第16話 新都大学
新宿区の繁華街へやって来る者の目的は様々だ。
スーツを着込んだ者から肌面積の多いビキニを纏う者までおり、日に何度か着衣をパージする姿も見られている。
「あははは。一度パコったくらいで調子乗ってんの」
「ぷっ、マジキモ。見た目だけだったってね」
そんな場所であるから、浮浪者のような外見の者たちも集まって来てしまうのだろう。
ボロボロの服を着た者が、目の前を通った女たちへ掠れた声で飯をネダる。
「メシくれんかぁ」
「ひゅっ。何こいつ……ってかババアじゃね」
「ちょっと、早くイコ。なんか臭いし」
駆け足で離れていった女たちは何度も振り返り、その度に鼻を摘む仕草をする。
老婆が手を振って女たちを見送ると、白衣の団体がやってきた。
「今日は早めに帰ったほうが良いぞ」
「なんぞ来るのか」
「お偉いさんについて記者も来るらしい」
「やっかいだねー。今日は仕舞いとするわ」
その言葉を聞いて団体は賑やかな方へと進んでいく。
「太子さん」
「特別受講生。今日は先生と呼びなさい」
「そうでした。先生、今の方は」
「大学の監視、というか不審者の警備だな。あとは売りもやってる」
『売り』と聞いてサクラは顔を赤くする。
「あのような方まで」
「本人は好きでやっているそうだ。買うなら店のほうがまだ安全だぞ」
「冗談はよしてください」
「冗談ではないよ。ダンジョンで媚薬効果の毒をもらった者が耐えられずに買うこともある。君たちはまだ入れないだろうが覚えておいたほうが良い」
淫気ダンジョンと呼ばれる所もあるが、入るのは自殺志願者か依頼を受けた者がほとんど。まともな組合だと、階級が高くなければ依頼が回って来ることはない。
「鷹伏のむっつりー」
「やめてください。淫気は女性も対象らしいですから、アンズさんも人ごとじゃないですよ」
「ふん。私がかかるわけないでしょ」
アンズが鷹伏をからかっていると、サクラが2人を小突く。
振り返った2人にサクラは首を振って周りを見るように指す。
周囲にはヒソヒソと小声で話している人々が沢山。さらに白衣の集団に向けてわかるように指差している者まで見られ、今度はアンズと鷹伏が顔を赤くする。
足早に歩き出した2人に負けじと太子の足も早くなり、サクラは大学まで走って追いかけることになった。
太子は慣れたようにカードを守衛へ見せると、巨大な門が唸りを上げて開かれる。
「さあ行こう」
門の中に特別変わったところはなく、すぐに抜けて大学の中へと一行が入り込む。
ただ入ることが面倒で、外部者の3人は何度も本人認証を行われ、全身のスキャンまでされるはめになった。
認証を終わらせた鷹伏が太子へ声をかけようとして驚く。
「せんせ……」
「おぉ。長かったね」
太子の周りで侍るように白衣の集団が鷹伏を睨みつける。
後退りする鷹伏を逃すまいと、学生たちが両腕を組んで太子の元へと連れていった。
「あと2人来るから第二大講堂まで案内してくれるかな」
「彼らの待遇はどのようにしますか」
「1年生と同じで良いだろう。実験はなしだよ」
「実験なしは残念ですが、承りました」
「では、授業の準備があるので失礼するよ。
太子は壁時計をチラと見て、廊下を走るような速度で歩き通路の先へ消えていった。
残された鷹伏は、いまだに両腕を抱えられ逃げられない状況。
率先して太子と話していた生徒、
「順次こちらへお連れを」
「何よ。このガキ」
鷹伏と同じように抱え込まれたアンズは力を入れて振り解こうとしてみたが、わずかに揺れるだけで解ける気がしなかった。
更に力を入れ、能力を発動しようとしたところ、
身長130cmほどだった少年が2mを超える筋肉男子になったところで、アンズの能力が引っ込んでしまった。
「お待たせー」
「全員揃ったようなので説明……の前にご挨拶を、深海教授より皆様の案内を賜りました第0研究室の研究生、
「これはご丁寧にどうも。私はサク……特別受講生2番です」
「わかっておられたようで安心です。では第二大講堂へ行きながら説明しましょう」
毒原が3名を指すと何も言わずサクラたちの横に付いて大講堂まで歩き出した。
残っていた白衣の者たちも大講堂へ向かうのだが、少しばかり距離を置いてついて来る。
「本日は他にも外部の方がいらっしゃるようです」
「ある議員さんと新聞社の方とか」
「はい。番号で言うのも個別の認識しにくいためです。以前は名前が漏れて引き抜きが面倒だったのですよ」
天友会でも階級が上がって、名が売れると妙な声掛けが増える。
彼らも同じような経験があるため、すぐに納得できた。
「次に深海教授の講義ですが、少し特殊で毎回何を話すか決まっていません」
「はぁ? あたしたちはアクセルっての教わりに来たんだけど」
「あぁ、教授もアクセルの話はすると言ってたのでその点はご心配なく。深海教授は特別講義の前にアンケートを取って、学生たちが聞きたい内容を確認します」
毒原がメモをちぎってサラサラと書き、それを3人へ見せる。
『深海教授と毒原の愛はどの程度育まれているか』
サクラはどのように反応して良いのかわからず、補助の生徒に眼を向ける。
隣の生徒は意識的に顔を合わせないように天井を見つめており、アンズの補助や鷹伏の補助も同じように目線をはずす。
サクラは聞いてはいけない内容だと思い、それについて質問することはしなかった。
「このように手持ちのノートをちぎって構いません。ただ、教授の知らない内容や秘匿事項はその場で処分されます。まぁ、あまり深く考えず聞きたいことを書けば良いでしょう」
そうこうしているうちに、賑やかしい声が聞こえてくる。
その中心には、頭が一つ抜けているスーツの女。彼女の胸には輝くバッジがつけられていた。
その女が毒原に向けて手を振り、毒原はそれに応えるよう手を振りかえす。
「毒原くん。変わりはないかな」
「いつも通りです。志麻議員は調子が良さそうですね」
「私も変わりないよ」
志麻は困った顔で返答すると、毒原が連れてきた生徒たちへと軽く目線を向けた。
側から見ると、さらりと流したようにしか見えないが、特別生たちに一瞬目を合わせる。
「志麻議員。あまり周りの方々を待たせるのはよろしくないかと」
「毒腹くんは厳しいな。だが、彼らがどこかへ消えてしまわないよう見に戻るとするよ」
志麻が人だかりの元へ行くと、それまで生徒へ向かっていた視線がなくなったことで毒原が振り返る。
「さて、ここが第二大講堂です。途中休憩を挟みますが、先に用を済ませることをおすすめします。あとは補助の生徒たちに任せます」
そう言って毒原は大講堂の中へと入っていった。
「お手洗いと給水所の案内をします」
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