第45話

「10年前、戸部奈々子を殺したのは栗田信也の父親である栗田修三だった。


そして、栗田修三と戸部洋子は昔愛人関係にあったんだ」



《三つ目探偵事務所》のプレハブ小屋の中新田はそう言いながら、今回の事件の資料を机に投げ出した。



「栗田修三は元々女に何らかの恨みを持ってたため、『オルフェウス』と名乗る自分のサークルを立ち上げたんだ」


 ネコが、苦すぎるコーヒーを表情ひとつかえずに一気飲みする。



 冬我は、それを見て顔をしかめた。



「サークルと犯罪に結びつきは元々なかったんだが、そのサークルに入会した戸部奈々子が『オルフェウス』によって殺されたことで、だんだんと形をかえていった」



「なぜ、奈々子は殺されたんだ?」



 冬我が、口を挟む。



 新田は、幸也とチラリと目を見交わせた。



 何か、いいにくそうだ。



 そんな中、ネコが口を開いた。



「戸部洋子の携帯電話から、その理由が出た」



「洋子の?」



「あぁ。戸部洋子は、元々栗田修三が女を恨んでいると知ってわざと愛人として近づいたんだ。


女嫌いな修三に殺されること覚悟で」



「なんだと?」



「考えてもみろよ、女嫌いな修三がなぜ愛人を作ったのか……。


洋子は、サークルを広める方法を修三に教えたんだ」



「そう。マインドコントロールの方法をね」



 と、幸也が言う。



「その代り、愛人としての立場を確立した洋子は、栗田修三に妹である奈々子を殺させたんだ」



「殺させ……?」



 冬我の頭の中が真っ白になる。



なに、言ってやがるんだこいつは。



 ネコの言葉が理解できない。



殺させた?



「戸部洋子は戸部奈々子をねたんでいた。


同じように親がなく施設出なのに、一方は18になると同時に男と一緒に暮らし始め、一方の自分はいろいろな問題が重なり施設から出ることさえできなかった」


「そ……んな」



「戸部奈々子があの喫茶店で働いていることを、姉の洋子も知っていたんだ。


最後に戸部洋子は戸部奈々子へこんなメールを送っていた。


『あなたは幸せなのね。私と違って』



戸部奈々子に携帯を持たせサークルに入会させたのも、戸部洋子の仕業だ」



「そのサークルを受け継いだのが、栗田信也……」



 呟くように、冬我は言った。



「そうだ。


そして、飯田昌代もあの喫茶店に出入りし、サークルにも参加していた。


飯田昌代の携帯電話も、戸部洋子のアパートから出てきたよ」



 ネコがそう言ったとき、聞き覚えのある元気な声が響いた。



「こんにちは」



 沙耶香だ。



 首にはまだくっきりとロープの痕がついているが、気丈に振舞っている。



 後ろから、藤堂も入ってきた。



「ケツの穴の治療はどうだ?」



 新田がニヤニヤとしながら藤堂へ向けてそう聞いた、その瞬間、さっきまで幸せそうに沙耶香を見ていた藤堂が、サッと青ざめた。



「けっ……結局なにもされてなかったんですよ!!」



 慌てて否定する藤堂に、笑いが起こる。


 沙耶香を救い出した後、バスルームを調べるとそこに両手両足を結ばれ、猿くつわをかまされている藤堂を発見した。



 なぜか全身ローションを塗りたくられた状態で……。



 その時の光景を思い出して笑っていると、沙耶香の携帯電話が鳴った。



 つらい経験を共にしたが、何度もこの携帯電話を使って昌代が自分を助けてくれた。



 そう思うと、解約や機種変更をしようとは思えなかった。



 着信、《昌代お姉ちゃん》


「え……?」



 その画面表示に、何度も目をこする。



 間違いない。



 いつもと音楽と一緒にその文字が出ている。



「ネコ君、これ……」



「あぁ……最後の別れを言いに来たんだろう」



「最後の……」



 沙耶香は、ジッとその着信画面を見つめる。

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