第5話
☆☆☆
梅雨の真っ最中よりも、梅雨明けの夜の方が寝苦しい。
暗闇の中、隣で大イビキをかきながら寝ている《育ての親》に軽く舌打ちし、男はかたいベッドから起き上がった。
窓がなく、クーラーもついていない部屋の中。
唯一体温を下げるものといえば、扇風機の生ぬるい風だけ。
そんな中、男は目がなれるのを待ってから冷蔵庫へと向かった。
確か、熱を出したときに額を冷やす冷えピタがあったはずだ。
思惑通り、冷蔵庫の中には余りの冷えピタが一枚だけ取り残されていた。
男は額に冷えピタを貼付けた後、しばらく冷蔵庫を開けっぱなしにして、その冷気で体を冷やした。
しかし、最近の冷蔵庫はちょっと焦りすぎだ。
すぐにピー……ピー……っと注意音を出して『早く閉めろ!』と怒る。
ため息と共に冷蔵庫の扉を閉めた男の耳に、今度はピンポンピンポン、と聞き慣れた音が聞こえてきた。
玄関のチャイムではない、暗闇に明かりが浮き上がっている、パソコンだ。
ベッドの横にある古ぼけた机の上に、これまた古ぼけたデスクトップパソコンが置かれている。
男は、相変わらずイビキをかいている《育ての親》を起こさぬよう、そっと椅子を引いて座った。
画面には新着メールあり、の文字。
画面右下の時刻を見ると、夜中の1時過ぎだった。
けれど、こんな時間にも何かの仕事が入ってくるからこそ、できるだけ早く気付けるようにパソコンの電源は入れっぱなしにしていた。
実際には、こんな真夜中の方が仕事も入ってきやすい。
特に、夏には。
今度の仕事は金になるかならないか。
舌をチロリと覗かせて、上唇をなめた。
《件名:三つ目探偵事務所様への依頼
はじめまして、私は香織といいます。
実は、うちで飼っていた猫が先月辺りからいなくなってしまいました。
今まで家の外へ出した事のなかった子が、私が家事をしている隙に、いなくなってしまったのです。
いつか帰ってくると思っていたのですが、もう一ヶ月以上も帰ってこないので、もしもの事を考え――》
そこまで読んで、男はメール画面を閉じた。
軽く舌打ちをして拳で机を殴ると、ベッドへと潜り込む。
そこへまた、ピンポンとメールの着信音が聞こえてきたが、男はもうベッドから起き上がろうとはしなかった……。
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