第27話

☆☆☆


 冬我が、ネコとの出会いのストーリーを語ってる最中、新田と藤堂はB・P専門学校の門を潜ったところだった。



 専門学校に連絡は入れていなかったものの、40代半場のよく太った教師に警察手帳を見せると、何も言わずに通してくれた。



 藤堂はその様子を横目で見て、自分の持っている警察手帳の偉大さにようやく気付いたのだった。


 学校は3階建てで、1階は資料室、教務室、小さいながらの体育館、デスクトップがズラリと並ぶパソコン教室などの共同教室でしめられていた。



 階段で2階へと上っていくと、まず目に入るのが果てしなく続く真っ白な廊下だった。



 いや、チリ一つ、シミ一つない白のせいで果てしなく続くように見えている、廊下だ。



 その白さが反射して目が痛む。



 上を見るとポツンポツンと小さな蛍光灯が居心地悪そうに付けられていて、廊下が白いのは蛍光灯節約のためなのだと知る。


「行くぞ」



 昼休憩中の学生たちから好奇の視線を浴びながらも、新田と藤堂は歩きはじめた。



 歩きながらも、藤堂はキョロキョロと周りを見回し、落ち着かない。



 沙耶香を必死で探しているのがバレバレだ。



「少しは落ち着け」



 そう言い、新田にコブシを落とされて、ようやく落ち着く。



 新田は普通に歩きながらも、廊下に出ている生徒たちの顔を一人一人真剣に頭へ叩き込んでいく。



 オルフェウスからの指示。



《悪魔だ》の言葉。


 もちろん、顔を見ただけで誰かを《悪魔》だと決め付けるようなことはしない。



 しかし、《悪魔》と呼ばれるだけの何かがあるはずだった。



 二階と三階とひと通り歩きまわっていると、藤堂がだんだんと気力をなくしたような表情になっていくのがわかった。



「なんてなさけない顔してるんだ」



 と小声で藤堂のわき腹をつつく。



「新田さん、沙耶香ちゃんいませんよ……」



 歩けど歩けど沙耶香の姿は見えない。



 藤堂はそのことばかりを気にしているようだ。


「そんなに気になるならその辺の学生にでも沙耶香ちゃんのことを聞いてみればいいじゃないか」



 新田は藤堂の相手をするのがおっくうになり、適当なことを言う。



 しかし、それを真に受けた藤堂はパッと瞳を輝かせて


「そうします!」


 とすばらしくいい返事をすると共に、どこかへ賭けていってしまった。



「おい、藤堂!」



 後ろから新田が大声で呼びかけても、その声はすでに藤堂には届かなかった……。


 新田の言葉を真に受けて走り出した藤堂は、立ち止まりキョロキョロと辺りを見回していた。



 沙耶香がどこのクラスの生徒なのかわからないわけだから、誰に聞けばいいのかわからない。



 けれど、19歳という年齢を考えればきっと一年のクラスだろう。



「おじさんさぁ……誰ぇ……?」



 一年の各クラスの前の廊下をウロウロと歩いていると、一人の生徒に声をかけられた。



 振り向くと、そこには男にしてはちょっと小柄で、ブルーの瞳の青年が立っていた。


 カラーコンタクトだろうが、強くひきつけられる目をしている。



 服装は今時の若者らしく、ダボッとした大き目のTシャツを着ていて、ダルそうに見える。



「誰?」



 その青年にもう一度聞かれて、藤堂はようやく口を開いた。



「あぁ。実は、人を探しててね。飯田沙耶香ちゃんってこの学校の子だよね」



「おじさんさぁ……人の質問聞いてる? 誰って言ってんのぉ……」



 青年はガムをかみながら、口元に微かな笑みを見せて言った。


 その態度に不快感を覚えながらも、藤堂はスーツの内ポケットから警察手帳を取り出し、青年に突きつけた。



「警察だ」



 青年は近すぎる警察手帳に目を寄り目にしながら、


「で……? なぁに?」


 と聞く。



「だから、飯田沙耶香ちゃんを探してるんだよ」



 自分よりも背が低く、年齢も下の男にここでナメられたくない。


 その思いから、どうでもいい所で巻き舌を使ってしまう。



「飯田沙耶香ねぇ……。可愛くて有名だよねぇ」



 ハハハッ! と、何がおかしいのか声を上げて笑う。

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