第46話
「取ってやれよ。じゃなきゃ飯田昌代も安心して光の道を登れないだろう」
ネコの言葉に、沙耶香はひとつ大きく頷いた。
そして、……通話ボタンを、押す。
その瞬間、部屋の中がパァッと光に包まれた。
眩しいが、柔らかくて暖かな、そして懐かしいような光。
「お姉ちゃん……」
全員を包み込む光の中心に、昌代の姿があった。
穏やかな表情で、口元は軽く微笑んでいる。
「お姉ちゃん!!」
沙耶香が、昌代に抱きついた。
昌代はそれを優しく受け止め、沙耶香の頭を撫でた。
暖かく、甘い昌代の香りがつたわってくる。
「ありがとう、沙耶香」
響くような鈴の音色で、昌代がそう言った。
沙耶香はブンブンと強く首をふる。
涙が、両目からこぼれおちた。
昌代が、他の面々を見て、軽くおじぎをした。
腕の中から沙耶香を離し、昌代が手の甲で涙をぬぐうと心の中にポッと火が灯ったように温かくなる。
「さようなら……」
昌代の体が、フワリと浮かび上がる。
「お姉ちゃん、さようなら、ありがとう」
沙耶香が元気よく、天へ上る昌代へ向けて、手をふった……。
☆☆☆
それから数ヶ月が経っていた。
季節は秋。
首の傷はもう言えたけど、今の所男という生き物を信用しようとか、頼ろうとか、思えない。
一応、約2名さまから時々デートの誘いが来て遊んだりもするけれど、どちらも刑事だの警部志望なので危険がつきもの。
それ以外からの誘いは、中学時代同様断り続けている。
「寒……」
落ち葉が降る並木で、沙耶香は軽く身震いした。
今日は、警部志望の幸也との約束がある日だ。
舞い落ちる葉を見ていると、当の幸也が足早にやってくるのが見えた。
軽く手を上げる爽香に対し、真剣な表情の幸也。
「どうしたの? 今日は映画――」
「予定変更。三つ目探偵事務所に行こう」
沙耶香の言葉を遮る幸也。
「へ?」
目を丸くする沙耶香の手をとって、幸也は車へと歩き出した。
「前の事件で関連していた喫茶店で殺人が起きた」
「へ!?」
「被害者はオルフェウスの一番弟子で逃亡中だった桜ルカ(サクラルカ)だ。
第一発見者は『画面のひび割れた携帯電話に導かれた』といっている」
「ちょっと待ってよ! その事件はもう解決したでしょう!? オルフェウスも逮捕されたし、お姉ちゃんの魂だって――」
「
あぁそうだ。だけど、じゃぁなぜ桜ルカは殺されたんだ?」
「それは……」
「今回はサークルのことばかりを追い掛け回していたから、見逃したんだよ。
『喫茶店』という繋がりを」
「でも、あの喫茶店は私も行ってたわ! あそこで栗田君と出会ったんだから!」
「あぁそうだ。だからこそ、君も狙われたんだ。サークルに入会していなくてもね」
「そんな……」
沙耶香は半ば強引に車に乗せられると、混乱する頭を抱えたのだった……。
エピローグ
蒸し暑い夏が過ぎ、過ごしやすい秋が来た。
今回の事件のおかげでエアコンを買うことができたので、今年の冬は快適に過ごせそうだ。
「おいネコ、また仕事が入ってるぞ」
「なんだよ」
「《迷子の子犬を探してください》」
そう言い、意図の間違えたメールの消去する冬我。
ネコは苦いコーヒーを一口飲み……、バンッ!と突然入ってきた幸也と沙耶香に、驚くことなく目を向けた。
「頼む……」
幸也が、息を切らしながら言った。
「お前の、三つ目の目の能力が必要なんだ――!!」
19の夏――、
俺たちは、出会った。
そして、
私たちの事件は、
まだまだ、
終らない――。
19の夏~私の愛した殺人鬼~ 西羽咲 花月 @katsuki03
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