第39話 危険なパーティー

 パーティー会場はいくつかに別れており、議員団や代表たちが集うところはメイン会場と言われ、アメリカ国内の有力者たちが懐の探り合いを行う魔窟。

 他に商業関連のところ、ダイバー関連の会場もあるが、メイン会場よりもギクシャクとしたスタートを切ることになる。

 言語の問題もあるけれど、認識の違いが大きな要因と言える。


 あるアメリカのビジネスマンは、色をつけて日本の商品を取り扱ってあげようと話しかける。提示された金額だと、赤字どころか倒産まっしぐらな数字で、船の極一部にしか帰りの荷物がない状態となってしまう。


 あるダイバーは、有能そうな者を見かけるたびに、アメリカに来いと執拗に勧誘してくる。溢れ出る善意のオーラが胡散臭さを醸し出しながらも、気になって先を聞いてみれば、自分たちの傘下に入れば金が稼げるぞと吹聴する。


 そんな始まりをすれば、日本側が距離を置きたくなるのも当然。

 なぜそんなことをするのか。彼らも自ら進んでやっているわけではなく、特定の依頼主から指示されているためだった。

 日本が嫌いだからという理由もあれば、自分たちのビジネスが脅かされるかもという理由もある。

 それぞれ共通していることは、日本が来なくなる。もしくは、来る回数が少しでも減る。

 かと言って、歓迎のパーティーで暴言も吐く訳にはいかず、迂遠な方法でやってこいという指示。

 そして、依頼された彼らは成功しようとしなかろうと、やったという事実さえあれば規定の依頼料を払われる。だから無理強いもしないし、もし相手が乗ってくれば金を巻き上げられるので、気楽なものだった。


 そんな中、日本人の中に混じって親近感の沸く顔立ちの者は、積極的なアプローチがかけられてくる。


「やぁ! 君の両親はもしかして日本以外かな」

「はい。父がアメリカ出身です」

「おぉ! それならお父さんも来てるのか」

「いえ。父は日本から出ないと言ってました」


 エイジは非常に残念がる相手の気持ちがわかる。頑なに行かないと言い張るヒロも、乙姫やアンナのことを心配してのことだろうが、そこまで拒絶理由がわからない。

 ただ、強制的に連れてくるのも違うという感覚もある。


「君がアメリカ来るなら歓迎するぜ」

「ありがとう。でも仲間との活動が楽しいから」

「ほぉ、ここにいるのか」

「あそこで必死に飯を眺めているのと、そこで遊んでる双子です」


 和樹はテーブルに並んだ料理を一口食べては考え込み、双子はパーティー会場の探索で忙しそうに動いている。


「ふっ、確かに楽しそうだな。俺はクルセイダーズのピーター。これでも一応6つ星なんだ」

「僕は風雷のエイジです」

「ウィンドサンダー! 変わったチーム名だが、覚えやすくて良いな」

「ありがとう。ところで6つ星ってのは」


 エイジに聞かれてピーターは相手が日本人であることを思い出す。

 アメリカダイバーの星制度は実績に応じて与えられるもので、星1つ目は単独で5層まで潜れることでもらえる。

 現在の最高星数は10個。そいつは単独でダンジョン主を3体倒し、異界の8層まで潜っている。


「というと6つ星ってかなり上位じゃ」

「まぁな。と言ってもダンジョン主は倒せてないし、たまに星なしでも凄いのがいるからあまり自慢できなかったりもする。ちょっとした指標みたいなものだから、エイジも仲間と星1つ持って帰れよ」


 再び疑問が出てくる。エイジが言われていた内容だと、アメリカでの単独潜航は認められておらず、様々な書類を提出して認められた者たちだけがチームで入場できるというもの。


「聞かされていてた話と違うようですが」


 エイジが質問すると、ピーターが声を小さくして「星4以上のダイバーだけが許可を出して良いって国から言われてるんだ」と耳打ちする。

 そう言われてみると、星制度は信用の証でもあるのかと納得する。


「だったら星ってかなり重要ですよね」

「まぁな。面白そうだから仲間も許可やるよ。だから、あんま妙なことすんなよ」


 エイジはピーターの口ぶりから、外部のダイバーが問題を起こした時、許可を出したダイバーが何かしらのペナルティを受けるような仕組みがあるのではと考える。

 軽い調子で声をかけてきたように見えて、よくよく観察してみると、注意深く日本のダイバーを見ている。


「アメリカも強い人が多そうだなぁ」

「そう見える?」

「うぇっ」


 エイジが驚いて振り返ると、弾力のある何かに弾かれて体勢を崩してしまった。よろけても、足に力を入れて踏ん張り、声の主を探すと色気のある声が届く。


「あぁーん。お姉さんのおっぱい大きくてゴメンねー」

「い、いえ。ラウラさん? でしたっけ」

「覚えてくれてたのねー」


 ラウラは、もじもじと腰をくねらせながらも、大皿に山盛りのせたケーキを口へと運んでいく。

 エイジが見ても確かに色気はあるのだが、ラウラからよくわからない威圧感を感じ取ってしまう。


「ふぅん。感覚は悪くないわね。でも全然、ピクリともしないわ」


 エイジにはラウラが何を言っているのかわからない。

 ラウラは空いた手で下っ腹を撫で付け、残念そうにエイジの股間へと視線を送っている。


「お眼鏡に敵わなかったようなのでこれで」


 立ち去ろうとしたエイジだが、足を一歩動かしたところで次の一歩が出せなくなってしまう。

 足が縫い付けられたような感覚に苛まれるが、足元へ強く息を吹き付けると、地面に縛り付けていた何かが切れる。


「さっきのやっぱなし」


 一瞬浮き上がったエイジの足を、今度は締め付けるように強力な糸が縫い付ける。


「そこまでにしておけ」


 エイジも知る声が間に入り、最悪の状態は抜けられた気持ちになる。

 九鬼がラウラの肩に手を置いて制止しても、ラウラの考えは変わらない。


「ダーメ。ちょっと気に入っちゃったんだもん。それにこのくらいじゃ太子は怒らない」

「太子は良くても沙羅はキレるぞ」


 それまでラウラから発せられていた威圧感が霧散し、エイジのことなど忘れたように新しいケーキを探しに向かって行った。


「怪我はないな」

「はい。ところでラウラさんて」

「あんまり気にすんな。あと仲間が心配してんぞ」


 エイジは九鬼へと会釈し、並んでこちらを見ている3人の元へと歩いていく。

 その間、先ほどのラウラのことを考えていた。目の端に映っていたラウラの下っ腹がわずかに盛り上がっていた。


「いや、考えても意味ないか。それにしても、僕はまだまだだなぁ」

「考え込んでないで、どのダンジョンが美味い素材が取れるか現地ダイバーに聞いてみようや」


 以前と比べて頼もしくなった和樹は、飯のことばかり考えている。それが今のエイジにとってはありがたくもあった。


「さっき知り合ったばかりだけど、早速聞いてみる?」

「明日葉はフルーツを所望する!」

「薄葉は肉が良いでござる!」


 双子の意見はよく食い違う。そして始まるくすぐり合戦。


「ぶっひゃひゃひゃ」

「はぁはぁ……今回は明日葉の勝利! つまりフルーツ天国レッツゴー!」


 調子に乗った明日葉はエイジの肩に乗り、操縦するように耳を掴むと早々に操作を諦めた。


「エイジロボを自動操縦に切り替え。目的地に向けて発進!」

「はいはい」


 そうして別れたばかりのピーターを探して会場内を歩き回るエイジだった。

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