤニヤって紹介は酷いと思うんだけど~」
口々に文句を言う姉二人である。
ということで、度々話題にあがる俺の姉とは、この二人のことだ。
まずツンデレのデレの無い方ことサテラ。腰まで届くような黒髪をツインテールにしている少女だ。貴族ドレスが相まって人形のような可愛さだ。
もう一人の俺をからかおうとしてできていないのがルルフィー。肩口までの黒髪をサイドテールにしている。今日も服の着こなしが露出度高いな……。
「ルルフィー、いつも言ってるけどもっとちゃんと服を着てよ」
「え~? やだ~弟がエッチな目で見てくる~! 助けてサテ姉~」
俺が苦言を呈すると、ルルフィーはサテラの後ろに隠れて、端っこから俺を見てくすくす笑っている。
一方、さらに目を吊り上がらせるのがサテラだ。
「ディアル! 何度言ったら分かるの! 私たちのことは、ちゃんとお姉さまって呼びなさい! そ、それに、ルルをそういう目で見るのは良くないわよ!」
「見てないよ」
「……ねぇルル。ディアル、見てないって言ってるけど……」
「ディアルのいつもの嘘だよ~。騙されないでサテ姉~」
「ハッ! 騙したわねディアル! いっつも嘘ばっかりで! 今日という今日は許さないわよ!」
いやぁ今日もウチの姉はアホ可愛いなぁ。
俺は目を細めてホクホクで眺める。敵視されてはいるものの、この憎めない感じ。
気分は猫パンチを食らっているような具合だ。可愛いので何にも気にならない。お蔭で敬語とか無理になってしまった。
そもそも大人と同レベルで訓練している俺に、二人が敵うわけもないのだ。
しかし、それが分からない存在が、いつもと違ってこの場には居た。
「め、めぇー!」
バッ、と俺の前に飛び出て、メメが涙目で抗議する。
「お、おとさまのことイジメちゃ、だめなの! しょ、召喚獣のメメが、相手になるの!」
「メメ?」
いつもとは違う展開に、俺は目を丸くする。サテラも予想外の方向から来た俺の援軍に、キョトンとまばたきだ。
一方、俺をからかいたいだけのルルフィーは違う。
「あっれ~~~? ももも、もしかして~、ディアル、そんな小さな子にかばってもらうの~!? え~? うっそ~? なっさけなぁ~い!」
まるで水を得た魚のように、キャッキャとはしゃぐルルフィーである。目が輝いている。めちゃくちゃ楽しそうで可愛いね。
しかしメメにはガッツリと効いている。
「め、めぇー! 違うの! おとさまは情けなくなんかないの!」
「え~? だってだって~、あなたみたいな小さな子がかばうってことは、あなたよりもディアルは弱いってことでしょ~? よわよわ~! キャハハッ」
「違うの! 違うもん!」
悔しさのあまり、メメは泣き出してしまう。俺は全然気にしていないのだが、幼いメメには分からないか、と苦笑。
反対にルルフィーは、いつも悔しそうな顔一つしない俺と違って、反応の良いメメが楽しいらしく、どんどん勢いに乗って俺をディスる。
「よわよわ~! よわよわディアル~! よわよわ召喚獣にかばわれるよわよわ魔法使い~!」
「め、めぇ~……! 違うもん~……! おとさまは、強くてかっこいいんだもん……!」
とうとう泣き出してしまうメメに、この辺りで諫めておくか、と俺は嘆息する。
その時、気づいた。
メメの周りに、パツパツッ、という弾けるような音と、真っ白な光が瞬いていることに。
「……ぇ」
「でも、よわよわ同士お似合いかも~? や~いよわよわ召喚ペア~」
「違うもん……! 違うもん……っ! おとさまは強くてかっこいいもん! それに、それに――――」
俺はとっさに走り出す。向かう先はサテラとルルフィー。「「えっ」」と二人が俺の鬼気迫った様子に戸惑う。だが説明している暇はない。
恐らくだが、これは――――
「メメだって、ものすっごく強いもん―――!」
俺が姉二人を抱きかかえてその場を離れた直後。
二人の立っていた場所に、真っ白な雷が落ちた。
轟音。鼓膜が破れるんじゃないかというほどの音に、地面が揺れたと錯覚するほどの衝撃。直撃を避けても地面に走る電流が俺たちを痺れさせる。
だが、それは怪我になるほどの威力ではない。俺は全力を越えて走り抜け、何とか姉二人を守り抜いた安堵に脱力する。
逆に姉二人は、目の当たりのした本当の脅威を前に、恐怖に身をガチガチにして、俺に抱き着いていた。
「え……? な、何。今の、何……?」
「え、あ、え、う、嘘、これ、え……?」
二人はまともに声も出せない。この場に鳴り響くのは、メメの無邪気な泣き声だけだ。「うぇえええん……!」と何も気にせず泣いている。
「……ごめん、こうなることを想定して、説明すべきだった」
俺は言いながら、姉二人の手を解いて立ち上がる。それから、振り返った。
そこにあったのは、大きな穴だ。人一人が埋まってしまいそうなほどの大穴が開いている。だが、ラスボス状態のそれよりも、遥かに規模が小さい。
それが、メメの癇癪によって起こされた第一の魔法。名を、『ホワイトサンダー』と言った。
俺は思う。甘かった、と。メメのことを愛でるだけではダメだ。メメに魔法を使わせないことを徹底して、かつメメの感情を高ぶらせ過ぎないようにふるまう必要がある。
でなければきっと、メメは近い将来人を殺す。
その先にあるのは、きっとメメのラスボス化だ。
ひとまずは、と俺は姉二人に振りかえる。この二人は気軽に俺のことをバカにするから、今のうちに釘を刺しておこう。
「ごめん、二人とも。この通り、ちょっと強すぎる召喚獣が来ちゃったからさ。これからはいつもみたいに馬鹿にされると、聞き流せなくなっちゃったみたいだ」
俺は肩を竦めて、微笑みかける。
「悔しいのは分かるけど、これからは仲良くしてくれると嬉しいな。姉さまって呼んで欲しいならそうするからさ」
返事を待つも、二人は恐怖に固まって反応できない。俺は肩を竦めて、「メメ! 大丈夫!?」とメメの安否確認に駆け寄った。
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