第19話
つまり、それだけの力を文字の中に持ち合わせた人物。
ということかもしれない。
「かなり頭のいい人物なのかもしれないな」
「頭脳戦……ですか?」
不安そうに聞き返してくる藤堂に、
「安心しろ。お前の頭には元々期待していない」
と、新田は冷たく言い放ったのだった……。
☆☆☆
結局、紗耶香本人から色々と聞きだしてみたところで、怪しいところは見られなかった。
もしかしたら嘘をついてるのでは?
と、幸也は疑ってかかったが、時折どうしようもない天然をぶっかます紗耶香がそこまで頭を使って話しをするとも考えにくい。
「今度からは、殺人現場で恋人でもない人間とキスはしないでくれ。
怪しんだだけ時間の無駄だ」
と、ネコだけでなく幸也にまで冷たく言われ、紗耶香はふてくされてしまった。
何の情報も得られないままに飯田家を後にしようとしたとき、玄関先で紗耶香に引き止められた。
「なんだ?」
幸也は立ち止まり、振り返る。
ネコはすでに玄関を出て、大あくびをしている。
「私も、何か手伝いたいの」
一言、真剣な眼差しでそう訴えかけてきた。
「……」
幸也は返事をせずに、ジッと紗耶香をにらみつけるようにして見つめる。
この女……。
『自分が怪しい人物だと疑われていた』という意味が理解できてないのか?
昌代を殺した犯人と繋がっているかもしれない。
共犯じゃないのか?
そんな疑いを掛けられたんだぞ。
心の中でそう言いながら、紗耶香の真っ直ぐな視線に一瞬たじろく。
「お願い!
私もお姉ちゃんを殺した犯人を捕まえたいの!」
必死でしがみついてくる紗耶香に、幸也はバランスを崩しそうになる。
「だから、その犯人がお前と何か――!!」
『関係があるんじゃないかと、俺は疑ってたんだよ!!』
全部を怒鳴る前に、喉の奥で言葉を失った。
紗耶香の大きな目から、ボロボロと涙がこぼれ出したのだ。
かと思えばその場に膝をつき、両手で顔を覆って嗚咽し始める。
「お願い……私も一緒に……連れてって……」
時折嗚咽を混じらせながらも、ハッキリとそう言う。
幸也は困ったようにネコを見た。
ネコは我関せずと、眩しそうに目を細めながら青空を見上げている。
調子の悪い時だけ知らん顔か!
ネコの猫らしい性格に心の中で毒づきながら、幸也は小さなため息を吐き出した。
その場にしゃがみこみ、紗耶香の背中を叩く。
紗耶香は鼻水をすすり上げながら、なんとか顔を上げて幸也を見た。
「わかったよ。そこまで言うなら一緒に来い」
その途端、さっきまでの涙はどこへやら、紗耶香は命一杯の笑顔を浮かべて、
「ありがとう!」
と、幸也の首に両手をからめ、抱きついた。
「うわっ!」
その拍子に幸也は前へとバランスを崩し、そのまま紗耶香に馬乗りになるように倒れ込んだ。
しばしの、沈黙……。
次の瞬間、紗耶香の悲鳴と、ネコの笑い声が同時に響き渡った――。
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