第24話

「あぁ! 何するんですかっ!」



「呑気に昼飯なんか食べてる場合か、行くぞ!」



「行くって、どこにですか?」



「専門学校だ」



「へ?」



「もたもたすんな!」



 人の箸を踏みつけ何の説明もなしに、藤堂のデカイ体を引きずり部屋を出る。



「なんなんですかっ!? まだご飯がっ!」



一口でもいいから!



 と、手足をばたつかせてもがく藤堂。



 そんな藤堂の首根っこを掴んでいた新田は不意に立ち止まり、その手をパッと離した。



 ゴンッ!



 鈍い音がして、床に頭を打ち付ける藤堂。



 声も上げずに悶絶する藤堂に冷たい視線を投げかけながら、


「運がよければ沙耶香ちゃんに会えるぞ」


 と言う。



「へ!?」



『沙耶香ちゃん』その単語を聞いた瞬間、情けなく涙をうるませていた藤堂の瞳が、パッと輝き始めた。



「本当ですか!?」


「あぁ。


今から行くのは飯田沙耶香の通っている専門学校だ」



「それを早く言ってくださいよぉ」



 そう言いながら、すでに鼻の下がビローンと伸びきっている。



 わかりやすいにもほどがある。



「行くぞ」



 半場呆れながらも、新田は歩き出した――。


 助手席でタバコをふかしている新田へ、


「どうして急に専門学校なんかに?」


 と、藤堂が聞いた。



 さっきまでの空腹感はどこへやら、今は爽香に会えることで胸も腹も一杯らしい。



「オルフェウスだよ」



「オルフェウス?」



「あぁ。


オルフェウスは飯田昌代が殺されるのとほぼ同時に、B・P専門学校への侵入捜査をサークルメンバーに送りつけていた」



「えぇ。


だからオルフェウスに近づくためにサークルに登録しましたよね」



 キョトンとして言う藤堂に、新田は一つ頭をコヅイてやった。


 ハンドルがあらぬ方向へ向いて、周りからクラクションが鳴らされる。



「ヤツからのメールはいつ来るかわからない。まったりのんびり、牛丼を食べながら待つやつがいるか」



 新田の嫌味な言葉がイチイチ胸に突き刺さる。



 まったりのんびり、牛丼食べながら待ってたのは事実だけれど。



 それならそうと叩く前に言葉で言ってもらいたい。



「専門学校へ行って、何かわかりそうなんですか?」



「さぁな。


けど、ヤツからのメールの《悪魔》ってのが気にかかる」



 幸也に送られてきた捜査命令のメール内容のことだ。



 これは藤堂も話を聞いているので知っている。


「本当に悪魔がいたら大変ですね」



 真剣な表情でそう言う藤堂に、新田は首を傾げる。



「沙耶香ちゃんが悪魔に取り殺されてしまうかも!」



 本気でそんな心配をしている藤堂は強くアクセルを踏んだ――。


☆☆☆


 藤堂に余計な心配をされている沙耶香は、山の中を歩きながら大きなクシャミを一つした。



「大丈夫か?」



 沙耶香の前を歩く冬我が振り返る。



「大丈夫です」



 そう返事をしてから、軽く身震いをする。



 寒くもないのに鳥肌が立つ。



 それが藤堂のせいだとはつゆ知らず、警戒するように周囲を見回した。


 足元は悪いが、歩けないほどではない。



 最初は車も通ることが出来たらしいこの道は、所所にその名残のガードレールが目に入った。



 もっとも、アスファルトが敷かれていないのだから、ガードレールと言っても木を組み合わせたものだが。



「そういえば、冬我さん」



「なんだ?」



「ネコさんから聞いたんですけど……あの.……」



 自分で声をかけておきながら、口ごもる沙耶香。


「どうした?」



 また振り返り、優しい口調で質問を促す冬我に、沙耶香はちょっと困ったような表情を浮かべた後、


「聞いてもいいですか?」


 と言った。



「あぁ、なんでも聞いてくれ」



「どうして……子供を拾ったんですか?」



 沙耶香の言葉に、冬我より前を歩いていた二人が同時に足を止めた。



 幸也は振り返り、ネコは何事もなかったかのように歩き出す。



 だけど、ネコのまわりの雰囲気が少しだけ変わったきがした。



 冬我はまいったな。というように頭をかき、それから、


「まぁ、話せないことでもないが……」


 と、無言で歩いていくネコの後ろ姿に目をやる。

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