第41話
☆☆☆
「催眠……!?」
新田は目を丸くして、そう聞き返した。
ここはさっきと同じ『捜査本部特別室』の中で、いい加減ぼろくなって所々から中のスポンジが飛び出しているソファに幸也が寝かされていた。
といっても、もう意識は戻っているのだが、念のためだ。
「そう。
たとえば一度何かの催眠にかかってしまったとすると、それを解除するためのカギが必要になる場合と、時間が経つと自然と効き目が薄れていく場合があるの」
そう言ったのは、最近外国から帰ってきたばかりの女刑事、原田聡美だった
それぞれの被害者の、唯一の共通点がそこだった。
欠けた部分。
つまり、欠点だ。
その欠点に付け込み近づき、殺した……。
冬我は、硬く目をつむって唇をかみしめた。
「けど、戸部奈々子の行動範囲は限られていた。
アルバイト先とアパート、それからスーパーくらいなものだろう」
「……あの喫茶店で誰かに会った可能性があるのか?」
「そう考える事が一番妥当だろうな」
事件の解決方法としてプロファイリングなどを用いて、新田の疎い(うとい)分野で活躍していた。
「それで、その催眠とやらになんで幸也が?」
「一通りの話しを聞いただけだけど、やっぱり幸也君の所属しているサークルが怪しいと思うわよ」
聡美の言葉に、新田が幸也を見た。
幸也はただぼんやりと薄汚れた天井を眺めている。
ネコが答えるが早いかどうか、冬我は車のキーを握り締めて立ち上がった。
「喫茶店に行く」
「今もまだ営業してるのか?」
「そんなもん知るかっ!」
考えるよりも行動が先だ、さっさとプレハブを出る冬我の後をネコがゆっくりとついて行った……。
「さっき見せてもらったメールだけど、添付されている『オルフェウス』というロゴは毎回張られているのよね?」
聡美が中腰になり、ソファに寝転がっている幸也と同じ視線になる。
人を見下さないようにする配慮は、さすがによくできている。
そんな聡美に、幸也が視線をうつす。
彼女の茶色の髪は、手入れを怠っているため少しぱさついていた。
「あぁ……」
一言だけの幸也に、聡美は笑顔を見せて「そう、ありがとう」と言った。
☆☆☆
体が痛い。
頭がクラクラとして、視界がぼやける。
遠くで、聞こえる。
水の音?
誰?
誰かが、私を呼んでいる。
知ってる声……。
沙耶香は体を揺さ振られ、ハッキリと意識を取り戻した。
そしてまた立ち上がると、今度は新田へ向けて、
「例えば、このロゴを見た時に『最初の催眠状態へ戻る』という催眠をかけられていたとすると、いつまで時間が経っても誰かにコントロールされた状態から抜け出すことはできない」
と言った。
「つまり、二重の催眠か……」
そう呟き、新田は眉間のシワに指を当てた。
「ねぇ、幸也君。問題はあなたがどこで催眠にかかったか、なのよ」
「……サイトに登録する時」
いつの間にかベッドの上に寝かされていて、目の前には栗田の顔があった。
「栗……田君」
か細い声が出る。
栗田はニッコリといつもの笑顔を見せて、沙耶香の頭をいとおしそうに撫でた。
「ここは……どこ?」
見たことのない部屋。
知らない匂い。
体を起こそうとしたけど、力が入らなかった
「え?」
「画面が、チカチカして……。その時くらいしか、心当たりはない」
聡美は、新田を見た。
新田は一つ頷き、「その画像の解析を頼む」と、言った。
聡美が慌しく出て行くと、部屋の中はシンと静まり返る。
眉間にシワを寄せたまま「ここまで来るとオルフェウスが殺人事件に関わっている可
能性が高いな」と呟き、おちつかないように部屋の中を歩き回る。
そんな父親の姿に、幸也はゆっくりを体を起こした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます